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5ページ 禁じられた魔法

 マズい。非常にマズい。

 禁じられた魔法ファルセット・マジックには他者の命や魔力を利用する魔法もある。

 俺は自慢じゃないが他の魔法使いに比べるとかなりの魔力を保有している……。

 どう考えても嫌な予感しかしなかった。

 助けた理由がそれしか思いつかない。

 俺の命、もしくは魔力を利用するつもりだ。



 逃げたい。今すぐ逃げ出したい。

 しかし主導権は全て向こうにある。

 下手な抵抗はきっと無意味だろう。

 かといってこのままじゃ利用されて終わり。

 完全に詰んだこの状況に俺はただただ絶望するしかなかった。


 愕然とする俺にシーナは何かを察したのか、満面の笑顔で声をかけてきた。


「ああ、安心して。左腕は後で戻してあげるから。アンタなら知ってると思うけど、こう見えて私禁じられた魔法ファルセット・マジックをコンプリートしてるの。復元魔法も使えるから大丈夫よ」


 きっと状況を呑み込めてない俺を気遣ってのことだろう。

 安心させようと体の心配をしてくれるのはなんともありがたいことだ。

 けど、その内容があまりにもぶっ飛んでいたことに俺は心の中で大声で叫んでいた。


 いやいや、全然大丈夫じゃねぇよ!!!コイツ復元魔法が何を代償にしてるのかわかって言ってるのか!?魔力だけじゃないんだぞ!!生命エネルギーも同時に消費するんだぞ!!


 生命エネルギーとはつまり寿命のこと。

 それを平然と他人である俺のために差し出すと言ってるのだから正気じゃない。

 やっぱり何かある。

 何が狙いかはわからないが、寿命を縮めてまで俺の腕を治すということはきっと俺を何かに利用するつもりだ。


 どうする。どうすればいい……。


 必死に考えてみたが、魔法を使えない俺には何がどうなったところで無理だということだけはわかった。


「じゃあ取り敢えず近くの街に行きましょう。あまり長居してても危険なだけだしね」


 そう言って移動を始めるシーナに俺はもう一度慌てて呼び止める。


「待って! もう少しだけ待ってくれ!!」


「もうさっきから何なのよ!? 言っとくけど、アンタ私以外の光裏教会全員から命狙われてんのよ。その辺少しは自覚しといた方が良いんじゃない?」


 マジで?

 さすがに全員から命を狙われているとは思ってなかった。

 じゃあやっぱり疑問に思うのはどうしてシーナが俺を助けたのかってことになるんだが。


 俺が不思議そうにシーナを見ているとどうやら向こうも察してくれたようだ。


「その辺の説明もしてあげるからとにかく移動するわよ」


 しかし心の準備がこれっぽっちも整っていない。


「ま、待って! もうちょっと……!」


「うるさい! 却下!! それ以上うだうだ言うなら魔法を解くわよ」


 シーナのシンプルな脅しに俺は何も言えなくなった。

 丁度俺たちの足元の水面を、巨大な影が通り過ぎる。

 おそらく大型の水中生物だろう。

 餌にだけはなりたくないと心底思った。

 結局俺に選択肢なんてものは存在せず、ただシーナの言う通りに従うしかなかった。







 俺はシーナと共にとある山奥へと降り立った。

 そこは見渡す限り緑で覆われた辺境の地。

 周囲を自然に囲まれた場所にその街はあった。

 こんな所になんで街なんてあるのか疑問に思える場所だが、理由はこの場所で発見されたダンジョンにある。



 ここでは光属性の初級魔法『ルミネ』を習得することが出来る。

 それは子供でも覚える事が可能なお手頃な魔法で、老若男女に人気があった。

 おかげでここは今やちょっとした観光スポットになっている。

 簡単に歩いて来られる場所じゃないが、それでも多くの人で賑わいを見せていた。



 街の入り口近くで行き交う人々を眺める俺に、隣にいたシーナが羽織っていた白いローブを手渡してきた。


「さすがにその状態だと目立つでしょ。これを貸してあげるから隠しときなさい」


 確かに多くの人がいる前で不自然に左腕の無い魔法使いは目立ちすぎる。

 命を狙われている以上目立つようなことはしない方が良い。

 俺はシーナに言われた通りにローブで身を包んだ。


 そして女の子の甘い香りに思わずドキリとしてしまう。

 思わず顔に出てしまったのか、俺を不思議そうに見ているシーナ。

 俺はそれを悟られまいと、強引に話を振った。


「どうしてこの街に来たんだ? 近くならもっと別の場所があっただろ?」


「簡単よ。なるべく光裏教会の本部から離れた場所に来たかったし、何より私の魔力がそろそろ限界だったしね」


 そりゃあ、あれだけの魔法を使っておいて、それでまだ元気があったなら化け物だよ。


「何か言いたそうな顔ね」


 シーナが睨むようにこっちを見て来た。

 俺は慌てて視線を逸らす。


「いや、別に」


「ふーん、ならいいけど」


 シーナは特に気にする様子も無く視線を街へと戻した。


「で、これからどうするんだ? 色々聞きたいことがあるんだけど」


「そうね。こっちも話したいことは山積みだし。じゃあ、まずは宿で休みましょうか。さすがに疲れたわ」


 シーナはうーん、と大きく伸びをする。

 そしてそのまま街の中へと入っていく。

 俺はシーナの注意がこちらから逸れているのを確認すると、街とは反対にそろりそろりと一歩ずつ後ずさる。

 聞きたいことがあるのは確かだったが、今は逃げる事が何より優先だ。


 そしてある程度距離を取ったところで俺は全速力で駆け出そうとして、そして失敗した。


 地に足がついていない。

 僅かに浮いた状態。

 いくら足をばたつかせても当然前には進まない。


「まさか!?」


 俺は慌てて振り返る。

 そしてシーナがこちらを見もせずに手を振りながら街の中へと消えていく姿が見えた。

 同時に俺の耳に響くシーナの声。


(そのローブは持ち主から離れると自動的に戻ってくるようになってるから、逃げようなんて無駄よ。本当はローブを失くさないための補助的な機能だけど、人に着せておけば逃げられずに済んで丁度いいのよ。ちなみに今のアンタじゃ絶対に脱げないから諦めることね)


 余裕たっぷりにシーナは俺にそう告げる。


「あんにゃろう。ローブを着せた本当の理由はそっちかよ! 少しでも気が利くと思った俺が馬鹿だったよ! この性悪女め!!」


(人のローブを羽織って変な妄想に浸ってる人間に言われたくないわね)


 どうやらローブを羽織った時にドキリとした俺のことを盛大に勘違いしているようだ。

 このままでは変態の烙印を押されかねない。

 きちんと訂正しようと思ったが、シーナの声はもう聞こえなくなっていた。

 いくら叫んでも返事は無い。

 ……イラ。



 女相手にいいように扱われている自分に腹が立った俺は、絶対にこのローブを脱いで逃げてやると心に誓った。



 そして一通りの抵抗が無駄だと気付かされた俺は、ぷかぷかと浮きながら街の中へと入っていく。

 ローブは力無くうなだれる俺を嘲笑うようにして、自らの主人の元へと俺を届けた。


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