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37ページ 木の棒

「ねぇ、ちょっと教えて欲しいんだけど」


「何か思いついたのか?」


 あれから俺たちは他に脱出方法が無いかを徹底的に調べることにした。

 ドラゴンがいないおかげで余裕を持って探すことができたし、時間はまだまだある。


「あの転移魔法陣って、どういう仕組みで動いてるの? 乗るだけで魔力の消費もなく魔法が発動するなんて、その原理が知りたいんだけど」


 シーナが指摘したのは石造りでできた床に刻まれた転移魔法陣。

 乗るだけで指定されている場所に一瞬で移動できる便利なもの。


「ああ、それだったら精霊の加護のおかげだな」


「精霊の加護?」


 聞いたことがないのか、シーナは首を傾げながら俺の言葉を繰り返した。


「精霊が無償で力を貸してくれてることを精霊の加護って言うんだ。そもそも魔法を発動させるには魔力を代償にする必要がある。もっと細かく言うと、精霊に魔力を捧げて魔法を発動して貰っている。けど、精霊の加護は違う。代償にするものを必要とせずに魔法を発動させることができるんだ」


「なるほど、つまり精霊がタダ働きしてくれてるってことね」


「力を貸してくれている相手にその例え方はどうかと思うけど、まあ概ねそんな感じだ」


「ふぅん、精霊の加護ねぇ」


「それがどうかしたのか?」


「まあ、精霊が関わってるならなんとかなりそうかなって」


「どう言う意味だよ?」


「この辺に魔力を含んだ細い棒はないかしら」


 シーナは俺の言葉を無視して突然周辺を探し始める。


「魔力を含んだ?」


「ええ」


「魔石みたいなもんか?」


 魔石は魔力を宿した特殊な石。

 魔法使いの魔力回復なんかに使われたりする希少な魔道具の1つだ。


「いえ、できればしなやかで細い棒状のものがいいんだけど。魔力もごく微量でかまわないし」


「そんなもの探してどうするんだ?」


「見つけてからのお楽しみよ……。あ、あれなんていいじゃない!」


 シーナは壁の隙間から生えていた枯れた木の枝に駆け寄った。

 ダンジョンや神殿のような特殊な環境で育った植物には僅かだが魔力を含んでいるものもある。

 シーナはそれを手にするや否やポキリと折った。

 そしてそれを無造作に振って何かを確認している。

 長さはシーナの手首から肘程度で、小指ぐらいの細さ。

 シーナは枝のささくれた部分を壁に擦り付けて凹凸を減らすと、滑らかな一本の杖のようなものを作り出す。


「ま、無いよりはマシかしらね」


「どうするつもりだ?」


「聞かれても答えられないことよ」


 俺の疑問にそれだけ告げるとシーナは木の枝を流れるように振ってみせる。

 枝の端を指先で摘むようにして持ちながら、先端で絵を描くように奔らせた。


「osservanza」


「ん、今なんか言ったか?」


「ただの独り言よ、気にしないで」


 シーナは更に2、3度枝を振ると、自分が振った場所をじっと見つめていた。

 周囲には目を凝らさなければわからないほどの微細な光が点在している。

 おそらく精霊のものだろう。

 直感でそれはわかっても、シーナが何をしているのかはさっぱりだった。


「ふむふむ」


 シーナは小さく頷くと、最後に、


「ありがとう」


 感謝の言葉を口にした。

 そして同時にシーナが持っていた枯れた木の枝は、更にその身を枯らしていき、やがて塵となり風に流されて消えてしまった。


「こっちね」


 さっぱり付いていけない俺に構うことなくシーナはスタスタと歩き始める。


「おい、何かわかったなら教えろよ」


「まだ確証がないからちょっと待ってちょうだい」


 シーナは少しの間黙って歩き続けると、ある場所で立ち止まった。


「あ、あった!」


 それは転移魔法陣を作動させるための石板があった場所とは真反対に位置する壁際。

 シーナの足元にはあの石板と全く同じ魔法陣の刻まれたものが岩陰から顔を覗かせていた。


「おい、どうしてこれがここにあるってわかったんだ?」


「精霊に聞いたのよ」


 さも当然のように答えるシーナだが、精霊に聞くだなんてそんな話聞いたこともない。


「聞いたって、お前、精霊と話せるのか?」


「さすがに会話のようなコミュニケーションは無理よ、わかるのは精霊が持つ思念のような曖昧なものだけ」


 シーナは謙虚に話しているが、それだけでも十分すごい事だと思うのだが。


「さっきの棒が関係あるのか?」


 俺はシーナが振っていた木の枝を思い出す。


「さぁ、それはどうでしょうね」


 思わせぶりに話すシーナに俺は考えるよりも先に理解する。


「そこから先は言えないってことか」


「わかってもらえて助かるわ」


 俺は精霊の思念とやらに興味が湧いたが、シーナの性格からしてこれ以上聞き出すことは困難だろう。

 なのでそれは諦めてさっさと脱出する方法に考えを巡らせる。


「で、これをどうするんだ?」


「さあ……」


「さぁ、って、わかってるからこれの場所もわかったんじゃないのか?」


「私がわかったのはこの石板の場所だけ。それ以外は知らないわ」


「まあ、単純に考えれば同じものが2つ、となると」

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