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2ページ 荒れ狂った精霊の刃

 フィーネは俺とは対照的に緑一色の魔法書を開くと歌うように詠唱を始めた。

 流れる詠唱句に呼応するようにして周囲の風は徐々にフィーネへと吸い寄せられていく。

 詠唱者を中心に渦を巻く風は次第に激しさを増していった。


「フィーネ」


 俺はただ呆然とかつての仲間の名前を呟くことしかできなかった。

 理由はわからない。

 けど今のフィーネが完全に俺の敵だということはわかった。

 深く考えるのは後にしよう。

 俺はフィーネの魔法に備えて自分の魔法書を手に取った。

 そしてその色を見て思い出す。


「やばい、俺って今初級魔法使い以下なんだった……」


 つい癖で魔法書を手に取ったはいいが、今の俺にとって魔法書は単なるお飾りだ。

 なんの意味もない。



 ヤバイヤバイ、普通にヤバイ……! 魔法が消えたことをさっき話したおかげで、向こうは余裕を持って俺を攻撃してくるはず。



 俺は慌てて魔法書を収めたホルスター、その反対にぶら下げているポーチの中を漁った。

 中にはいくつかの魔道具がある。

 魔法が使えなくてもそれをサポートするためのアイテムならいくつかあった。

 あとはフィーネの魔法を先読みしてそれに合わせて対応する。

 詠唱からある程度予測することは可能だから、あとは魔法の隙をつけばいい。

 それでどうにかなるかはわからない。

 けど今の俺にはそれが自分の出せる全力だった。

 さっそくフィーネの詠唱からどの魔法なのかを探ってみる……。



 ふむふむ……、なるほどね。

 俺は何の魔法なのかを理解してただただ絶望した。

 それは四大大魔法の一つ。

 失われた魔法(ロスト・マジック)だったから。


 あいつ!!! 魔法が使えない相手に四大大魔法とか卑怯すぎんだろ!!


 四大大魔法の威力は十分過ぎる程知っている。

 魔道具でどうこうできる代物じゃない。

 ここにいたらマズい!



 俺は急いでダンジョンの奥へ逃げようと走り出そうとしたが、しかしその直前、フィーネが詠唱を終えて慌てて立ち止まった。

 どの魔法を発動させようとしているのかわかってしまったから。

 それは存在する全ての魔法の中で効果範囲が一番広い風魔法。

 ダンジョンにいる以上逃げ場なんて存在しない。

 何故なら風の通る道全てが効果範囲だから。


「くそったれ……!」


 舌打ちしながら俺は一目散にさっきまで自分がいた奥の燭台へと駆け出した。


「申し訳ありませんが、ラスタ様に最終魔法オールデリートを習得させるわけにはいかないんです。誠に残念ではありますが、ここが貴方様の旅の終着地です」


 フィーネは続けて発動させる魔法の名前を口にした。


「ロスト・ワルツ!!」


 フィーネがそう叫んだ途端、莫大な魔力が体内から消失するのがわかった。

 そして発動された魔法が形となってその場に顕現する。



 それは荒れ狂う千本の風の刃。

 あらゆるものを切り刻み、その場で原型を留めるものは不可能なほど。

 刃が行き場を求めて駆け巡る。


 俺は燭台の陰に隠れながら死の風が過ぎ去るのをひたすら待った。

 他の燭台や石柱がバラバラ切り刻まれる音が耳に響く。

 しかし今のところ俺のいる場所を風の刃が通る気配はない。



 それは一か八かの賭けだった。

 どんな魔法にも弱点はある。

 この場における風魔法の弱点。

 それは風のない場所ではその魔法の効果範囲に入らないということ。

 どんな魔法でもそうだが、無から魔法を作ることはできない。

 魔力とその場にいる精霊の力を借りて魔法は作られている。

 そして、風の無い場所に風の精霊はいない。



 しかしだとしても、俺の今いる場所が確実に安全だという保障はどこにもなかった。

 さっきまで暖をとっていた時に風を感じなかったな、その程度。

 そもそも完全にそこに精霊がいない保証なんてどこにもない。

 ただその可能性があるに過ぎない。

 少しでも精霊がいれば魔法は発動し、俺の体は切り刻まれる。

 唱えた魔法が失われた魔法(ロスト・マジック)だから、一匹でもその場にいれば命の保証はなかった。


 ヒィン!!


 鋭利な刃が固い物を斬る時に奏でる独特の音が俺の耳にひたすら響く。

 風の刃がダンジョンを支える石柱と燭台を切り刻んでいる音だろう。

 ガラガラと崩れ落ちる何本もの石柱の音も聞こえてくる。

 やがて崩れ落ちてきた瓦礫をも切り刻んでそれでも刃は止まる気配が無い。

 暫く空気だけを切り裂く音がその場を支配し、やがて荒れ狂った精霊の刃は飽きたようにその姿を消していった。



 俺の視界に映るのは瓦礫の山ばかり。

 ダンジョンの奥へ進むための通路も塞がれていて、その先もおそらくは……。



 そして肝心の俺の体はというと……、左腕が無くなっていた。


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