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15ページ 人質の価値(1人目)

「人が心配して様子を見にきてみれば結局そういうこと」


 振り向くまでもない。

 あの女だ。

 ベビードラゴンがシーナの手を必死に振りほどこうと、苦しそうにもがいてる。


「おい、いきなり何すんだよ!!」


 俺はベビードラゴンを助けようとシーナに詰め寄るが、しかしこの女は信じられないことにまるでゴミを捨てるようにしてベビードラゴンをポイッと投げ捨てた。


「ほら、あっち行ってなさい」


 そしてシッシッ、と手を振ってベビードラゴンを追い払う。

 怯えるようにシーナから逃げるベビードラゴン。

 そして俺に向かって悲しそうに鳴きながら、ベビードラゴンはとぼとぼとダンジョンの奥へと消えて行ってしまった。


「あぁ、俺のベビードラゴンが……」


 悲しみにくれる俺の頭上からシーナの冷たい声が降って来る。


「ドラゴン種が持つ防御魔法無効化の特性をまさかベビードラゴンを使って利用しようなんてね。リンカーで操れる程度のモンスターなら問題ないと思った私が甘かったわ。ま、肝心のドラゴンが炎を吐けないんじゃ意味ないけどね」


 シーナは俺の腕に巻かれた魔道具を見ながら感心しながらも呆れるように言い放ってくる。


「少しでもあんたの言葉を信じた私が馬鹿だったわ」


 そしてシーナは俺には見向きもせずに神殿へと続く転移魔法陣に向かって歩き始めた。

 俺の意思を無視してローブがシーナの後を追う。


「待てって! 話を聞けって!」


「却下よ。もうあんたのこだわりなんて無視。無理やりにでも魔法を集めてもらうから覚悟しなさい」


「俺を無視してダンジョン攻略はできないぞ!」


「攻略が危険とは言っても禁じられた魔法ファルセット・マジックを使えばなんとかなるでしょ。時間もないんだし初めからこうしておけばよかったのよ」


「おい、ダンジョンはそんなに甘いもんばっかじゃねぇよ! いいから降ろせよ!」


「嫌よ。悪いけどここから先は私の指示に従ってもらうから。あんたのこだわりもここまでよ」


 当然のようにそう言ってのけるシーナだが決して俺はコイツと仲間になったわけじゃない。

 助けられた恩人であることに変わりはないが、その後は殆ど拉致に近い状態だ。

 この女の身勝手さには正直俺のイライラも我慢の限界に近い。

 これ以上こいつの好きなようにさせるのはごめんだ。

 そっちが強引に事を進めるつもりなら俺にも考えがある。



 俺はポーチの中からもう1つのリンカーを取り出した。

 割った1つを自分の手首に。

 そしてもう1つを目の前を歩くシーナの首に巻き付けてやった。



 リンカーが取り付いたのを確認して俺は一気に魔力を流し込む。

 これはモンスター用に作られた魔道具だから人間相手に使ったところで拒否されるのがオチだ。

 けど従わせることは無理でも相手を怯ませるぐらいには効果はある。


「……っ!?」


 シーナが崩れるようにして地面に膝をついて首に巻かれたリンカーを慌てて剥ぎ取った。

 苦悶の表情を見るにどうやら作戦は成功したようだ。

 突然他人の魔力が自分の中に流れてくれば強烈な目眩と吐き気に襲われる。

 貴重なリンカーをこんなことで使いたくはなかったけどこの女には一度ぎゃふんと言わせる必要がある。



 接続に失敗したリンカーはもう使えない。

 おかげで残りはあと一個。

 リンカー自体はとて高価な魔道具のため、今後のダンジョン攻略にかなりの影響が出そうだった。


「やってくれるわね」


 まだ立つことは出来ないのか地面に手を着いたままシーナが鋭い視線を俺に向けて来た。


「命の恩人で感謝はしてるけど、やっぱりお前のことは好きになれそうにないな」


「……それは私も同じね」


「理由も話さず人の魔法集めに首をつっこんで好き放題やってくれて。いい加減俺も我慢の限界だよ」


「あんたには悪いとは思うけど私にも色々と事情があるのよ。言うことを聞いてもらえないなら容赦はしないわ。こっちはあんたが生きてさえいればその体がどうなろうと構わないしね。左腕一本とは言わず、いっそ両手両足切り落として物理的に逃げれなくしてあげましょうか」


 シーナが物騒なことを口走りながら立ち上がる。

 そしてローブの中から黒一色の魔法書を取り出した。

 怒りの表情からどうやらかなり本気のようだ。


「お前の事情なんて知ったことか。俺だっていい加減お前のその傲慢な態度にうんざりなんだよ。そっちがその気ならこっちもやってやるよ」


 魔法書を開くシーナに対して俺はポーチの中に手を突っ込んだ。


「魔法を使えないくせに私を相手にどうにかできると思ってるの?」


「お前こそあんまり魔法コレクターを舐めるなよ」


「舐めるもなにもあんた魔法が使えないじゃない」


「使えなくてもコレクターとしてのこだわりはある」


「またそれ。そんなに1人で集めることになんの意味があるの?」


「お前にはわかんねぇよ」


「でしょうね。魔法コレクターって変人が多いって聞くけどやっぱり理解できそうにないわ」


「確かに魔法コレクターって呼ばれる人種はお前ら一般の魔法使いからしたら変人として映るだろうよ」


「そこは認めるのね」


「魔法集めに関して言えばな。そもそも大抵のコレクターは1人1人がこだわりを持って魔法を集めてる。誰にも理解してもらえないものもある。コレクター同士ですら理解できない時もあるからな」


「それで? あんたの場合は何がなんでも1人でコンプリートしたいってのがこだわりでしょ? それで私をどうにかできると思ってるの?」


「どうにかできるかどうかは別として……」


 俺はポーチから目当ての物を探り当てるとそれを引っ張り出した。

 取り出したのは小振りのナイフ。


「そんな玩具で私をどうにかできると本気で思ってるわけ?」


 まあコイツからすればそう映るだろう。

 けど俺にはある考えがあった。


「ああ、お前にはこのナイフ一本で十分だ」


 そして俺はそのまま自分の喉元にナイフを突きつけた。

 シーナが理解できないと言った表情を浮かべている。

 俺は冗談は一切抜きで、真剣な表情と口調でシーナに言ってやった。


「俺はそのこだわりが叶わないなら死んでもいいと思ってる」


「言ってる意味がわかんないんだけど」


「そりゃあわからないから変人なんだろ」


「…………」


「俺は魔法集めは1人でやる。誰の力も借りない。誰にも邪魔はさせない」


「あんたが変態で変人なのはよくわかったわ。けど死んだらコンプリートの夢は叶わないのよ」


「お前に人の夢についてどうこう言われたくねぇよ」


 俺はナイフの先端で首をチクリと刺してやった。

 小さな痛みと共に血が一筋が流れたのがわかる。


「馬鹿な真似はやめなさい。そんな脅しが私に通用すると思ってるの?」


「死んでお前が困るならそれはそれでアリかもな。魔法コレクターの持つこだわりの重さをお前に教えてやるよ」


「馬鹿じゃないの? 言っとくけどなんのかけ引きにもなってないわよ」


「そうか。なら、試してみるか?」


 俺は自分を人質に、持っていたナイフにグッと力を込めた。

 シーナは何かを仕掛ける素振りはなく、ただじっとどうするべきかを悩んでいる。

 アイツにとって俺が死なれちゃ困る存在なのは良くわかった。

 時間が無いなら俺以外のコレクターを探すのはきっと避けたいはず。

 俺が死んで困るとも自分で言っていたんだから間違いないだろう。

 俺だって別に本気で死ぬつもりはない。

 けど譲れないものであるのは確かだ。


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