13ページ 名案
このダンジョンの特性。
棲み付いているモンスター。
そして僅かに残っている俺の所持品。
シーナに気付かれないように俺はローブの下で自分の体を弄った。
けど俺はそこである物がない事に今更ながらに気付いた。
あるはずのものが無い。
無いと凄く困る俺の大事な物。
いつもは腰に巻いてあるホルスターに収納しているのに、そのホルスターごとそれは無くなっていた。
どこにやった? 落としたのか? それとも宿に忘れたか?
一瞬頭が真っ白になりそうだったが、しかし答えは意外とすぐ近くにあった。
「もしかしてこれを探してるのかしら?」
まるで俺を嘲笑うようにしてシーナがホルスターに入ったそれを掲げていた。
そう、俺の命と同じぐらいに大切な魔法書を。
「お前、いつのまに盗んだんだよ!?」
「人聞きが悪いわね。魔法の使えない今のあんたが持ってるよりも、私が持ってる方が安全だと思って預かってたのよ」
「良く言えたな。完全に人質みたいなもんじゃねぇか」
魔法書を取り上げられたら完全にお手上げだ。
自分の心臓を奪われたに等しいのだから。
けどだからといって諦める訳にはいかない。
俺はどうするべきか頭を悩ませていると、ふとシーナが魔法書と一緒に掲げているもう1つの物が目に入った。
それは俺がダンジョンに入る際に必ず身に着けていたポーチ。
中には僅かばかりの小道具と、ダンジョン攻略に必要な魔道具が入ってるはずだ。
……魔道具。
俺は中に入っているある魔道具を思い出して閃いた。
例えそれがあったところで直接的に目の前の女から逃げること不可能に近いが、このダンジョンにいるはずのとあるモンスターを利用すればこの鬱陶しいローブとはおさらば出来るかもしれない。
もしこのローブを無効化できたならこの女から逃げることも可能だ。
そうすれば、ようやく1人で魔法集めの旅を再開することができる。
俺はニヤつく気持ちを悟られないようにしつつ、まずは魔法書とポーチを取り戻すためにシーナを説得することにした。
「なあ、一つ相談があるんだけどいいか?」
「聞くだけならね」
「まあ、お前にとっても悪い話じゃない。できれば俺の所持品を全部返してほしい、ただそれだけだ」
「簡単に返すと思ってるの?」
「まあ聞けって。別に逃げたりしないし魔法集めもちゃんとやる。もちろんお前の同行も認めてやる」
「それで?」
「ただもう少し俺に主導権を渡してほしいんだ。これじゃあお前がメインで俺がサポートみたいだ。全然自分で集めてる気になれないし、やる気も出ない」
「だから?」
「ダンジョン攻略はそう楽なもんばっかじゃない。一瞬の気の緩みが死につながることだってある。だから確実に集めたいなら俺に任せてお前はサポートに回ってほしいんだ」
「まあ一理あるわね」
「だろ? お前だって早く集めてほしい都合があるみたいだし、ここまできたら協力しあった方がお互いのためにもなると思うんだ」
「……そういうこと」
「魔法書を持ったところで俺に魔法は使えないんだし、ポーチの中身も今の俺にとっちゃ大したものは入ってない。気になるなら中を確認してくれてもいい」
シーナは注意深くポーチの中を覗き込むと中身を確認する。
そして俺の言ってることに納得してくれたようだ。
「確かに大した物は入ってないわね」
「じゃあ返してもらえるか?」
「……わかったわ。じゃあ具体的な計画やダンジョンの攻略に関しては全部あんたに任せる。けどそのローブはそのままよ」
「わかってるよ、じゃあ早速だけどここで少し待っててもらえないか?」
俺はシーナから魔法書とポーチを受け取ると手早く身に着ける。
何かを疑うようなシーナの視線。
「別に逃げようってわけじゃないさ。ローブがある限り逃げられるわけないしな。ただ、ダンジョンに入る前にやっておきたいことがある。だから少し1人にしてもらいたいんだ」
「やっておきたいこと? 人に見られちゃマズイことなの?」
「ああ、これはコレクターにもよるんだけど、何て言うかげん担ぎみたいなものなんだ。無事にダンジョンを攻略できますようにってな。それを俺はいつも1人でやるのがこだわりなんだ」
「またこだわり? コレクターって色々と面倒なのね」
「ほっとけ。じゃあすぐに済ませるから取り敢えずここで待っててくれ」
「はいはい」
興味無さそうなシーナをよそに俺は通路の奥を目指した。
目的は刻印の儀を行う祭壇。
それを守るための神殿。
そしてそこに通じるための転移魔法陣の近くにうろついているであろうモンスターを見つけるため。
そいつに出会えればローブを脱ぐことができるはずだ。
勿論げん担ぎなんて嘘に決まってる。
だいたいダンジョン攻略をそんなものに頼ってるようじゃ半人前だ。
自分の力でダンジョンを攻略して魔法を習得するのが醍醐味だってのに。
そして目当ての転移魔法陣はすぐに見つかった。
あれを利用すれば神殿内に入ることができるが、今の俺の目的は魔法を集めることじゃない。
このローブをどうにかすること。
俺は注意深く辺りを詮索していると、そいつはすぐに見つかった。