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11ページ 魔法が使えない魔法使い

「ルミネ、ルミネ、ルミネ、ルミネ、ルミネ……」


「ねぇ、いつまでそうやっていじけてるつもり?」


「だ、だって、俺の魔法が……、魔法が、うぅっ」


 場所は燃えた宿から少し離れた所にある別の宿。

 あれから俺とシーナはこの街に留まることに決めた。

 本当は光裏教会の追手と思われるグリークとその取り巻き連中を巻くことに成功し、そのまま次のダンジョンへ行こうかとも思ったが、魔法が使えないアクシデントと、相手の裏をかく意味で少しの間この街で一息つくことにした。

 といっても、魔法が使えなくなったことへのショックが大きすぎて一息つく暇もなくテンションはだだ下がりだったが。



 魔法をいくら唱えようと発動する気配は微塵もない。

 発動条件は完璧にクリアしてるはずなのに……。

 ベッドの上で膝を抱えていじける俺に隣で椅子に座ったシーナが声をかけて来る。

 服は相変わらず破けたままだったが、今はシーツを巻いてローブ代わりにしていた。


「刻印の儀は問題なくクリアしたのよね?」


「魔法書に刻まれてるから問題は無いはずだ。うぅっ」


 俺は嗚咽交じりに手元にあった魔法書をそっと開いて確認した。

 そこにはしっかりと“ルミネ”の文字が刻まれている。

 ただしそこに記されているはずの詠唱するために必要な呪文は刻まれていなかったが。

 本来なら刻印の儀で魔法書に魔法を刻み、発現条件をクリアすると呪文がそのページに刻まれる仕組みになっている。

 あとは詠唱すれば魔法を発動できるし、詠唱無しでも魔法を唱えれば発動させることは可能だ。

 俺はルミネを発動させようとした時、魔法書を見ずに詠唱していたためそのことに気付かなかった。


「じゃあ発現条件は? 本当に魔力を保有してることが条件なの?」


「一度習得してるんだから間違い無い。それに、これぐらい簡単じゃないと子供でも使うのは難しいだろ」


「あんたが子供以下って可能性は否めないけど」


「悪いけど今は怒る気にもなれないんだ。そっとしといてくれ」


 シーナの皮肉も今の俺には苛立ちよりもただ気持ちが暗くなるだけだった。


「はぁ、詠唱に誤りは?」


 シーナが溜め息一つして別の可能性を探ろうとする。


「そこは絶対の自信があるからありえない。高速詠唱も完璧だった。なのに……うぅっ」


 改めて意識すると哀しみのあまり涙まで出そうだ。


「ちょっと、うじうじしないでよ。こっちまで気が滅入るじゃない」


「うるさい。お前には関係ないだろ」


 涙で視界が霞む。


「ねぇ、めそめそしたってしょうがないじゃない。魔法が使えないならそれを前提に今後のことを考えないといけないのよ」


「なんであたかも俺の仲間みたいな口ぶりなんだよ。俺はまだお前を仲間にした覚えも同行を許したつもりもないぞ」


「そう? なら今すぐにでも私を仲間にすることをお勧めするわ」


 シーナは自信をもってそう提案してくるが、悪いけど却下だ。


「絶対に嫌だ。人が落ち込んでる時に出てくる言葉は皮肉ばかり、慰めの言葉一つ出ないようなやつと仲間なんてやってられるか」


「じゃあ慰めればいいのね……」


 シーナが顎に人差し指を添えながら考えている。

 別に俺は本気で慰めて欲しかったわじゃない。

 ただ、傷付いた相手を支え合うのが仲間だとは思った。

 しかしこの女から出た言葉はまさかのものだった。


「ごめんなさい。何も思い浮かばなかったわ」


 俺は魔法が使えなくなった悲しみも忘れて思わず叫んでいた。


「お前な! そこは嘘でも何か声をかけるとこだろ!」


「だって出ないものは出ないんだからしょうがないじゃない」


 これっぽちも悪びれることなくそう言ってのけるシーナに俺は呆れを通り越して、ただただ疲れるばかりだった。


「はぁ」


「で、これからどうするのよ?」


「どうするもこうするも、魔法が使えないんじゃどうしようもないだろ」


「じゃあコンプリートを諦めるの?」


「諦めたくはないけど……」


 諦められるわけがない。

 俺の夢なんだ。

 けど現状ではそれはほぼ不可能に近い事は俺自身よくわかっていた。


「じゃあ早速次のダンジョンに行きましょうよ」


「だからなんでお前が俺以上にやる気満々なんだよ。だいたい俺はお前をまだ認めてないぞ」


「けど認める以外にはないんじゃないの」


「どういう意味だよ?」


「魔法も使えないのにどうやって魔法を集めるつもり、ましてや命を狙われた状態で」


「……」


 そう、シーナの言う通りこの2つの問題を前にして俺はコンプリートの夢を諦めるかどうかの瀬戸際に立たされていた。


「今のところ魔法の発動に問題がなかったなら、魔法が使えないってことも含めて最終魔法オール・デリートの発現条件だと思うけど」


「……だろうな」


「それってどう考えても1人じゃ無理よね。きっと誰かの手を借りて集めろってことじゃないの?」


 シーナの言う通りなことは良く分かる。

 これで最終魔法オール・デリートの発現条件は大体わかった。

 まず、魔法消失オール・リセットによる1からの魔法習得。

 しかし魔法が発現しないことから刻印の儀までを済ませればいいということだろう。

 ただそれだとコンプリートは絶対に不可能になる。

 魔法が無いとクリア不可能なダンジョンはいくつもあるからだ。

 深海のダンジョンなんかが正にそれだ。

 そしてあのぼっち全否定の石板。

 どう考えても仲間と一緒に魔法を集める事が前提になってる。

 すなわち1人じゃコンプリート出来ないことになる。

 自分の力で集めたいという俺のこだわりすら全否定なようだ。



 俺はシーナの言葉にうんざりしながら答えてやった。


「だとしてもお前を仲間にする理由がない。他の人間でも構わないんだし」


「他にアテがあるの?」


 間髪入れずにそう問い質してくるシーナに俺は言葉に詰まった。

 何故なら仲間のアテなんてある訳がなかったから。



 考えるだけで再びテンションは急降下。

 気持ちは暗くなるばかり。

 おまけに隣にいるのは仲間志望の慰め方がド下手くそな魔法使い。

 こういう自分の気持ちが弱ってる時に少しでも優しく接してくれれば、まぁ妥協して連れて行こうかな、とも考えるのだが、こいつの悪い所は言葉で弱った相手に馬乗りになった挙句、自分の流れに無理やり持ち込もうとすること。

 そんな自分勝手な人間を誰が仲間にするって言うんだ。

 そして案の定、シーナが俺に向かってドヤ顔を向けてきた。


「ほら? ないんでしょ? だったら私を仲間にするしかないじゃない。はい、それじゃあ決まりね」


 シーナは両手を胸の前でパンッと合わせて勝手に話を締めようとする。


「まあ確かに消去法で行くとそれしかないのかもしれないな」


「だったら……」


「けどお前だけはあり得ない。それだけは決まってる」


「ちょっと、私の何がいけないって言うのよ!」


 納得いかないのかシーナがその場で勢い良く立ち上がる。

 しかしその拍子に羽織っていたシーツがスルリと体を滑り床の上に落ちてしまった。

 再び露わになるシーナの胸元。

 真っ先にそこへ視線が行くのは男なんだから許してほしい。


「あ…………」



 顔を赤くして固まるシーナに、俺は別段視線を逸らすこともなく、ただ見えてしまっている女の子が隠したがる場所を凝視していた。

 普通の女の子だったらすぐさま目を背けていただろう。

 それがコレクターとしての礼儀であり、紳士だ。

 だが、この女の場合においては礼儀もへたっくれもない。



 たとえガン見したところで、これまでの俺の扱いを考えるなら、まだまだ足りないくらいだ。

 だから俺は、思ったことを無表情で言ってやった。


「色仕掛けで誘っても無駄だぞ。容姿とスタイルが抜群に良くても、性格ブスはそれだけで人の気分を害す…………」


 ボゴッ!


 俺はこれまで聞いたこともないような、何かがひしゃげる音を自分の鳩尾に感じながら、そのまま意識を失ってしまった。

 微かに聞こえてくる誹謗中傷と罵詈雑言も、疲れきっていた今の俺には心地のいい子守唄のようにしか聞こえてはこなかった。

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