幼馴染と異世界
「あぁ……久しぶりだなぁ……」
「それで?この一年間、何をしてたんだ?」
空良を家に招き、現在俺達がいるのはリビング。
親は外国で共働きのため、めったに家にいない。
……というか、働いている場所が場所だけに、職場の近くに家を持ち、そこで二人で暮らしているようだ。
「えーとね、何から話せば良いのか……」
「じゃあ俺から聞くわ。あの日、何があった?」
あの日というのは空良が音信不通になった日のこと。
当日は夏祭りの日だったので、空良もよく覚えているだろう。
「えーとね、仙くんと別れて……。足元が光って、なにかなーって思ってたら知らない場所にいた?」
「意味が分かんない」
話をまとめるとこういうことらしい。
祭りの日に俺と別れた空良は帰りになにがしかの光でどこかへ連れていかれ、そこで『勇者さまーっ』だの『魔王を倒してください!』だのと崇められたと。
元々頭の良い空良はそこが地球とは違う次元、言わば異世界であると考え、帰りの切符を条件に魔王討伐を了承、こちらの世界の時間で一年、魔王討伐に費やしていたと。
「…んで、魔王を倒したから帰ってきた、と」
「そうそう。で、帰り方は魔王が隠し持ってた巻物にしか書いてないみたいでね。巻物を見つけた瞬間に読み上げて帰ってきちゃった」
「せめて討伐完了したことを報告しろよ……」
「だって、いきなり召喚されて、ようやく帰れるんだよ?すぐにだって帰りたいよ……」
……ド正論。
しかし、突拍子もない話だ。
異世界とか、魔王とか。
「嘘をついてないのはわかる。長い付き合いだからな」
「そうだね。嘘はついてないよ」
「けど、どうにも信じられんなぁ……。なにか証拠はあるのか?異世界の」
「えぇ……。そうだなぁ、異世界の証拠……。剣は魔王城に刺したまんま置いてきちゃったし……」
しばらく顎に手を当てて考え込んでいた空良はいきなりパァッと表情を明るくさせると勢いよく立ち上がった。
「じゃあ!今から《《魔法》》をつかうね!」
「魔法?魔法って、あの炎とか雷とかの?」
「そうだよ!いくよ、見ててね…【ファイア】!」
空良がそう叫ぶと空良の指先はポッと炎を吹いた。
目の前でめらめらと燃えるそれは、手をかざせば熱さが感じられる。
とても手品や投影には見えない。
「いや、それ……熱くないのか?」
「うんっ、術者は熱さを感じないんだよ。一度体から離れちゃったら熱く感じちゃうけど」
そう言って炎に「ふっ」と息を吹き掛け、火を消す空良。
にわかには信じがたいが、それはテレビであるような魔法であることに違いないわけで。
「お前……本当に異世界に行ったのか……」
「うんっ、そうだよ!やっと信じてくれた?」
空良が異世界に召喚されたという事実を、肯定するものだった。
「まぁ、事情はわかった。それで?両親には報告したのか?」
「あー……えー……」
「オイ」
「でもさ、両親にこの事言っちゃったら警察とか近所の人に言っちゃうでしょ?とっちゃとかっちゃ」
「なんだその訛りは。うーん、まぁ、そうなのか……?」
確かに、大人は法をよく知り、経験も豊富が故に、自分の理解しがたい物が出れば、無意識に周りの人に助けを求めてしまう。
「まぁ、そうか……。ん?じゃあ、お前、宿はどうするんだ?」
「そこでご相談がありまして」
急に妙な笑顔になる空良。
嫌な予感しかしない。
こういうとき、空良は小学生の時のノリで……!
「ここに、住まわしてくださいっ!!」
「…………」
ほらみろ、やっぱりこう言うんだ。