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幼馴染が帰ってきた


俺には幼馴染がいた。

活発で、明るくて、誰からも好かれる、そんな子が。

ある日、その子はなんの音沙汰も無く消えた。

警察も探し回ったが、近辺のどこを探してもその子の姿はなかった。

駅にも目撃情報は無く、同時にその子がパスを使った形跡もなかった。

警察も諦め、その子の親は泣き崩れた。

そして、その子が消えてから約一年。


「ただいま、仙くん」


その子が、マントを翻して帰ってきた。



時は少しさかのぼる。

その子が消えたのは俺とその子が中学三年生の頃。

俺───祈里(いのり) (せん)は勉強を続け、無事高校まで行けた。

高校に慣れてきて、いつものように家に帰ろうとしたとき。

祈里家の前に、女の子が立っていた。

白と紺のピチッとした服の上にマントを羽織り、長く美しい黒髪を垂らしている。

身長は俺よりも下くらいなので、迷子というのは流石に無いと思う。


「あの、ウチに何か用ですか?」


恐る恐るそう聞くと、ピクッと反応した女の子はこちらを向き、目を輝かせた。


「仙くん!?仙くんだよね!?」

「えっ、はい、確かに俺は仙ですけど……」

「うっわぁ、おっきくなったね!久しぶり!」


そう言って手を握ってくる女の子。

でも、俺にこんな女の子の知り合いはいない……。


「あの、失礼ですがどちら様……?」

「えっ」


途端に表情を凍てつかせる女の子。

そりゃそうか、『おっきくなったね!』とか言えるくらいの間柄(俺は覚えていないが)の人に、忘れたと言われたのだ。


「すっ、すみません!でも、俺の覚えにはあなたは…」

「もっ、もう!!私だよ、心山(こころやま) 空良(そら)だよぉ!!」


その名前を聞いた瞬間、俺の脳裏に親友とも呼べるあの子の笑顔が思い浮かんだ。

確かに、目の前の女の子はあの子……空良の面影がある。

けれど、彼女は一年前に、なんの脈略もなく失踪して───


「……帰って、これたよ」

「…………」

「ただいま、仙くん」


そう言って微笑む彼女に、一年前の夏祭りで最後に見た、彼女の姿が被った。



「ほんとに、空良か?」

「うん、そうだよ」

「好きなものがきゅうりの浅漬けの空良?」

「う、うん、そうだよ。よく覚えてたね」

「小学生の頃に肝試ししようって言いだして最後は俺に泣きついてた───」

「だからそうだって!っていうかそんな恥ずかしい過去暴露するのやめて!」


全部、合ってる。

俺の頬を一筋の涙が、つうっと伝った。


「あっ、ああっ、あああああああ……」

「ちょ、ちょっと、なんで泣いてるの!?え、待って、何か悪いことした!?ごめんね、ごめんね!?」

「違うんだ。ただ、ちょっと嬉しくて……ははっ……」


拭っても拭っても涙は溢れてくる。

深呼吸して、落ち着かせて、それで改めて幼馴染みの顔を見る。


「……おかえり、空良。お茶でも飲んでいきな」

「……!うんっ!ただいま、仙くん!お邪魔するね!」


まずは一年間、何があったのかを聞いてみることにしよう。

一年前に失踪した幼馴染と話す時間が、何故だかとても楽しみだった。


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