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91 ゴッドホルト潜入(1)

side ゴッドホルト


 ゴッドホルトは、天樹の空島が上空に浮かぶハイデルベルグ領リーベの街に来ていた。

 その姿は、何の変哲もない人族である。

 このやせ型の青年が、魔皇国の6魔将の一人だとは、だれも気が付かないだろう。

 鬼族のゴッドホルトは、魔皇国では主に偵察・調査を担当している。

 魔力を隠し、気配を消すことに長けているのだ。

 今も、ゴッドホルトは魔族としての気配一切を消し、空船を待つ職人の集団に混じっていた。


 空島に向かう職人たちは、全員キャスタル商会に登録しなければならない。

 ゴッドホルトも、キャスタル商会にホルターという偽名で登録していた。


 離陸する空船の甲板で、ゴッドホルトは空船の操縦をするカズヤを視認していた。

 今日のカズヤは、海の皇国皇女のベティシアと一緒である。それに、従者らしき男女も数人付き従っているようだ。

 操縦席の一角は、結界で守られているようだ。強い力を感じる。

 おそらく、天龍クエレブルと、天の世界樹による結界だろう。生半可な攻撃ではびくともしそうにない。

 カズヤに襲撃があるならば、強力な結界で守られている天樹の空島を出たときであろうと予想して、守りを固めているのだろう。

 カズヤ自身もへらへらしているように見えて、隙がない。


「ホルターさん、今日も仕事ですか。精が出ますね!」

 カズヤに気を取られていたゴッドホルトが、職人仲間に声を掛けられた。

 一瞬身構えるが、見知った顔を確認し警戒を緩めた。

 ゴッドホルトは〔ホルター〕という名で、建築の仕事をしていた。

 慎重な性格のゴッドホルトは、決してあせらずに、まずは空島で働く職人たちに溶け込んだのだ。

 寡黙であるが、力持ちで確実な仕事をするゴッドホルトは、職人たちの信頼をすでに獲得していた。

 

「バルムさんこそ、毎日お会いするということは、同じように働いているってことでしょ?」

「ははは、ちげえねえ! この職場はいい職場だからな! 安全で給金も高く確実に支払われる。なんてったってキャスタル商会の肝入りだ、こんないい職場はなかなか無いぜ!」

「そうですね。それに、この空船に毎日タダで乗れるのもいい」

「おお、そうだな。毎日乗ってるからありがたみはねえが、観光で乗ろうと思ったらバカ高いらしいぞ」

「へえ、いくらなんですか?」

「噂では、観光込みで白金貨1枚だとよ! 白金貨だぜ! 白金貨一枚あったら、俺なら1年は遊んで暮らせるぜ!」

「それは、なかなか高いですね」

「だから、観光に来るのは酔狂な貴族か大商人だってよ」

 バルムという職人は、なかなか事情通らしい。


「空島観光って何をするんですか?」

 ゴッドホルトが何食わぬ顔で聞く。

「俺もよくは知らないんだけどよ、何でもでっかい蛇に乗って山のてっぺんの世界樹まで行くらしいぞ」

「へえ、世界樹まで・・・」

 ゴッドホルトの任務は、天樹の空島への潜入と情報収集、そして、可能ならカズヤの抹殺と世界樹の破壊である。

 ゴッドホルト扮するホルターと、バルムを乗せた空船は、離陸からほんの5分ほどで天樹の空島の空船発着場に到着した。


 急な階段で空船から降り、職場へ向かう。

 何日も繰り返した行動だ。ここに来てから二十日ほど経つだろうか。

 職場でのホルターは働き者だ。

 ホルターの見た目は華奢だが、正体が鬼族であるので、その力は人族の10倍以上だ。

 重い荷物をひょいっと持ち、軽々と運ぶ。

 なるべく目立たないように気をつけてはいるのだが、やはりどうしても目立ってしまうのは防げなかった。


「おい、ホルター、一緒に飯を食おうぜ!」

 ゴッドホルトは同僚に声をかけられた。

「今日は、ラーメンなんてどうだ?」

 この天樹の空島は、滅ぼすべき敵の本拠地だが、ここの食事はすばらしいとゴッドホルトは思っていた。

 魔皇国の者たちは、あまり食事に関心がないので、食文化は発達していない。

 味よりも栄養価や量が優先される。

 そもそも、土地が痩せ、気候もよくないので、得られる農作物も少ないのだ。


「うめーーーーー!」

 同僚が、ラーメンをすすりながら言う。

「うん、旨い!」

 ゴッドホルトもついつい声にしてしまう。

 パスタなどの麺料理は魔皇国にもあるが、このラーメンはここでしか食べられない。

「このラーメンは、エルフ料理なのか?」

 ラーメン屋の店主にゴッドホルトが聞く。店主はエルフの男だ。

「いんや、エルフ料理じゃないよ。この天樹の空島の主のカズヤ様から伝えられた料理でさぁ!」


 ・・・またカズヤか・・・。カズヤ・サクラザカ、謎の男だ。

 見た目は20歳そこそこだが、中身は違うかもしれん。

 実際、俺も見た目は人族の20歳ぐらいだが、本当の年齢は140歳だ。

 見た目で判断するなということだな。教訓になる。

「あんたたち、良く来てくれるからこれはサービスだ!」

 茶碗に入れた白飯が目の前に置かれた。

「ありがとう」

 うん、ラーメンには白飯だよな。最後にスープに入れて食べると最高だ!

 決めた!天樹の空島とカズヤは滅ぼしても、このラーメン屋だけは守ろう!


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