9 海底で、海小麦を収穫しました。
食材がだんだん豊富になってきました。
海小麦を採りに行くことになった。
そして、海小麦は海底にある。
「カズヤは人族なのに、海に潜れるの? 溺れない?」
「大丈夫! 海小麦がある場所まで案内してよ」
俺は、自分の周りを空気で囲んでから海に向かって飛び降り、海面に立った。
穀物に飢えていた俺の心は、今までに無くヒートアップしている。やる気満々だ!
「おどろいた。海の上に立てる人族は初めて見たわ」
俺は、自分の足下の海水を固めて、その上に立っているのだ。
「さあ、ベティ、こっちに来て!」
俺は、ベティを手招きする。ベティは、少し戸惑ってから、俺の横にジャンプしてきた。
「・・・本当に立てる。足下の水が堅くなっているわ。岩の上に立っているみたい」
「じゃあ、行くよ。とりあえず海の中に入るね」
俺とベティを囲んだ空気の球が海中にゆっくり沈んでいく。
「うわぁ、すごい!」
ベティは、驚いているようだ。
「どこに向かっていけばいいの?道案内できる?」
「任せて、この辺の海は私の庭のようなものよ」
俺は、ベティの案内に従って海の中を移動した。
しばらく移動すると、見慣れた陸上の小麦そっくりな植物?が一面に生えている場所に着いた。
「あれが海小麦よ。 この辺の海は水がきれいで、栄養も豊富だから、特別おいしいわよ」
「採ってもいいの? 誰かが栽培していて、盗んだら罪になるようなことはない?」
「それは大丈夫。ここの海小麦は誰もののでもないわ。 採っても後からどんどん生えてくるしね」
「念動力!」
俺は、両手を前に突き出し、10m×10mぐらいの範囲の海小麦を意識し、念動力で麦穂の部分を収穫した。
そして、収穫した麦穂をもって、〔天樹〕に戻った。
持ち帰った海小麦の麦穂を一つとって、殻をむき、中身を食べてみる。これは、正しく小麦だ。海の中からとってきたのにしょっぱくない。不思議だ。まあ、海に住んでいる魚の身もしょっぱくないんだから、同じ理屈なのかな。
念動力を駆使して脱穀すると、ざっと40kgぐらいの小麦が収穫できた。
十分である。
では、念願の穀物を食す準備をしましょう。
脱穀した小麦の粒を、〔天樹〕で作ったボウルに入れ、ベティに海水から魔法で作った真水を入れてもらう。
〔天樹〕は火を通さないので、木製ボウルの下からでなく、上から水を直接温める。温める方法は、太陽光水凸レンズでのソーラーパワー使用だ。海水を使うよりも、樹液を使って凸レンズを作った方が、レンズの透明度が高く高出力なことを発見したので、今の水レンズは樹液で作っている。
大きな水レンズから集まった太陽光は、ボウルの中の水を容易に沸騰させる。
小麦はいい具合に煮上った。小麦粥だね。味付けは、塩だ。
ベティも食べてみたいというので、ベティにも同じものを渡している。
木のスプーンでおかゆをすくい、口に入れる。
結構歯ごたえがある。かみしめると、塩味とともに、麦本来の甘さが感じられる。
「うんまあぁぁぁぁぁぁぁい!!!!」
久しぶりの穀物!久しぶりの炭水化物!ただの塩味なのに、なんておいしいんだ。
ベティは「まあまあね。」などと言っている。1週間も穀物抜きの食事を続けていた俺ほどの感動はないようだ。
「ねえ、カズヤ。また樹液を飲みたいんだけれど、枝を折ってもいい?」
「もちろんいいよ。ご自由にどうぞ。」
ベティは、〔天樹〕の枝を折ろうと、枝をもつ手に力を入れる。
「えいっ!あれ?むっ!ぐぬぬぬぬぬぬう!」
最初は片手で簡単に折ろうとしていたが折ることができず、今は、両手で枝を持ち、全力を出しているようだ。
「カズヤ!折れないよ!この木、めちゃめちゃ堅いよ!」
細い枝なら折れるんじゃないかと、細い枝を折ることに挑戦していたベティだが、全く折れなかった。それどころか、ベティには、葉っぱ一枚採ることができなかった。
「ねえ、ベティ、葉っぱ一枚取れないって、人魚族ってすごく非力なの?」
「そんなことないわ!人族と変わらないわよ!」
「じゃあ、ベティが特別力が無いの? お姫様だし」
「そんなことないわ、どちらかというと、私は人魚族の中でも力が強い方よ。そこら辺の人族には決して負けないわ」
試しに、俺が枝を折ってみると、やはり、大して力を入れなくても、簡単にポキンと折れる。そこからあふれ出る樹液で、喉を潤しながら、ベティは納得がいかないようだ。
「もしかして、カズヤは、すごい力持ち・・・?」
「いや~、普通だと思うんだけど・・・」
「いや、絶対普通じゃないわよ」
う~ん。わからない。
そうこうしているうちに、日が暮れてきた。
水平線に沈む太陽が美しい。
誰かとこうして一緒に見る景色は格別である。
それが、かわいい女の子と一緒なのだから尚更である。
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