89 エルフの里での火事
カズヤとベティは、煙の上がっている方向に空から駆け付けた。
もちろん、空を飛ぶのはカズヤの念動力の力であり、ベティはカズヤに抱きかかえられる形になる。
だから、ベティはカズヤと共に空を飛ぶことが大好きなのである。
カズヤとベティが現場に到着したとき、大きくなった炎は既に建物を取り囲んでいた。
駆け付けた魔法が使えるエルフたちは、水魔法で火を消そうとしていたが、火の勢いが強く、エルフと相性の悪い水魔法では火を押さえられずにいた。
「ああ、カズヤ様、ベティ様、せっかく再興が進んでいるのに火を出してしまい申し訳ありません!」
家の主人らしき女が謝罪の言葉を口にする。
「家の中には、人はいないのか? 家族は全員無事か?」
カズヤが、その女に問いかける。
「父が、…まだ父が中に取り残されています…。父は、体が不自由で…逃げ遅れたのです」
助けに行こうとする者もいたが、火の勢いが強く、燃え盛る家の中には誰も入ることができなかったのだ。
「わかった! 俺が助けに行く!」
「そんな、カズヤ様、無理です! 焼け死んでしまいます!」
その場にいた皆が、むちゃな行動をしようとするカズヤを引き留めた。
「大丈夫!俺、火・熱無効だから!」
カズヤは、そう言い残して、燃え盛る家の中に飛び込んでいった。
燃え盛る火の中に飛び込んだカズヤの服が燃え始める。
しかし、カズヤは涼しい顔だ。
火の世界樹復活の際にもらった加護のおかげで、カズヤは完全熱耐性と完全炎耐性を持っているからだ。
どんな熱もカズヤを苦しめることはなく、どんな炎もカズヤを焼くことはできない。
マグマの中で水泳だってできるだろう。
「まぶしいなあ…」
カズヤは、取り残されているという寝たきりの老人を探す。
熱耐性で熱くはないのだが、炎のまぶしさに目がくらむのだ。
「いた!」
カズヤは、ぐったりと横たわる老人を発見した。
「障壁!」
自分自身と老人をまとめて念動力の障壁で包む。
これでもう大丈夫だ。
カズヤは老人の呼吸を確認する。
「ひどいやけどだが…呼吸は?…あるな」
アイテムボックスから世界樹の樹液を取り出し、老人のやけどに直接振りかける。そして、口の中に樹液を流し込む。
老人に、樹液を飲み込む力はなかったが、念動力で無理やり飲ませた。
老人のやけどが、みるみる治っていく。
気は失ったままだが、乱れていた呼吸も落ち着いたようだ。
カズヤは、障壁を保ったまま、燃え盛る家から老人を運び出した。
「カズヤ様! お父さん!」
炎の中から表れた二人に、女が驚愕の声を上げる。
燃え盛る家の中に入ったまま、なかなか出てこないカズヤも、父と一緒に焼け死んでしまったと思っていたのだ。
「ああ、お父さんは無事だよ。 世界樹の樹液の効果でやけども治っているから、すぐに目を覚ますよ」
二人の服は、ところどころが燃えてひどい状態になっている。
しかし、その服を着ている人物は、全くの無傷なのだ。
ベティがカズヤに飛びついてくる。
「カズヤ、本当に大丈夫? どこも痛くない? 服はボロボロよ・・・」
「ベティは、俺に熱も炎も効かないって知っているでしょ?」
「うん、知ってはいたけど…心配だったのよ。 もしもってこともあるし・・・。でもよかった」
「さすがカズヤ様だ!」
「俺たちの英雄だ!」
「カズヤ様ありがとう!」
至る所から感謝の言葉が聞こえてくる。
「しかし、燃えている家をどうにかしないとな…。そうだ!湖の水を持ってこよう!」
カズヤは、青い泉に向かって飛んだ。
そして、青い泉の水を念動力で大量に持ち上げると、その持ち上げた水と共に火事現場に戻った。
「みなさ~ん!今から火を消します! 近くにいると濡れるから離れてくださ~い!」
野次馬たちが、燃えている家から距離を取る。
「じゃあ、水をかけるよ!」
カズヤは、泉から持ってきた水を上空から燃え盛る家に掛ける。
大量の水が火に降り注ぎ、間もなく火は消えた。




