87 朝のできごと
side 天樹の空島
魔皇城に冥界神が現れ、カズヤの抹殺が命じられている頃、当のカズヤは屋敷でのんびりと過ごしていた。
天樹の空島のカズヤの屋鋪は大豪邸である。
そもそも、かなり位の高い貴族が住んでいた屋敷なのだ。
しかし、カズヤの寝室は意外に狭い。せいぜいシティホテルのスイートぐらいだ。広いか?
カズヤの寝起きは悪くない。
しかし、快適な秋口のような気温のこの島で、朝の布団の気持ちよさは、目を開ける気力を奪う。
海上にいたころに気に入って、今も使い続けている海綿のマットレスはフカフカで、皇都の一流店で買ったシーツは滑らか。羽毛布団はフワフワ軽く、包まれているとじんわり温かくて気持ちがいい。
「んっ……」
俺は何かに抱きついていた。
枕か、丸めた毛布か? 柔らかくて温かくて、気持ちいい。
ふにょんとしていて、すべすべで手触りも最高だ。
「あっ……ん……んっ」
耳の傍で何かを堪えるような声がする。
さらさらとしたいい匂いの、やわらかな何かが顔にあたってくすぐったい。
カズヤが、ギュッと腕に力を入れると、抱いている何かがぴくっと震えた。
手に触れる柔らかい何かをムニュムニュしてみる。ああ、気持ちいい。
「カッ、カズッ、ヤっ…、んんっ」
………………………………。
あれ?俺、今何を抱いているの?
もしかして、体温や鼓動が感じられたりしてる?
髪の毛生えてたり、二つの膨らみが前後についてたりする?
手触りのいいこの何かを、さわさわしていい?
カズヤは急速に冷める眠気と、沸いてくる冷や汗に、もう少し寝ぼけさせてくれと叶わぬ願いを神に願いながら、覚醒してしまった意識で状況を確認する。
ここ、俺の部屋の寝室。俺のベッドの上。
うん、それは間違いない。ホッと一息。
俺のベッドで横になっているのは俺と、金髪蒼眼の美しき女性。…ベティだ。
俺は服を……着てる。よし。相手も全裸じゃあない。
ホッと一息。
さて、これはどういうことだ?
ベティを抱きまくらにしていた?
俺の右手が置かれているのは、ベティのお尻かな?
え?いつから? 寝るときには確実に一人だった。
俺は顔を赤らめて荒い息を吐くベティの柔らかいところから、慌てて手を離す。
赤い顔をして上目遣いで俺を見るベティと、ベッドの上で共に横になりながら眼が合った。
「ベ、ベベベベッ、ベティ…?」
なぜだか、ベティは、こくんとかわいく頷いた。
「こここここ、これは~~~、不可抗力で~、その~寝ぼけて~」
何だかよくわからない言い訳になってしまった…。
「カズヤは悪くないわ。勝手に入り込んだのは私だから・・・」
「・・・・・・・・」
「ここ数日、カズヤはずっとパルメと一緒だったんでしょう…。私も一緒に行けばよかった」
「・・・・・・・・」
「だから、私も頑張らなくちゃって思ったのよ・・・」
頑張る方向性が間違っているのではないでしょうか。ベティさん。




