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79 グダニスク領主の城で

 宰相レオポルドが、眼前で跪くカメダインとロッテルに声をかける。

「グダニスク領主カメダイン、およびロッテル男爵、遠路はるばるご苦労であった」

「おかえりなさい!」

 無事バンパイアの討伐を終え、天樹の空島に戻ってきたカズヤにベティが抱きつく。

「ベティ!どさくさに紛れて、何カズヤ様に抱きついているのよ!」

 パルメが、カズヤに抱きつくベティを引きはがす。

「いいじゃない!パルメはカズヤとずっと一緒だったんでしょ!」

「ええそうよ。カズヤ様と一緒に皇都でデートもしてきたわ!」

 デートと言うより買い出しだけどね・・・。


「ずるいっ! カズヤ、今度は私を連れてって!」

 ベティがカズヤに言う。

「ささ、カズヤ様もお疲れでしょう。食事が用意してありますので、お屋敷に戻りましょう」

 執事のクレメンスが、いい助け船を出してくれた。

「皆さんも、おつとめご苦労様でした」

 

 バンパイアたちとの戦いで疲れ切った兵士たちのために、空島から炊きだしを用意したのだが、喜んでもらえて良かった。

 炊き出しに来てくれたメンバーも、よく働いてくれた。

 うん、俺たちは『チーム空島』だね。



side グダニスク領主の城


 バンパイア討伐のために派遣した、ロッテル男爵率いるグダニスク兵たちが帰還した。

 威風堂々と帰還したロッテル伯爵は、臣下の礼を取りながらグダニスク領主カメダインに報告した。

「我がグダニスク領を荒らしていたバンパイアどもは、すべて討伐されました」

「おお!よくやったぞロッテル! もう、バンパイアどもの脅威は去ったというわけだな!」

 カメダインは、小太りの体を立派な椅子から乗り出して興奮気味に早口でまくし立てる。

 体に似合わずカン高いその声は、豪華な城に良く響く。

「はい、バンパイアは一匹残らず灰になりました」

「あの強力な魔物たちを、よくぞ退けたな! して、我が軍の被害はどのくらいだ?」

「・・・被害ゼロでございます」

「被害ゼロ? どういうことだ? 無傷でバンパイア1000体を倒すことなどできるのか?」

 さすがのカメダインも、その報告の内容に違和感を持った。


「ロッテル、お主、勝ち戦の報告にしては、馬鹿に元気が無いではないか?」

「ハッ、大変疲れているものですから・・・」

「それは当然、激しい戦いの直後であるからな! して、皇都からの討伐隊はどうなった?」

 皇都に援軍の依頼をしたのは、他ならぬカメダインである。そして、皇都からの援軍がグダニスク領に来たことも、当然カメダインの耳に入っていた。


「こ、皇都からの討伐隊の数はおよそ5000、戦闘による死者は300人ほどと聞いております」

 脂汗を流しうつむきながらロッテルが答える。

「皇都の討伐隊に300人の死者が出ているのに、なぜ我が軍の被害はゼロなのだ?」

「せっ、正確にはゼ、ゼロではありません。骨折などの重傷者も若干名います!」

「そのケガの理由は?」

「・・・行軍中の転倒、崖からの落下によるものです」


「ロッテル、我が軍は本当にバンパイアたちと戦ったのか?」

「実は、我が軍が戦場に駆けつけたときには、既に戦闘は終了しておりました」

「・・・は? もう一度言え」

「我が軍が戦場に駆けつけたときには、既に戦闘は終了しておりました」

「では、戦ってはいないのか?」

「・・・はい」

 広間に沈黙が訪れる。


「まあ、広大の森の中であるから、そのような偶然もあるだろう」

「・・・・・・」

 ロッテルはうつむいている。

「で、皇都の討伐軍はどうした? 我らがグダニスク領のために、その身を犠牲にして戦ってくれたのだ。 ねぎらいの宴を用意せねばならん。多少の褒美をくれてやってもいいな。 もちろん、一緒に来ておるだろうな」

「・・・皇都の討伐軍は、既にお帰りになりました」

「え?帰った? 領主であるワシに挨拶もせずにか? 褒美のおねだりも無しでか? なぜ引き留めなかった!?」

「私に引き留められるような相手ではございませんでした・・・」

「なんだロッテル、いつもの強気な態度はどうした?借りてきた猫のようではないか。 その無礼な部隊の指揮官はどこのどいつだ?」


「こぅ・・・い・でございます」

「聞こえん! 聞こえるような大きな声で言え!」

「こぅてぃへいかでございます・・・」

「は?聞こえん!!」

「皇帝陛下でございます!!」

 ロッテルは、床に額をこすりつけながら絶叫した。


「皇帝陛下? 炎帝シンノウ皇帝陛下か?」

「はい、そうでございます」

「バカな・・・」

 カメダインは椅子から崩れ落ちた。

 バンパイアの相手など、皇都から来る兵たちに相手をさせればよいと、グダニスク領の兵士たちは、戦闘が終わった頃に駆けつけて少し戦えばよいと言ったのはカメダインだった。

 まさか、こんな危険な戦いに皇帝自らがやってくるとは・・・。せいぜい、腕利きの兵士がやってくるだけだと思っていたのに・・・。どうしてこうなった?


「皇帝陛下は何とおっしゃっていた?」

 カメダインはロッテルにおそるおそる尋ねる。

「皇都まで領主と共に礼を言いに来いと言われました。代理は許さんと・・・」

「ロォォッテルゥゥゥゥ!! オマエ、何てことをしてくれたんだぁぁぁぁっ!!」

 広間に領主の絶叫が響いた。

 その後二日ほど領主は寝込んだらしい・・・。自業自得である。


 カメダインは、回復後、すぐに皇都に向けて出発することにした。

 皇都行きをずるずると引き延ばしても、状況は悪化するだけだからだ。

 グダニスク領は、資源の宝庫である。金鉱脈や鉄鋼脈等をたくさん持っている。

 皇帝陛下へのお礼の品として、金銀財宝や貴重な織物などを、荷車に積めるだけ積んで出発した。

 そのお礼の品の多くを、ロッテル男爵が私財で負担していた。

 

 豪華な馬車に乗りながら、カメダインはロッテルに問いかけた。

「兵士たちの噂を小耳にはさんだのだが、お前は皇帝陛下に向かって剣を抜いたそうだな。事実か?」

「・・・まことに申し訳ありません。事実です」

 案外素直なロッテルである。 

「普通なら一目見てわかるだろう。王族特有の赤い髪にあの体格だぞ・・・、なぜ気づかなかった?」

「あの時、皇帝陛下は革のズボンに麻のシャツを着ておられました。そんな、一般の兵士と同じ格好で一人で森から出てきた男を皇帝だと思いますか?」

 ロッテルが正直に言う。 

「それは、我でも思わんな…」

 そんな姿で危険な森の中を一人でうろつくなど、カメダインにもロッテルにも、到底真似できないことであった。


「お前ひとりが謝ればいいではないか・・・。なぜ、私まで呼ばれなければならないのだ…」

 この愚痴を、ロッテルは何度言われたのか・・・、もう数えていない。


 二人を乗せた馬車は、皇都に向けて粛々と進んで行く。

 馬車は、10日ほどで皇都に到着した。

 グダニスク領主カメダインとロッテル男爵は、すぐに皇城の謁見の間に通された。

 

 謁見の間の玉座には炎帝シンノウ、シンノウの傍には宰相のレオポルドが控えている。

 皇帝を守るのは、近衛隊長ブルーノ、副隊長オレガノ、そして筆頭魔術師のカレナである。

 将軍代理のモーリスも並んでいる。


 宰相レオポルドが、眼前で跪くカメダインとロッテルに声をかける。

「グダニスク領主カメダイン、およびロッテル男爵、遠路はるばるご苦労であった」

 宰相にねぎらいの言葉を掛けられたことで、二人の表情は明るくなる。いきなり断罪が始まるかと思っていたのだ。

 皇帝陛下に、何か申すことはあるか?

「皇帝陛下、我がグダニスクに攻め入ったバンパイアを討伐していただき、深く感謝しております」


「カメダイン、その方、悪いうわさが絶えないと聞くが、どう考える?身に覚えはあるか?」

「申し訳ございません。私の力が足りないばかりに、グダニスク領の者たちには苦労を掛けております」

 カメダインは平身低頭である。皇帝に逆らっても仕方が無いので、とにかく謝り倒すと決めてここに来ているのだ。

「そうか、己の力不足を自覚しておるという訳か」

「はい、皇帝陛下、ご慧眼の通りでございます」


「ロッテル、お主も我に言うことがあるだろう。行ってみよ」

 ロッテルにも皇帝から直接声がかかる。ロッテルは気を失いそうになりながら口を開いた。

「皇帝陛下に対して失礼なふるまいをしたことを、海よりも深く後悔しております。申し訳ございませんでした」

「そうか、己の浅はかさを自覚しているのだな?」

「はい、己の浅はかさを恥じる毎日を過ごしております」


「おい、宰相、両名ともこう言っておる。力になってやれ」

 シンノウが宰相レオポルドに会話のバトンを渡す。

「両名の心意気は見事である。己の未熟を恥じ、よき領主、よき貴族に生まれ変わろうと思っているのだな」

「「はい、もちろんでございます!」」

 カメダインンもロッテルも、意外なやさしい言葉にホッとしながら元気よく答えた。


「では、生まれ変わろうと思っている貴殿らの力になるようにしよう。グダニスク領主カメダイン!」

 宰相レオポルドがカメダインに言い渡す。

「ハッ!」

「貴殿には、今後1年間私の部下となり、領地経営についてじっくりと学ぶ機会を与えよう」

「・・・・・・・・」

「ロッテル男爵!」

「ハッ、ハイ!」

「貴殿には、近衛隊長ブルーノの元で、近衛騎士の一員として1年間の訓練をさせてやろう」

「・・・・・・・・」

「ん?両名とも何か文句があるのか? ああ、そうだ、お前の部下に二人ほど生きのいいバカもいたな。そいつらも一緒に鍛えてやろう」


「レオポルド様の部下として学ぶのは結構なのですが、1年間も私の領を放っておくことはできないのですが…」

 もじもじしながらカメダインが抗議の声をあげる。

「ああ、グダニスク領のことなら心配はいらぬ。フレイヤ皇女が領主代理としてグダニクス領へと赴いてくださるそうだ」

「フレイヤ皇女が? 大丈夫なのですか?」

 カメダインは、あまりに予想外の展開に失礼なことを口走っている。 

「あら、私では頼りないというのですか?カメダイン様」

 フレイヤが冷たい眼差しでカメダインに問いかける。

「い、いえ、いえ、そんなつもりはございません…」

「私、こう見えて、なかなか厳しくてよ。領主代理で赴く1年間で、あなたの領の膿をすべて出し切って差し上げますわ。きっと、民たちが暮らしやすい領に生まれ変わるはずよ」

 にっこりと笑うフレイヤだった。


「そうと決まれば善は急げだ! オレガノ副隊長、二人を訓練用の宿舎に案内してやれ」

「ハッ、わかりました! さあ、行くぞ!さっさと立て!」

 オレガノが二人を強制的に立たせる。

「「そっ、そんな急に…ちょっと待ってください!一旦グダニスクに戻り、準備を整える時間をくださいませんか?」」

「不要だ!すべて準備はこちらで整えてやる!感謝するがよい。行くぞ!」

「待って、待ってください!あああああぁぁぁ・・・」

 二人は、領主と男爵としてでなく、見習い扱いのただのカメダインとただのロッテルとして、オレガノに訓練用の宿舎に引きずられていった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

今後も、おつきあいいただけるようお願い申し上げます。

今後もがんばって続けますので、

評価、ブックマーク等していただけたら嬉しいです。


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