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72 バンパイアの王シャイターン

残酷な表現があります。

お気を付けください。

 5000年もの長きにわたって封印され、姿を隠している地の世界樹を見つけることは非常に困難である。


「世界樹には、必ず守護龍がついている。今、この世界には3体の強力な龍の気配で満ち溢れているが、その魔力は目がくらむほど強大なのだ。地の世界樹にも必ず守護龍がいる、我らはその守護龍の微弱な力を発見し、世界樹のありかを突き止めるのだ!」

 悪魔族のクランプスが、眷属たちに檄を飛ばす。

 クランプスの設置した祭壇には、多くの力ある悪魔族のシャーマンたちが集まっている。

 シャーマンたちが、全世界に探知の網を広げ、地の守護龍を発見しようとしているのだ。


 地の世界樹が、悪魔たちに見つかるのは、時間の問題であった。


 一方、天樹の空島のテンジュも、地の世界樹を見つけようと、その感覚を世界に広げていた。

「う~ん、ここから北の方角に、地の世界樹の力を感じるような気がするんだけど、ぼんやりしてるな~、クエレブルは、地龍の気配は感じない?」

「地龍の気配は全く感じられません。封印を解く前の火龍の姿を見たでしょう。地龍があのような哀れな姿になっているとしたら、なかなか見つけられぬでしょう」


 天樹の感覚をもってしても、地龍の気配は探れないようである。


「地の世界樹や地龍の気配は感じられないけれど、この空島に悪意を持って近づく存在の気配は感じるわね」

「そうですね、テンジュ様。 我も、敵意のある存在を感じていました」

「まだ、だいぶ遠くにいるみたいだから、すぐには来ないと思うけれど、用心に越したことはないわね。少し結界を強化しておこうかしら」

「はい、それがよいと思います。相手は相当な力の持ち主だと感じます」

 テンジュは、空島の結界を、それまでのものから1段高いレベルのものにした。


side バンパイアの王シャイターン


 シャイターンは、1000の眷属と共に天樹の空島を目指した。

 あるものは蝙蝠に姿を変え、あるものはオオカミの姿で、空島のある陸の皇国ハイデルベルグ領に向かって疾走した。

 魔大陸から海を渡ってミールニ領へと入り、海岸沿いをグダニスク領、ブレメン領を横切ってハイデルベルグに至る。


 シャイターン率いる吸血鬼族は、通りかかった村や町を襲った。

 最初に被害にあったのは、グダニスク領の海辺の村である。

 大した戦力もない、北のはずれの小さな漁村は、抵抗らしい抵抗もできぬまま吸血鬼たちの蹂躙を受けた。人族と獣人族が共に暮らしていたその村は、たった一瞬でこの世界から姿を消した。


「ヒャッハー! ごちそうがいっぱいだぜ!」

 吸血鬼たちにとって、人族の血はご馳走である。

 魔大陸に人族はほとんどいない。人族の血を得るためには、基本的に魔大陸を出なければならないのだが、彼らは自由に国を出ることを禁じられていた。

 しかし、今回、たった一人の人族の男を始末するために、1000人もの眷属総出で国を出ることとなった。彼らが大喜びしたのは当然であった。

 なぜなら、陸の皇国は、弱くておいしい人族が無数に狩れる夢の場所であったのだから。


 彼らは、陸の皇国に到着してすぐに食事を始めた。

 抵抗らしい抵抗もなく、人族は簡単に狩れたのだ。

 人族だけでなく、獣人族もたくさんいたのが意外だったが、それはそれでよいのだ。おいしいとは言っても、人族だけの血では、すぐに飽きてしまう。獣人族の血は、いろいろな種類がある珍味のような存在なのだ。

「俺は、まろやかな味の兎人族が好みだな」

「そうか、俺は、猫人族の血の、ちょっとピリッとした味わいが好きだぜ」

「やっぱり人族だよ。人族サイコー」


 そう、彼らにとって、陸の皇国の住人たちは、餌でしかないのだ。


 グダニスク領の村や町が吸血鬼に襲われているという報告は、すぐに炎帝シンノウの耳に入った。当然、グダニスク領の領主の指示により、騎士も兵士もその対応に当たったのだが、敵が強力すぎて返り討ちにあって壊滅したのだ。グダニスク領主からの救援要請も、シンノウの元に届いた。

 炎帝は、派兵を即決し指示を出した。

「炎帝騎士団は、グダニスク領へ急行し、バンパイアどもを討伐する!」

 皇都の周辺諸領からも兵を集め、バンパイア討伐の兵には精鋭5000をそろえた。


 バンパイア討伐の総大将は炎帝シンノウである。

 皇帝自らの出陣だ。傍には騎士団長ライムントが控える。竜騎士隊200もそれに従う。

 第1軍の総大将は姫将軍パルメの副官だったモーリス副将軍である。パルメが不在なので、将軍職の代理を任されている。

 第2軍の将軍は獅子の獣人イルメラである。

 陸の皇国は、人族と獣人族が共に暮らす共生国家である。イルメラは獣人が多く住むムンヘジの領主である。個の強さを重要視するムンヘジ最強の武人である。当然、第2軍は、ほとんどが獣人族で構成される軍である。


 炎帝率いるバンパイア討伐軍は、大きな被害が出ているグダニスク領の兵士たちと合流し、バンパイアたちがいる、グダニスクとブレメンの領界を目指した。


 今回の派兵に、新兵や老兵は混じっていない。精鋭ぞろいの5000人だ。

 相手がバンパイアである以上、弱兵は敵の餌にしかならないのである。

 炎帝シンノウが先頭に立っているため、兵の士気も非常に高い。


 バンパイアは原則的に不死身である。切っても、焼いても回復してしまう。

 そんな、不死身のバンパイアを相手にするにはコツがある

 バンパイアには弱点がある。それは日光だ。

 バンパイアを倒す方法はただ一つ、その体に日光を当てることである。

 

 だから、陸の皇国の兵たちは、夜には決して攻撃を仕掛けない。

 夜の間は、小さくまとまり、バンパイアたちの攻撃をひたすら耐え続けるという戦法を取るのだ。

 陸の皇国の討伐部隊は、日中に暗がりに身をひそめるバンパイヤを全力で探す。

 日が高いうちにバンパイアたちを発見できれば、滅ぼすのは難しくないのだ。

 この勝負は、日中にバンパイアたちを発見できるかどうかがなのだ。


「昨日の奴らも美味かったなあ」

「ああ、毎日、こんなに腹いっぱい人族の血が飲めて幸せだよ」

「人族の血を飲み過ぎて、かえって獣人どもの血の方が美味く感じるときがあるぜ」

 グダニスクとブレメンの領界にある山の洞くつで、若いバンパイヤたちが寝そべりながら雑談をしている。

 バンパイアたちも、敵の戦法はわかっている。1か所に集まっていては全滅の危険があるので、当然、分散して暗がりに潜んでいる。

 この洞窟には、若いものばかりが50人ほど潜んでいた。


「ん?なんかいい匂いがしねえか?」

「おう、こりゃあ人間の匂いだ」

「おいしそうな匂いをさせている奴らが、たくさんこちらに向かっているぜ」

 若いバンパイアたち50名が潜む洞窟に侵入者があった。匂いは人族だ。


「おお、暗いな! こりゃあ吸血鬼どもが隠れるにはもってこいの場所だな!」

 洞窟に侵入してきた大柄な人族の男がでかい声で言う。

 男の後ろには、うまそうな若い女もいる。

 最近食べ慣れた、人族の匂いだ。

「おい!吸血鬼ども!いるなら出てこい!」

 侵入者の大男が言う、ひ弱な人族のくせに生意気な男だ。


「餌がのこのことやってきたな。うまそうな匂いさせやがって」

 吸血鬼たちがぞろぞろと集まってくる。大男の頭上で光る魔法の光が、集まってきた吸血鬼たちを照らす。

「お前ら、俺の国で好き勝手してくれたようだな」

「俺の国? だれだてめえ!」

「我は炎帝シンノウ、この皇国の皇帝である!」

「ふざけんなおっさん!皇帝がのこのことこんなところに来るか!ほらを吹くにしても、もう少しまともなほらを吹け!」

 吸血鬼たちが炎帝に襲い掛かる。

 

 吸血鬼は、普通の人族の数倍の力を持つ。その強力な力の全力で、前蹴りを放った。

 その蹴りは、炎帝の鎧を正面からとらえた。「ドガーーーン!」大きな音が洞窟に響く。

「ん?お前、何かしたか?」

 蹴られたはずの炎帝は、微動だにしていない。

「蹴りとはこうやるのだよ!」

 炎帝の蹴りが、茫然と立つ若い吸血鬼を捉える。

 蹴られた吸血鬼は、数メートル飛んでから壁に激突した。

 暗闇の中の吸血鬼は不死身である。しかし、蹴られた男はしばらく立ち上がれなかった。大きすぎるダメージには長い回復時間がかかるのだ。

「きっ、貴様!人間の分際で!」

「さて、人間の分際の我が、お前らを滅ぼそう。『我は炎帝シンノウなり。炎の精霊の力によりて、何物をも焼き尽くす力を我に与えよ〔サラマンダーの吐息〕!』」

 炎帝の魔法詠唱が洞窟に響く、そして、洞窟内に炎の暴風が吹き荒れた。

「「「ギャー―――――――!」」」

 吸血鬼たちの絶叫が響く。


「おい!やつらの動きは止めた。洞窟から引きずり出して日光浴をさせろ!」

 炎帝は、洞窟の外で待機していた部下たちに命令する。

 命令を受けた兵たちは、洞窟内で黒焦げになってうめいている吸血鬼たちを洞窟から引きずり出した。

 陽の光にさらされた吸血鬼たちは、断末魔の悲鳴をあげながら灰になって行く。

「お前らに食われた民たちの怒りを知れ!」

 洞窟内のすべての吸血鬼は、灰となって消滅した。


「炎帝様、お見事です。」

「ふん、ここにいたのはザコばかりだ。奴らの本隊を探すぞ」

「ハッ!」

 この日、発見、討伐できたバンパイアの数は、およそ100だった。

 そして、攻守が反転する夜がやってきた。

ストックが無くなりました。

連続投稿が・・・

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