54 いざ、海皇国へ
カズヤの耳はちぎれ、片眼がつぶれ、指は数本吹き飛び、頬やおでこはざっくりと切れ・・・満身創痍の状態になります。生きているのがやっと・・・。
天樹の空島が上昇を開始する。
普段は地上1000mほどの所に浮いているが、移動のときは、まず高度1万mほどまで上がるのだ。
「うわーーーーーーーーー!」
ジェイム君が、歓声を上げる。
天樹の空島は、高度1万mほどの上空を海皇国の皇都目指して飛ぶ。
時速はおよそ200km~250Kmぐらいだろう。
世界樹の結界に守られているので、島の中は普段と変わりない。強風が吹くわけでも、空気が薄くなるわけでも、寒くなるわけでもない。快適な空の旅だ。
来る決戦に向けて、俺たちは屋敷で休むことにした。
移動はテンジュにお任せである。ごめんね、テンジュ。
特に作戦はない、俺とクレエブルの二人で、敵を殲滅するだけだ。
戦場まで、あと数時間。俺の心は意外に落ち着いていた。
「カズヤ起きて、間もなく海皇国の皇都よ。」
ベティに起こされた。俺は、いつのまにかぐっすり眠っていたようだ。
「朝食にしましょう。」
一緒についてきてくれたガフの料理が用意されていた。ありがたい。
朝食をきちんと食べないと、力が出ないからな。
俺たちは、食堂に全員集合した。
「もうすぐ海皇国の皇都に近づく。これからの予定をみんなに伝えておく。」
みんな、食事の手を止めて俺を見つめる。
「敵から30kmほど離れた場所で天樹の空島は止める。島の高度は下げず、みんなはここで待っていてくれ。俺は、クレエブルと共に魔皇軍を倒しに行く。」
「そんな、たった二人でいくのですか? 私も連れて行ってください! 共に戦います!」
パルメが叫ぶ。
「俺もクレエブルも、近くに味方がいると、自分の攻撃で味方を巻き込むのが心配で、全力が出せなくなるんだよ。」
「我は、そんなの関係ないぞ。敵は滅ぼす、ただそれだけだ。」
「…まあ、俺たちは大丈夫だから心配しないで。周りに敵しかいないような状況は、範囲指定が楽で能力が使いやすいんだよ。 クレエブルだって、ブレス撃ち放題さ!」
説得ともいえない説得で、みんなを黙らせた。
「この天樹の空島にだって、いつ敵が攻めてくるかわからない。パルメは、俺たちがいない間、この天樹の空島を守ってくれよ!」
「はい・・・。カズヤ様。 旦那様の留守を守るのは妻の務めですから。」
俺は、クレエブルの背に乗って、天樹の空島から海皇国の皇都に向かう。
クレエブルと一緒なら、30kmなど5分もかからない。
今日の俺はフル装備だ!どんな熱も防ぐ世界樹の材料をメインに、革や金属でしつらえた防具に《亡国の剣》を背負っている。アンデットも切り裂くことができる刀身1mを超える大剣だ。この剣を使うのも久しぶりだな。
「俺はシーサーペントをやる! クレエブルはグリフォンを頼む!」
「まかせておけ!」
戦場には、30体ほどのシーサーペントの群れがいた。10mオーバーの巨体は迫力がある。そのうちの数体が、皇都の結界に向かってブレスを放っている。
俺のような小さな人族一人が近づいても、気づかないようだ。これは好都合。
「念動力!固定!」
俺は、すべてのシーサーペントを範囲指定し、力を開放した。全力だ!
「シーサーペントの動きが止まる。周りの海水も波も、そのままの形で静止している。」
「圧縮!!!」
シーサーペント達を中に閉じ込めたまま、圧縮を掛ける。すさまじい力がシーサーペント達を押しつぶす。巨大な蛇の体がいびつに歪み、折れ、骨が、内臓が体から飛び出ていく。
「「「「「ボキボキッ、グシャッ!」」」」」
「「「「グギャアアアアアアアァァァァ…。」」」」」
俺の全力の圧縮を掛けたられたシーサーペント達は、もはや原形をとどめていない。
圧縮の能力を解除すると、元はシーサーペントだった肉の残骸が、その血と共に海の中に沈んでいった。
「これで、一丁あがりっと! 次は、リッチとスケルトン軍だな。」
その場を離れようとしたとき、頭にテンジュの声が響いた。
「カズヤ、攻撃が来る! 防いでっ!」
考える間もなく、とっさに障壁を張った瞬間、とてつもない衝撃が襲ってきた。
「バリバリバリバリ!」
カズヤめがけて海中から放たれたブレスは、急ごしらえの薄いバリアを突き破り、カズヤの体中に無数の傷を作った。カズヤが傷を負いながらも無事で済んだのは、世界樹の素材で作られた防具が、その攻撃をかなり跳ね返したからである。
しかし、防具に守られていなかった耳はちぎれ、片眼がつぶれ、指は数本吹き飛び、頬やおでこはざっくりと切れ・・・満身創痍の状態である。生きているのがやっと・・・と言ってもよいぐらいひどい状態である。
「く~~~! 痛って~! ・・・油断した。」
カズヤは次の攻撃に備え、残った精神力を振り絞って自身の障壁を重ね掛けした。
3魔将の一体シーサーペントのプレシオルが、その漆黒の巨体をくねらせて海中から浮上してくる。よく見れば、プレシオルも満身創痍だ。角や腕は折れ、全身から血を滴らせている。
「我に傷を負わせたニンゲンめ! まだ生きておるのか! とどめを刺してくれる!」
プレシオルがカズヤに向かって再びブレスを放つ。
しかし、重ねがけした障壁は、プレシオルの強力なブレスに耐えきった。
「口の中も血だらけだよ、まったく…。」
などと言いながら、障壁の中でカズヤは普段からアイテムボックスに大量に保管してある天樹の樹液を口にする。
カズヤの体が強く光り、傷口がみるみるふさがっていく。
ちぎれた指が根元からむくむくと生え、裂けた耳の肉が盛り上がっていく様子は、逆再生の映画を見ているようだ。
「よしっ! 完全回復!」
天樹の樹液の力によって、30秒ほどでカズヤの体は完全に回復した。
「プレシオル、お前すごいな! 他のシーサーペントはつぶれたのに、お前はつぶれなかったんだな!」
「なめるな小僧! 我はプレシオル、魔皇国3魔将の一柱! 他のザコどもと一緒にするな!」
「ふ~ん、じゃあ、次の攻撃には耐えられるかな?」
俺は、プレシオルの半身を固定し、残りの半身を念動力で力いっぱい引っ張った。
「うおりゃあああああああ!!」
見えない手が、プレシオルの体を引きちぎろうとする。
「グオオオオオオ! なんだ、この力は!」
プレシオルは全力で耐えている。筋肉が盛り上がっているのがここからでもわかる。
「我は負けん! 負けんぞオオオオオオ! …ぶちっ、ぶちぶちっ…。」
しかし、必死の抵抗も空しく、プレシオルの体がちぎれ始める。
「ちぎれろ!こんちくしょー!」
「ぶちぃぃぃぃっ!!!!」
プレシオルの体は、中心でちぎれ、2つに分かれた。
「ギャアアアアアァァァァァァァ・・・・・・。」
断末魔の叫びと内臓をまき散らせながら、プレシオルは海の底に沈んでいった。
「はあ…、強敵だった。 まさか、俺の障壁が簡単に破られるとは…。敵と戦うときには、油断せずに障壁は重ね掛けしておかないとだめだな。 しかし、樹液の力はすごいな~。あんなにひどいケガだったのに、今は傷一つないし、痛みもないよ。 テンジュに感謝だな~。」
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