39 空島への移動は空を飛んで
従業員の移動が始まりました。
空島も賑やかになってきました。
空島への引っ越しの日がやってきた。
全員、昼前にはきちんと集合できたようだ。俺は、時間にルーズな人が嫌いである。皆、時間通りの行動ができて気持ちがいい。
「じゃあ、屋敷を天樹の空島に移動します。皆さんも屋敷と一緒に運んでもいいんですが、万が一危険があるといけないので、まずは、屋敷だけ運びます。」
俺は、皆が見つめる中、屋敷を囲む塀も、庭も含め範囲指定し、固定した。
そして、地中1mまでの土を一緒に持ち上げるイメージで、土や塀ごと屋敷を持ち上げた。
「「「「「おおおおおおおお~~~~~~」」」」」」
作業を見守っていた従業員の皆さんも、商会の皆さんも、ゲオルグさんも、野次馬で集まった街の人々から驚きの声が上がった。
「お父さん、見て見て! しゅごいよ! おっちなお家が空を飛んでるよ~。」
クララちゃん。いい感性しているね~。
「クエレブル! 俺を空島まで運んでくれ!」
「承知した、我が主よ。」
と言ったクエレブルが、青年形態から巨大な龍形態へと変化する。
「「「「「おおおおおおおお~~~~~~」」」」」」
「「「「「きゃああああああああ~~~~」」」」」」
先ほどと同じような歓声が上がった。歓声と同じぐらい、悲鳴も上がったようだが…。
俺が、自分の念動力で飛ばないのは、万が一にも集中を切らせて、屋敷を落としたくないからである。もし、落としたら、もったいないうえに、とんでもない被害が街に出るだろう。
クエレブルの背に乗って、屋敷の運搬に集中しながら、俺は、天樹の空島に向かった。
屋敷の移動は、大成功だった。ふう、よかった。
次は、人と荷物の移動である。
全員を1か所にまとめ、へそから下ぐらいを指定して固定した。
「ねえ、お父しゃん、大変だよ、足が動かないよ! どうしたらいいの?」
「クララ、大丈夫だよ。 これは、カズヤ様の魔法だから、魔法が解ければ、また動けるようになるよ。」
「ほんとに? クララ、また、走れるようになる?」
「うん。もちろん。今だけだよ。すぐ動くようになるから、今は我慢してね。」
「カズヤしゃま、わかった!」
念動力!
俺は、またしてもクエレブルの背である。クエレブルの背に乗りながら、全員と荷物を天樹の空島に運んだ。
「うわ~、クララ、お空を飛んでるよ~。しゅごい!」
クララちゃんは、いたって平常運転であった。
街から天樹の空島まで、およそ50kmの空の旅である。
最初は怖がって、真っ青な顔になっていたクレメンスさんも、慣れれば初めて見る空からの景色に歓声を上げていた。
天樹の空島に到着してから、腰が抜けてしばらく立てなかったのはご愛敬である。
「皆さん、天樹の空島へようこそ。」
そこは、巨大な世界樹の下であった。
「ふえ~、でっかい木~。しゅご~~~い…。」
「あれが世界樹…、なんと神々しい。」
その時、世界樹の後ろから、猛スピードでこちらに向かってくる巨大な姿があった。
「「「魔獣だ!」」」
「あれは、デスキングコブラ! 毒液を吐いてくるのでご注意を! 子どもたちは、大人の後ろに!」
執事のクレメンスが警告を発した。この人マジ有能です。 魔獣の知識もあるようだ。 しかも、戦闘力もありそうな構えだ。
俺は、デスキングコブラに向かって、こちらから近づいていった。
「カズヤ様、危険です! 不用意に近づかないでください! デスキングコブラには私が対処いたします。 カズヤ様はお逃げください!」
クレメンスは、決死の表情である。
ああ、あれは、デスキングコブラの〔デスキン〕だな。 俺が名付けた。 首の花柄模様が目印だ。その狂暴な見た目と裏腹に、人懐っこい可愛いやつなのだ。 俺の帰りに気付いて、やってきたのだろう。しっぽが激しく振られているのがデスキンの喜びの表現だ。 …犬か!
「デスキ~~ン。久しぶり! 元気だったか~。」
駆け寄った俺に俺に頭をこすりつけてくる巨大なデスキンを抱きしめ、よしよしと撫でる。 蛇の鱗って、さらさらしていて手触りがいいんだよ。
撫でられるデスキンは、しっぽを振り振りして、とても嬉しそうだ。と、言っても表情には乏しいのだが・・・。
「なっ! 凶暴なデスキングコブラが人に懐いている・・・。これは、夢ですか?」
とクレメンス。
「ね~、非常識よね。でも、あのくらいで驚いていたら、ここでは暮らしていけないわよ。」
とベティ。
「改めて説明しますが、この島にいる鳥も獣も魔獣も、すべて俺に従属しています。だから、決して人を襲うことはありません。 でも、皆さんは、いざというときに身を守るすべがありませんから、不用意に魔獣に近づかないでくださいね。 ある程度の知能がある獣や魔獣は、皆さんが私の身内だという認識ができますが、あまりに知能が低いものは、そこがわからず俺以外には襲いかかる可能性があります。 油断大敵です。 それに、安全なのは、基本的に世界樹を囲った塀の中だけです。 魔獣たちに、この塀の中での攻撃を一切禁止しているんです。 塀の外ではそうではありません。 塀の外では彼らも狩りをして食料を得ないと生きていけませんから。」
世界樹を囲む塀の広さは、直径3kmほどの円形だ。
「付け加えますが、そういった理由で、この島にいる獣も魔獣も、俺の身内のようなものです。 だから、塀の外でも狩りをして肉を得るという行動は禁止です。」
「かずやしゃま、へびさんにさわってもいい?」
「ああ、いいよクララ。 この子の名前はデスキン。撫でてあげると喜ぶよ。」
クララは、おずおずとデスキンに近づき、その鱗をそっと撫でた。
「わあ~、かた~い。 すべすべちてて、ちもち~。」
「あの、僕も、触れてみていいでしょうか?」
おっ、お兄ちゃんのマルコ君も来た。
「もちろんいいよ。さわってみて。」
マルコ君も、笑顔でデスキンを撫でている。
それを見ている両親は、顔が真っ青だ。そりゃあそうだろう。本来、デスキングコブラと言ったら、死の遣いみたいな魔獣だからね。
デスキンは、二人に撫でられてまんざらでもないようだ。しっぽが振れている。
「デスキンは、知能が高いから、信頼できる魔獣だよ。この山では、馬代わりに背に乗せてもらっているし・・・。どんな地形でも移動できるし、乗り心地最高なんだよ。馬なんて目じゃないね。」
「ね。非常識でしょう。」
というあきれ顔のベティの言葉に、その場にいた全員が首を縦に振った。
デスキングゴブらのデスキン、可愛いです。
カズヤ達の乗り物代わりになっています。
デスキンがそれを喜ぶのは、尊敬する龍が乗り物をやっているのを見たからです。




