23 目的は【ボダーラ山】
リーベの町編終了です。
この町では、様々な出会いがありました。
いい人たちばっかりです。
「〔天樹〕の妖精さん、この二人のことはわかる?」
俺は、ベティとエルミアを指さして聞いた。
「もちろんわかるわ、マーリン海皇国第2皇女ベティシア・ソプラ・マーリンと、世界樹の巫女エルミア・カラリス・レーベンタークね。エルミアには、感謝しているわ。今日の満月の夜に、カズヤをよくぞ連れてきてくれたわね。ありがとう。」
「そんな~、天樹の妖精様、もったいないお言葉でございます~。」
「私のことは〔テンジュ〕と呼んでちょうだい。 天樹の妖精様じゃ仰々しいわ。」
「じゃあ、テンジュ、よろしくね。私のことはベティって呼んで。」
「うふふ、わかったわ、ベティ。こちらこそよろしく。」
「カズヤにお願いがあるの。聞いてくれる?」
「俺にできることなら、何なりと。テンジュの願いは叶えるよ。」
「私をボダーラ山に連れて行ってほしいの。」
「その、ボダーラ山って、どこにあるの?」
「この陸の皇国にある山よ。とっても高く大きな山。そこが、本来、私がいるべき場所なの。」
「ベティ、エルミアは知ってる?」
「陸の皇国で一番高い山だってことぐらいは知っているわ。」
と、ベティ。
「はい、もちろん知っています。この陸の皇国のものならば、知らぬものがない山です。ボダーラ山は、この陸の皇国で一番高い山であり、一番神秘的で恐れられている山です。その山のふもとには樹海が広がり、その樹海には多くの強力な獣や魔獣が生息しています。龍が住んでいるとも聞いています。『ボダーラ山に足を踏み入れて戻ってきた者はいない』と言われるぐらい、たどり着くのが難しい山です。」
さすがは陸の皇国国民のエルミア、よく知っている。
「じゃあ、さっそく出発!って言いたいところだけど、領主に話を通してから動いた方がいいな。それに、お世話になった商会の皆さんにもお別れを言わないといけないし。新しい家も、まだ受け取ってないから受け取らなければならないしね。」
「海水ってしょっぱくて、居心地が悪いのよ。枯れはしないけれど、美容にはよくない環境ね!」
テンジュは、なるべく早くここから移動したいらしい。少し待っててね。
あくる日、リハードさんに、このリーベの町を離れることを伝えた。
リハードさんは、大変残念そうだった。特にカール君は俺によくなついていたので、涙を流して別れを惜しんでくれた。
俺ももらい泣きしちゃった……。
おれは、お世話になったお礼として、天樹の葉100枚と小樽いっぱいの樹液をリハードさんに渡した。
「こ、これはまさか、世界樹の葉ですか! こんなにたくさん! 本当にいただいてもよろしいんですか?」
リハードさんは大喜びだった。十分に俺たちが思う存分買い物をした補填になるだろう。それに、カール君の病気が再発したときに使ってほしいと思う。
リハードさんから借りていたゴールドカードを返却しようとしたが、
「このカードは、陸の皇国内でなら大体使えます。どうぞ、好きなようにお使いください。」
ということで、もらうことになった。
また、その日のうちに領主のいるベリルンまで念動力で移動し、面会を申し出たら、すぐに客間に通してもらえた。
領主には、天樹の妖精の意思に従って、ボダーラ山を目指すことを伝えた。
領主とは、無用なトラブルを防ぐため天樹の飛行ルートから、このベリルンを外すことと、地上から見えにくい夜間に移動することを約束した。
「よりにもよってボダーラ山とは……。あそこは人外魔境だぞ。」
「はい、そのように聞いています。 でも、きっと大丈夫です。」
「無事にボダーラ山に着けたら、旅の顛末や山の様子を聞きたいものだ。」
「はい、では、落ち着きましたら、この城を再び訪れたいと思います。」
「そうか、まっているぞ、達者でな。」
領主のディートリヒさんは、俺たちを快く送り出してくれた。
献上した天樹の葉100枚のお礼にと、剣や鎧、ハイデルベルグ領の特産物などを大量にもらった。これで、当分食材には困らないな。
今、俺のアイテムボックスには、海で採った海の幸がどっさり、もらったフルーツがどっさり、もらったり買い込んだりした穀物や野菜、肉などもどっさり入っている。もちろん、調味料もたっぷり用意した。多分、年単位で暮らせる量だろう。
注文していた家だが、満足のいく出来だった。
とても素敵な住居が手に入った。準備万端だ!
さあ、出発しよう!
俺は念動力で、天樹を空に浮かべる。
「「「「「おおおおおおーーーーーーーー」」」」」
その様子を見ていた人々から驚嘆の声が上がる。
「ザザザザザザザザザザン・・・。」
空中に浮いた天樹からは、海水が滝のように滴っている。
すでに、あたりは暗くなっている。眼下にはリーベの港、見送りに来てくれていたリハードさん一家をはじめ、商会の皆さんが手を振ってくれている。
「さようならー!おげんきでー!」
「また来てください!いつでも大歓迎です!」
「「「「「「さようならー!」」」」」
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カズヤたちが出発した次の日、ベティを捉えるための追手がリーベの町に到着した。
「ようこそ、おいでくださいました、親衛隊副隊長トビアス様、皇室一級魔法使いコルネリア様。長旅、お疲れさまでした。」
諜報部隊千の影の副隊長ヤーコブがトビアスたちを出迎えた。
ここは、リーベの町でも指折りの高級宿屋である。
「早速だが、ベティシアの動向は?」
「それが……。」
「どうした? まさか、見失ったのか?」
「ベティシア様は、昨日、リーベの町を離れてしまいました……。」
「な、何だと! どうして逃亡を許した!」
「それが、思いもよらない方法だったので…留めることができませんでした……。」
「思いもよらない方法? どんな方法で、ベティシアは町から出たのだ!!」
「巨木に乗って、空を飛んで……です。」
「は? 巨木? 空を飛んで?」
「はい、私も、自分の正気が信じられない光景でした。100mを超す大木が宙に浮かび、ベティシア様を乗せて、空のかなたに飛び去ったのです。」
「お前らの不手際でベティシアを逃がしたからって、作り話をするのもほどほどにしろよ!」
「天に誓って本当でございます。ここにいる者たちも、全員、それを見ております。」
「本当か?」
その場にいたものすべてが首を縦に振った。
「口裏を合わせているわけではなさそうだな。で、ベティシアはどこに向かったのだ!」
「ボダーラ山でございます。」
「なっ?ボダーラ山だと? ベティシアは死にに行くのか?」
「目的は皆目見当がつきません。しかし、ボダーラ山に向けて、すでに千の影の追っ手は放っております。」
「そうか……、よりにもよって『死の山』と恐れられているボダーラ山とは…。」
なかなかベティシアを追いかけるのは大変です。
何しろ、空を飛んで逃げてしまいますから……。




