18 異世界の工務店に、家造りを依頼するようです。
新たな登場人物が現れそうです。
次の日、俺は、ベティとともに二日目の買い物に出かけた。
お目当ての品は“調味料”である。
もちろん、時間の止まるアイテムボックスに入れておく食料も、いざというときのために大量に買っておくつもりである。
「カズヤ様、何をお買い求めになりますか?」
と、聞いてくるカサンドラさん。本当に有能な人だ。
「まずは、食料と調味料を買いたいです。案内をお願いできますか。」
「はい、わかりました。ご案内いたします。」
俺とベティはカサンドラさんの案内で、すぐに大きな商店に到着した。
「これは、これは、カサンドラ様。今日はどのようなご用件ですか?」
人の良さそうな店主がこちらに話しかけてくる。
「こちらは、カズヤ様とベティシア様です。このお二人の買い物に便宜を図りなさい。」
「こちらのお二人は?」
「副代表の大切なお客様です。くれぐれも失礼の無いように。」
カサンドラさん、厳しいよ・・・。昨日のことがあってから、カサンドラさんの言動が、いっそう過激になったような気がする。
店主の案内で、まずは調味料を見せてもらう。
塩、油、砂糖、唐辛子、こしょうなど、だいたいのものがそろっている。さすがは大商店である。うれしいことに、味噌のようなもの、醤油のようなものもあった。さすがに、ソースやマヨネーズは無いようだ。
小麦、米、(米も普通にあった!)を大量に購入できたので、今後の食生活が、より豊かになるだろう。それぞれ100kgほどを、アイテムボックスに入れる。
干し肉やドライフルーツ、豆や芋などの穀物も大量に手に入った。
もちろん、支払いはリハードさんのゴールドカードである。申し訳ない・・・・・・。
次に、カサンドラさんに、調理器具や食器の店に連れて行ってもらった。
そこでは、魔力で火を起こす魔法のコンロが手に入った。
鍋やフライパンを購入する。土鍋も忘れずに買おう。
フォーク、スプーン、ナイフ、ボウルにお玉・・・・・・必要と思われるキッチン用品を、自重せずに揃えた。
「カズヤ様、次は、どのようなものを購入なさいますか?」
「あとは・・・・・・家が欲しいな。」
「家ですか?カズヤ様は、このリーベに定住なさるおつもりなのですか?」
「いや、家と言っても小さな家が欲しいんだ。天樹乗せられるような家は作れないかなあ?」
「天樹の上にでございますか?そのような特殊な家は、大工に注文しないとありませんね。」
「では、そんな家を作れる大工を紹介してもらえませんか。」
「・・・・・・はい、承知いたしました。大工は、お店にいるわけではありませんので、商会に呼んで話をする形になりますが、よろしいですか?」
「もちろんです。よろしくお願いします。」
次の日、一人の青年が屋敷にやってきた。
「私は、デリア工務店の設計士ディートハルトと申します。あなた様が、カズヤ・サクラザカ様ですか?」
「はい、そうですが、なぜ、私の名前を・・・?」
「絶海の海賊団を壊滅させ、獄炎のヘルゲを討ち取り、マーリン海皇国第2皇女ベティシア様と二人で買い物をなさっているのです。貴方は、今やこの街の有名人ですよ。英雄と言っても過言では無い。そんな貴方の依頼で仕事ができるのです.こんな名誉なことはございません。精一杯勤めさせていただきます。」
そういえば、買い物をしているときに、お礼を言われたり、握手を求められたり、じっと見られたりしたっけ。カサンドラさんがガードしてくれたから大騒ぎにはならなかったけれど・・・・・・。
「それで、どのような家をご所望なのですか?」
「巨大な丸太の上に乗せられる、細長い家が欲しいんです。」
「その丸太というのは、港の沖に浮かぶ、あの、不思議な大樹のことですか?」
「はい、そうです。それで間違いないと思います。」
ああ、〔天樹〕も有名になっているんだな。そうだよな。大きいもんなあ。目立つよなあ。
「作りは簡単でいいです。雨風が防げるなら十分です。あまり重いと、家を乗せたときに天樹が沈んでしまうかもしれないので、軽く作って欲しいのです。」
「そうですね。わかりました。あの巨木は天樹と言うのですね。」
「はい、不思議な木です。」
「家には、部屋が横並びで8部屋欲しいです。そして、それぞれの部屋に、ドアをつけてください。」
「部屋から部屋への移動は必要ないのですか?」
「はい、プライベートは大切にしたいので・・・。」
「ぷらいべえと?」
「あっ、お気になさらず・・・。」
「8部屋の内訳はどうお考えですか?」
「キッチンが一部屋、居間が一部屋、それと、トイレの部屋、風呂の部屋、寝室が4つと考えています。」
「では、そのような部屋割りで図面をお作りしますので、数日いただいてもよろしいですか?」
「はい、よろしくお願いします。」
照明は、魔力を使い、明るく照らす魔道具があるそうだ。家具は、揺れても大丈夫なように作り付けで、すべてに扉を付けてもらうことにした。ベッドも、動かないように据え付けをお願いした。そして、キッチンには水をためておくタンクや、魔道コンロ、6人程度座れるテーブルセットをお願いした。トイレは、排泄物の水分を抜いて熱処理し、においをなくすという最新タイプの魔道トイレだ。風呂は、木の桶だ。言うなれば檜風呂である。天上近くにも水をためる場所を作り、そこからシャワーのように水が落ちるようにしてもらう。二人程度が入れるぐらいの大きさをお願いした。・・・ベティと一緒に入ろうと考えた訳じゃあないよ。
出来上がりが楽しみである。
「図面を引くために、その土台となる天樹を近くで見せていただきたいのですが・・・。樹木なので、土台は当然湾曲していると思います。湾曲の角度も、事前に計ってから設計したいのです。」
「それは、そうですよね。では、善は急げで、今から天樹に行きますか?」
「はい、ぜひ、お願いします。」
今回も、小舟に乗って天樹へ向かう。
実際、念動力を使い、空を飛んでいった方が速いのだが、「目立ちすぎるのは良くない」という判断で、船での移動である。船も、漕ぎ手などいなくても念動力で進められるのだが、従者にお願いして運んでもらっている。
天樹を近くで見たディートハルトさんは、やはり、その大きさと存在感に圧倒されたようだ。
「これは・・・、信じられないほどの大きさです。これなら家を乗せても大丈夫そうだ。」
ディートハルトさんは、樹皮を手で触り、質感を確かめているようだ。
「少々、木に傷を付けてもよろしいですか?家が動かないように、土台に金具を打ち込む必要があると思いますので。」
「いいですよ。でも、この木は驚くほど堅いから、傷が付くかどうか分かりませんよ。」
ディートハルトさんは、短剣を取り出し、木材の調べをするために、足元の樹皮をめくろうとした。
「やっ!」
勢いよく振り下ろした短剣が、堅い樹皮にはじかれる。
「カキーン!」
「痛っ!」
手がしびれたようだ。樹皮には、少しの傷も付いていない。ディートハルトさんは、何度か短剣を振るうが、一向に傷は付けられないようだ。
「・・・・・・信じられません。短剣で傷つけることができない木なんて・・・・・・。金属に斬りつけたような手応えです。」
「実は、この木、火もつかないんですよ。熱しても熱くならないんです。」
「なんと・・・・・・、夢のような素材ですね。・・・しかし、加工することができなそうなことが残念です。」
ディートハルトさんは、次に、枝の採取を試みようとした。
手頃な細さの枝を持ち、ポキッと折ろうと力を込めた。
「やっ!・・・・・・あれ?はああああ!ぐぎぎいぎいいぎぎいぎぎいぎ!・・・・・・折れない。」
そのとき、天樹の先端部分、葉が茂っている奥の方から声が聞こえた。
「貴様ら!何をしている!」
剣を抜き、鋭い眼光で、こちらに向かってくる人物の姿が見えた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
今後も、おつきあいいただけるようお願い申し上げます。
しかし、修正しても修正しても、読み返すたびに修正箇所が生まれます。
読み返すたびに、自信が打ち砕かれます。う~む




