15 異世界ショッピング 服屋さん
何も荷物を持っていない二人は、まずは、服を買いに来たようです。
リーベの町に入る。
俺たちは、リーベの町の海の玄関【リーベ港】に入港した。
天樹は、リハードさんの船の後ろに停泊させた。
沿岸警備隊が目を白黒させて慌てていたが、リハードさんがうまく説明してくれたようだ。
小舟に乗せて連れてきた海賊たちは、港で警備隊に引き渡した。海賊たちは、声を出せないように口枷をされた上に、厳重に縛られて連れていかれた。
引き渡しの際に、海賊たちに掛けた固定を解いたわけだが、それまで固定のせいで出すに出せなかった下のものが、固定を解かれた途端出てしまい、大変なことになったのは笑い話にしてもいいだろうか。〈固定〉のもっと繊細なコントロールを身に付けないと・・・・・・。
首と胴を切り離した3人は、その死体を引き渡した。討伐の証明に必要らしい。
俺とベティは、リハードさんに連れられて、リーベの町の中心にあるキャスタル商会へと案内された。大きな店構えだ。さすがは大商会。この建物は、旅の商人や来客用に、ホテルとしての機能も備えているらしい。
俺とベティは、それぞれに、スイートルームのような豪華な部屋が与えられた。
「さてさて、異世界のホテルはどうなっているのかな。」
おれは、興味津々でホテルの部屋を調べてみた。
部屋全体に、ペルシャ絨毯のようなふかふかの絨毯が敷き詰められている。
コップはガラス製だ。冷蔵庫は・・・さすがに無いか。テレビも無し。
水は、金属製の水差しに入れられている。これ、銀製かな?
ベッドは、羽毛のようだ。ふかふかだ。羽毛は、鳥がいれば手に入るからね。
風呂は・・・あった。が、蛇口が一つしかない。ひねると水が出てきた。さすがにお湯は出ないか・・・。
トイレは、水洗のようだ。やったね。
「結構文明的なんだな。」
これなら、現代日本の快適さに慣れ切った俺でも、そこそこ快適に過ごせそうだ。
「コンコン」
ドアをノックする音がする。
「は~い、開いてますよ。どうぞ。」
「カズヤ、入ってもいい?」
どうやらベティのようだ。
「どうぞ、ドアは開いているよ。」
ベティが、部屋に入ってきた。
「カズヤ、街に買い物に行きたいのだけれど・・・・・・。」
「いいね、俺も、いろいろと買いたい物があるから行きたいな。」
今後、マーリン海皇国からの追っ手がかかるだろう。今なら、まだ、敵の持つ情報は少ないはずだから、すぐに襲撃されることはないだろう。今のうちに旅の準備を進めてしまいたい。
「でも、俺、お金を持っていないよ。海賊討伐の賞金が出るって聞いてはいるけれど、まだもらってないし・・・・・・。」
「それは大丈夫。商会のリハードさんに借りればいいわ。賞金を手に入れたら、すぐに返せばいいのよ。」
「なるほど、いい方法だね。じゃあ、買い物に行こうか。」
俺とベティは、リハードさんに買い物に行きたいこと、しかし、お金がないので貸して欲しいことを申し出た。
「カズヤ様、ベティ様、あなたたちにお金をお貸しするなんて、とんでもありません。このカードで、お買い物をなさいませ。いくら使っていただいてもいいですよ。」
と言って、俺に1枚のカードを貸してくれた。金色の、見るからに貴重そうなカードだ。何かのレリーフが、金細工で彫り込んである。カードの裏にはリハードさんのサインが記されている。俺も、その下に、自分の名前をサインした。
「このカードを見せれば、どのお店でもお金を持たずに買い物ができます。このカードを使い、お好きなだけ買い物をしてください。カズヤ様に助けていただけなかったら、私は殺されていました。それどころか、船も、積み荷も、乗客も、息子も、すべて失っていました。そのご恩をお返ししたいのです。」
「どうも、ありがとうございます。お心遣い感謝いたします。使わせていただきます。」
うわ~、ラッキー!異世界板ゴールドカードだよ~。しかも、支払い不要だよ~。
「ただ、あまり小さな店や、屋台ですと、このカードが使えません。そんな店では、こちらの現金をお使いください。」
そう言って、リハードさんは俺たちに一袋の硬貨をくれた。袋の中には、金貨・銀貨・銅貨がたくさん入っている。ありがたい。至れり尽くせりだよ。
「この街に不慣れなお二人は、どこに、どんな店があるかご存じないでしょう。従者をおつけしますので、案内役としてお使いください。」
ということで、買い物には一人の女性が付いてきた。年は30ぐらいか、物腰は穏やかだが、非常に仕事ができそうな風格を持った人だ。
「では、参りましょう。私は、キャスタル商会のカサンドラと申します。カズヤ様、ベティシア様のお買い物の案内役をさせていただきます。よろしくお願いいたします。」
深々とお辞儀をする、その姿も決まっている。
「はい、こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」
「よろしくね。カサンドラ」
さすが皇女様、こういった対処に慣れているな。とても自然だ。
「本日の買い物の予定をお聞かせいただけますか?」
「う~ん、まず最初に行きたいのは服屋かな。俺たち、服は、今着ているものしか持ってないんだ。それから、武器。ナイフ1本すら持っていないんだよ。このままじゃあ、不便だからな。」
「武器をお持ちではないのですか?・・・・・・それでどうやって海賊を・・・・・・?」
「まあ、その辺は、実際に現場にいた人に聞いてよ。」
「では、まず、服屋に向かいましょう。」
俺たちは、賑やかな港町の大通りを、のんびり歩きながら服屋へと向かった。
服屋は、案外近くにあった。
「カズヤ様、ベティシア様、こちらがこのクリードの町最大の衣料店でございます。下着から礼服まで、衣類なら何でもそろっております。」
お店の名前は【ヴォルフガング衣料店】、名前がかっこいい。
「いらっしゃいませ。おお、これはカサンドラ様、本日はどのような御用でしょうか。」
「こちらは、カズヤ様とベティシア様でございます。このお二人の衣服を買いに来ました。若旦那様の大切なお客様です。心して対応してください。」
「若旦那様の大切なお客人でしたか。それは、心して対応させていただきます。」
リハードさん、若旦那って呼ばれているんだ。
「大変失礼ですが、ベティシア様はもしかして、海皇国の第2皇女さまではありませんか?」
「はい、そうです。やはり、すぐにわかってしまいますか?今は、こんな姿ですのに」
「ベティシア様は大変美しくいらっしゃいますので、一目見たら忘れません。私は、先の式典で、使節団としていらした皇女様をお迎えした者の一員でございますので。」
「そうでしたか、その節は、大変お世話になりました。」
「いえいえ、そんな、私にはもったいないお言葉です。美しくお優しい、皇国の皇女様をおもてなしできることこそ、われら商人の喜びでございます。」
そう言ってから、店主は深々とお辞儀をした。
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