14 ベティシアが追われている事情
ベティシアが、なぜ追われているかが明らかになります。
まあ、ベタな展開です。
〔天樹〕で一人待つベティの元に戻る
〔天樹〕に戻ると、ベティが駆け寄ってきた。
「カズヤ、大丈夫だった?ケガはない?」
「うん、大丈夫だよ。ただ今、ベティ。」
「おかえりなさい。それで、やっぱり、海賊だったの?」
「うん、【絶海の海賊団】っていう海賊だった。」
「【絶海の海賊団】!!! 超大物じゃない!!! 団長の〔獄炎のヘルゲ〕の火の魔法は、皇国騎士団1個中隊を全滅させたっていう噂よ! 副団長の〔瞬光のバルブロ〕は瞬間移動の使い手で、どこにでも侵入してくるし、捕まりそうになってもすぐ逃げちゃうし、世界最強最悪の海賊団って言われているのよ!」
「へ~、そうなんだ。」
「それで、どうなったの? あの海賊団相手じゃあ手も足も出ないでしょう。カズヤは逃げてきたの? よく逃げられたわね。」
「いやいや、殲滅してきたよ。」
「・・・・・・エッ?殲滅!? ほんとうに?」
「うん、本当に。」
「うわ~、カズヤは強いとは思っていたけれど・・・・・・、常識を疑うわね。」
「それで、今から、あの大型船と一緒にリーベの町まで行くことになったんだ。とりあえず〔天樹〕ごと移動して、大型船に近づくよ。」
「大丈夫かしら、こんな非常識な乗り物で近づいて・・・・・・。」
「まあ、大丈夫でしょう。俺、あの人たちの命の恩人だし。」
「カズヤ、軽いわね。」
笑顔でそんなことを言うベティも、結構軽いんじゃないだろうか。
俺とベティは、〔天樹〕のスピードを上げ、大型船に近づいた。
大型船の乗客たちは、全長100mもある巨木、それも、海の上なのに枯れもせず葉がふさふさしている〔天樹〕を見て目を丸くしている。だいたい、そんな木が船以上のスピードで移動しているのも不思議だろう。日常的に魔法が使われているファンタジー世界だからこそ、このくらいの驚きで済んでいるのかな。
俺は、ベティを伴って、大型船に乗り込んだ。もちろん、空を飛んでだ。
「リハードさん、この女性は、俺と一緒に旅をしているベティシアさんです。」
この大型船の船長である、【キャスタル商会】副代表の〔リハード〕さんに、ベティを紹介する。
ベティは追われている身なので、名前や身分を隠した方がいいかとも思ったが、リハードさんが協力者になってくれることを願い、正直に伝えることにした。
ベティは、優雅に会釈をした。
「ベティシア様、でございますか? もしかして、海の皇国の第2皇女様ではございませんか?」
おー、ベティは有名人なんだ。さすがだね。
「はい、私はマーリン海皇国第2皇女ベティシア・ソプラ・マーリンです。おわかりになるのですね。」
「おお、私はリーベの町のキャスタル商会で副代表をやっております。リハードと申します。皇女様のご尊顔を拝謁でき、幸せにございます。」
「リハードさん、そんなにかしこまらなくて結構ですから。私のことは、ベティとお呼びください。」
「皇女様に対してそんな恐れ多い・・・・・・。では、ベティ様とお呼びさせていただきます。
この度は、お連れのカズヤ様にご助力いただき、この命を拾うことができました。深く感謝いたします。」
「いえいえ、私にお礼なんて・・・。 私の力ではありません、すべて、カズヤの力です。」
「そうでございますか、さすがカズヤ様。・・・・ところで、皇女様のお付きの方々がいらっしゃいませんが、どうかなされたのですか?」
皇女殿下が、こんなところで、従者もつれずにいるのだから、その質問は真っ当だろう。
ここで、カズヤが説明を加えた。助け船になるかな?
「ベティが、〔アオザメン〕に襲われているところを俺が助けたんだ。 その時には、すでに、従者は一人もいなかった。 どうやら、ベティは追われているみたいなんだ。 だから、リハードさんに、いろいろと協力してもらいたいと思って紹介したんだ。」
「・・・・そうでございましたか、しかし、なぜ・・・・。」
「実は、俺も、詳しい話は知らないんだ。まだ、聞いてないからな。」
「カズヤ、リハードさん。私が追われている理由を話すわ。聞いてくれるかしら。」
「こんなところで話せるような内容ではないでしょう。私の部屋に参りましょう。」
船長室は、広くはないが上品な作りで、落ち着く雰囲気の部屋だった。俺とベティは、船が揺れても動かないように、床に固定されているブラウンのシックな革製のソファに腰かけた。
「今、メイドにお茶を用意させていますので、お待ちください。」
しばらくすると、水兵さんのようなセーラー服のメイドと思しき女性が、飲み物を運んできた。
「お口に合うかわかりませんが・・・・。」
紅茶かな?透き通った茶色の液体だ。一口すすると、濃厚な茶葉の香りが広がった。これは、紅茶だな。
「おいしいですね。」
俺には久しぶりの樹液以外の飲み物だ。〔天樹〕の樹液はおいしいが、他の味に飢えていたのも事実だ。熱々の紅茶が非常においしく感じる。
「気に入っていただけたのなら幸いです。マーリン海皇国のファーウ地方特産の海紅茶です。ベティ様には慣れた味かと存じます。」
「とてもおいしいお茶ね。淹れ方も上手だわ。茶葉の良さを引き出しているわ。」
紅茶も海で採れるのか!すごいぞファンタジー!
「では、聞いていただけますか。」
「はい。」
俺とリハードさんは頷いた。
「私の従者が、兄に毒を盛ろうとしたのです。」
「・・・・どういうことですか?」
「私は、もともと、スラニム第一皇子から疎まれていました。スラニム兄さまは気が短く、癇癪もちで、私は小さなころから、兄によくいじめられていました。兄の横暴な態度に反感を抱くものも多く、民からの人気もありません。自分で言うのもなんですが、私は、使節団や親善大使としての公務も多く、民から大きな支持を得ています。そんな私が気に障るようで、スラニム兄さまは、私を毛嫌いしていました。
先日、私の従者が、兄の従者に捕らえられました。兄の食事に毒を盛ろうとしたそうです。その従者は、私に過度な思いを寄せていたようです。捕まえられた私の従者は『あんな無能に国王は務まらない、ベティシア様こそが次の国王にふさわしい!スラニムなど死ねばいいのだ!』と口走っていたそうです。
私は、第1皇子暗殺を指示したという罪で、国家反逆罪を言い渡されました。もちろん、暗殺の指示などしていません。従者の勝手な暴走です。
国家反逆罪は、無期の幽閉か死罪です。言い逃れができるとは思えません。兄は、これをチャンスととらえているでしょう。追っ手の〔アオザメン〕を放ったのも、私が逃げ出すことを予想したからだと思います。国家反逆罪の逃亡者である私をを殺しても、罪になりませんから。
ですから、私は現在”逃亡中の犯罪者”です。こんな私に関わると、共犯者にされてしまう恐れもあります。」
ベティは、自分が追われている理由を包み隠さず話してくれた。国家反逆罪とはた大層な罪名だが、俺の予想と大きくは違わない。王位継承争いが原因だと思っていたからね。
「まあ、だいたい、俺が思っていた通りだよ。」
ベティは、少し心配そうな顔をしている。大丈夫だよ。
「俺はいいとして、リハードさんは巻き込まれたらまずいんじゃないの。」
「う~ん、・・・そうですね。でも、まあ、私はベティシア様とは違う【陸の皇国】の民ですし、ベティシア様が国家反逆罪に問われていることなど、本来なら知り得るはずなどございません。何も知らなかったことにすれば、何ら問題ありません。」
「そうか、助かるよ。リハードさん、世話になる。」
俺と、ベティと、リハードさんは、互いに手を握り合った。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
今後も、おつきあいいただけるようお願い申し上げます。
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