13 船長さんから、捕らえた海賊の息の根を止めて欲しいとお願いされました。
戦いに勝つということは、命を奪うということなんですね。
やはり異世界では、人の命が軽いです。
「あ~、じゃあ、息の根を止めますね。」
おれは、海賊団の団長〔獄炎のヘルゲ〕を視認し、体を固定して、頭だけ上に引っ張る。
苦悶の表情をすることもできないまま獄炎のヘルゲの首は、あっという間に体とサヨナラをした。 大した抵抗も、音も、罪悪感も感じなかった。
感じるのは、雨の日に、道路にいたアマガエルを踏んづけてしまったときのような気持ち悪さだ。
頭と胴体が離れ離れになれば、大海賊と雖もさすがに生きてはいられないだろう。
「次は、瞬光のバルブロをお願いします。 あそこにいます。」
船長の指さした方を見ると、最初に俺に絡んできた、つんつん頭の、チャラそうな背の高い男がいた。 体全体をがっちり固定しているから、声も出せず、その表情も変わらないが、獄炎のヘルゲの死に様は見えただろうから、心は穏やかじゃあないだろうな。
俺は、瞬光のバルブロも、滅空のグスタフも、ヘルゲと同じように処分した。
「残りの海賊はどうしますか?」
「最も危険な3人は討伐しましたが、残った海賊の中に、どんな力を持った魔法士がいるかわかりません。おそらく、凶悪な魔法を使う者も複数いるでしょう。こちらの安全を確保するためには、すべての海賊の息の根を止める必要があります。」
・・・犯罪者とはいえ、見ず知らずの人たちを、100人も殺すのか。嫌だなあ。
「あなたがやりたくないということでしたら、こちらでやりますが・・・・・・。」
「あ~、うん。そうしてもらおうかな。」
おれは、100人の海賊を、1つの小舟に集めた。全員、最初に固められた姿勢のままだ。
「では、こちらから我々が弓で射ます。」
「「「ビシュッ! ビシュッ ドシュッ!」」」
一か所に集められた海賊たちに、大型船の戦える者たちから弓が射られる。
矢は、海賊の体に当たるのだが、全く刺さらない。すべて、はね返されてしまっている。
「どういうことだ?」
矢を射った人たちが呆然としている。何せ、強力な矢が一本も刺さらないのだ。
「・・・あなたの仕業ですか?」
矢を持つ者の、いぶかしげな目が俺に向けられる。
「あ~、俺が、固定の魔法をかけているので、固定されているところに矢が刺さらないんですね。でも、固定を解除しちゃうとしゃべれるようになるんで、海賊に魔法詠唱され、反撃されますよ。」
半ば予想はしていたが、やはり予想通りだった。固定を解いてもいいのだが、そうすると声が出せるようになる。声が出せると、魔法詠唱できるから反撃される可能性が高いんだよね。相手も死に物狂いで来るだろうし。
「・・・そう言えば、あなたのお名前を、お聞きしていませんでした。お名前を教えていただけますか?」
「俺は、カズヤ・サクラザカ、カズヤって呼んでください。」
「カズヤ殿ですが。では、そう呼ばせていただきます。
「カズヤ殿、リーベの港まであと半日ほどで到着します。それまで、あの海賊たちを、あの状態で拘束しておくことは可能ですか。」
船長さんは、片膝を付き、改まった姿勢と口調で俺に話しかける。
「はい、できますよ。」
「では、おねがいできますか。あのままの状態で港まで運び、リーベの港で、警備隊に引き渡したいと思います。」
ずっと目を開けたままではつらいかと思い、目を開けている海賊の目は念動力で閉じてあげた。
ところで、固定がかかっているとき、排せつはどうなるんだろう・・・・・・。まあ、いっか。なるようになる・・・・・・。
固定された海賊たちを視認しながら〈俺が解除と念じるまでずっと固定!最低でも12時間は固定!〉と心に強く念じる。成功したような感覚がするので、多分大丈夫だろう。
海賊の小舟は、すべて大型船で曳航するようだ。
「カズヤ殿、カズヤ殿にはリーベの町まで共に来ていただきたいのですが、よろしいですか。海賊討伐の懸賞金も支払われます。リーベの町では、命の恩人のカズヤ殿に、私【キャスタル商会】の副代表リハードが責任をもって、最大限の便宜を図りたいと思います。」
「とてもありがたいです。ぜひ、よろしくお願いします。」
よし、これで、当初の目的地【陸の皇国】ハイデルベルグ領に問題なく入れそうだ。天樹は目立ちそうだし、どうやってトラブルなく陸の皇国に入国するか悩んでたんだよね。しかも、懸賞金をもらえれば、お金の問題も解決するし、万々歳だよ。ありがとう。海賊さん。
「リハードさん、俺は、一度、自分の船に戻り、自分の船(?)でもう一度こちらに来ます。」
「おぉ、カズヤ殿は船をお持ちだったのですね。」
「う~ん、船と言えば船なんですが、船らしくないんですよね。いや、全く船じゃあないんです。」
「船じゃない……?では、何なのですか?」
「”木”ですね。おっきな木。」
「筏ですか?」
「まあ、見ればわかります。では、一度、ここを離れます。海賊たちは念入りに固定をかけたので、動くことはないと思います。でも、万が一があるので、見張りを切らさないようにしてください。では、行ってきます。」
俺は、念動力を自分に発動し、大型船から空へと飛び立った。
大型船の乗組員や乗客から、驚いたような声が聞こえたので、笑顔で軽く手を振ってみる。大人達は、目を見開いてこちらを見つめるばかりだったが、子どもは手を振り返してくれた。かわいい。
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