12 海賊との戦闘
主人公と海賊との戦闘が始まりました。
カズヤ、初めての対人戦です。
空中から近づいていくと、戦闘の様子が見えてきた。
大型の船に、小型の船から荒くれ者が乗り移っている。大型船には、周りから何本ものロープが絡みつき、そこから海賊とおぼしき身なりの男たちが次々に登って行く。
大型船の甲板では、一部で戦闘が行われていたが、すでに、海賊によって大型船は制圧された後のようだ。甲板には、警備隊とみられる男の死体がいくつも転がっている。
俺は、上空から大型船に急降下し、甲板に集められて銃を向けられていた、身なりのいい男の前に着地した。男の後ろには、絶望したような表情の船員や乗客らしき男女が、固まって座り込んでいた。
「何者だ!」「魔物か!?」「なぜ、人が空から?」
海賊からいくつかの声が掛けられた。幸い、いきなり襲撃はされないようだ。
「助けがいりますか?」
俺に話しかけられた身なりのいい男は、何が起こっているのかわからないようで、ぽかんとしている。
俺は、捕まっている人々の、代表らしき男にもう一度声を掛けた。
「助けがいりますか?」
「・・・助けは欲しいが・・・、君は何者だ? たった一人で何ができるのだ?」
「てめえ、いきなり出てきてふざけんな!」
数人の海賊が、蛮刀を振り上げ、俺に殺到する。
「念動力!」
海賊たちが振り上げている刀を空中に固定する。
「あれ、なんだ、これ!刀が動かねえ!」
刀だけでなく体全体も固定した。体全体固定なので、当然口もきけなくなる。
「ムグ・・・、ンーーー!!」
「貧弱な小僧一人に何やってやがる!おまえらから殺すぞ!」
チャラい感じの偉そうなやつがやってきた。身なりや持っている立派そうな剣を見ても、下っ端でないことは一目瞭然だ。
「おまえら、俺に返事もできねえのか!」
「んん~~~~~~~!!」
首も振れないのである。出るのはうなり声だけ。
「おまえら、動けねえのか? 固定〈ロック〉の魔法だな。
こんな初級魔法でやられるなんざ、おまえら弱いにもほどがあらあ!」
「おい、小僧、俺は、この【絶海の海賊団】副団長のバルブロ様だ! こいつら下っ端とは、ちょっと訳が違うぞ! この船の周りは100人の仲間で囲んである。 絶対に逃がさねえ。 こんなところに一人でのこのこと来やがって、少しばかり魔法が使えるようだが、所詮は初級魔法、俺様に通用すると思うなよ。 後悔しやがれ、楽には死ねないぞ!」
おぉ、自信満々だな。固定〈ロック〉の魔法?ふ~ん、おれの念動力は、そう見えるんだな。侮ってくれるならちょうどいいや。
「じゃあ、その初級魔法が通用するか試してみようか。」
「ハッ!やってみな!初級魔法はな、上級魔法が使える俺たち上級魔法士にとって、レジストするのは簡単なんだよ!」
わざわざ、こちらが仕掛けるまで待ってくれるんだな。ラッキー。
俺は、視界に入っているチャラい海賊及び他の海賊や海賊船をまとめて意識し、〈上がれ〉と念じた。
目の前に偉そうに立っていたバルブロも、取り巻きも、海に浮かんでいた船も、一斉に10mほど上昇して停止した。そして、じたばたする海賊たちを〈固定〉!で動きを止める。空から攻撃されちゃあたまらないからね。
俺の念動力力は100万トンの海水を持ち上げられる。その力による全力の固定である。指1本動かせるわけがない。当然、声を出すこともできない。
口を固定して、魔法の詠唱をさせなければ、決して魔法は発動しない。これは、ベティから教わったこの世界の知識である。
後ろを振り向き、まだ空中に上げられていない海賊と海賊船を視認する。
「〈上がれ!〉・・・そして、〈固定〉!」
大型船を襲撃していた海賊すべてが、空中に浮かび固定されている。物陰に隠れていた海賊も、見つけ次第固定する。
大型船の乗客たちは、あっけにとられ、ポカーンと口を開け、空を見ている。
そして・・・、喜びが爆発した。
「き、君!ありがとう!君は命の恩人だよ!」
緊張が解け、地面にへたり込んでいる婦人も多い。皆、安堵の表情を浮かべている。
小さなな何の子を抱きしめた若いお母さんは、泣きながら、俺に感謝の言葉を述べている。さっきまで親子での死を覚悟していたらしい。
人助けって気持ちいいな。これぞ、異世界ロマンだな。
この船の代表者らしき紳士が俺に近づいてきた。
「やあ、君の活躍に感謝を!本当にありがとう。」
聞けば、この紳士は、この船の代表で船長さんらしい。名前は〔リハード〕さん。大きな商店の若旦那のようだ。年齢は40歳ぐらいかな。
襲ってきたのは絶海の海賊団。この海賊は凶悪な海賊で、襲われた船はすべての荷物を奪われる上に、女性は娼婦や奴隷として売られ、男性は皆殺しにされるそうだ。その行動は、用心深く迅速で、なかなか討伐できないやっかいな海賊団だったらしい。
この海賊団の団長〔獄炎のヘルゲ〕は、炎を操る強力な魔法士で、追跡する陸の皇国の戦艦を火だるまにして全滅させたという。そして、俺の近くで空に浮かんで固まっている副団長のバルブロは、瞬光の異名を持つ瞬間移動を得意とする魔法士で、頑丈な扉や塀や柵があっても意味をなさず、神出鬼没で非常にやっかいな高額の賞金首だったそうだ。この船の守りも、バルブロの瞬間移動での侵入から崩されたようだ。
「そんなに強い海賊団だったんですか。」
し、知らなかった・・・。実際、舐めてかかっていた・・・。俺自身も、相手に舐められていたからよかったのだろう。いきなり火だるまにされたり、瞬間移動で攻撃されたりしたら危なかった。もし、相手の攻撃で即死したら、天樹の葉や樹液の回復効果でも助かるかわかんないし・・・。危ない、危ない、慎重にいかないと・・・。
「君が来てくれなかったら、我々は、ひどい目に合っていただろう。 ・・・数分前まで、事実、私は既に死を覚悟していた。それどころか、これからひどい目に遭わされそうな女性たちを、そんな目に合う前に一思いに・・・・・・、とまで思っていたよ。」
「お力になれて光栄です。さて、捕らえた海賊たちをどうしましょう?」
「団長の獄炎のヘルゲ、副団長の瞬光のバルブロ、滅空のグスタフ、この3人は、直ちに殺してくれ。」
おぉ、いきなり殺害依頼!当然、俺は今までに人を殺したことなどない。どうしよう・・・。
「殺さないとだめですか? 生かしたまま領主に引き渡すとか・・・。」
「どうして生かしておく必要がある? 海賊は即時殲滅が許可されている。 だいたい、生かしたまま連れていくのは、リスクが高すぎる。 拘束が少しでも解ければ、反撃されて、我々はあっという間に全滅するだろう。そんな危険な賭けをすることはできない。だいたい、あいつらに、今まで何人の人が殺されたと思う?」
「どのくらいなんですか?」
「ここ10年間で2000人以上だ!」
こりゃあたまげた!大量殺人犯じゃないか!しかも、10年!10年間も捕まらなかったのか・・・。平均1年で200人殺害・・・ひどいな~。
「・・・わかりました。では、〔獄炎のヘルゲ〕はどこにいますか?」
船長は、多数のむさい男たちが浮かぶ空に目をやり、一点を指さした。
「あいつが〔獄炎のヘルゲ〕だ。」
あ~、あれね。確かに強そうで悪そうだわ。でも、そんなにゴツくないな。知的犯罪者って感じかな。身なりは、大航海時代の船長みたいだ・・・。
エラそうに腕を組んだまま固定されているから、より偉そうだ。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
今後も、おつきあいいただけるようお願い申し上げます。




