114 創造神アイテール
side 天樹の空島
「カズヤ様!カズヤ様!私です、リハードです!どうか、応答してください!」
必死な様子の連絡が、キャスタル商会のリハードから入った。
連絡を受けたのは、カズヤの屋敷にいた、エルフ族、火の世界樹の巫女エルミアだ。エルミアは天樹の空島外部からの通信や連絡の役割を担っていた。
エルミアが中継し、リハードとカズヤが通信でつながった。
「リハードさん、お久しぶりです。カズヤです」
カズヤは、この連絡が冥界神の放った魔法に関するものであろうと予想したのだが、リハードがこうして無事に通信を送ってきているという事実に、少しだけほっとした。
「無事でよかった・・・。心配していたんです」
「無事じゃありません! リーベの街は大変なことになっています!マルガレーテもエリーザも!」
「リハードさん、そちらで何が起こったか説明してください」
「突然空から黒い何かが降ってきました!その黒い何かは、屋根も壁もすり抜けてきました。そして、その黒い何かに当たった人は全員倒れています」
「倒れた人は、生きていますか?」
やはり、冥界神の魔法が届いているのだなと思いながら、カズヤは質問を重ねた。
「ほとんどは生きていると思いますが、死んでしまったものもいるようです。マルガレーテとエリーザは、意識はないものの呼吸はあります」
「そうですか…」
「カズヤ様、あの黒いものは何なんですか! 倒れている人たちは治るのですか!? 助ける方法はあるのですか!?エリーザを助けられますか!?」
そうか、マルガレーテさんとエリーザちゃんが倒れたんだな。そりゃあ必死になるよな。
「倒れた人たちを助ける方法は・・・あるはずです。世界樹の妖精たちに、これから対処方法を聞くところです」
「ということは・・・、カズヤ様、この現象はリーベの街だけで起こっているのではないのですね」
「実は、全世界で起こっています」
「なんと!全世界で・・・、誰が、何のために?」
「黒い魔法をっ放ったのは冥界神、神です。冥界神はこの世界を滅ぼしたいようです」
「なぜ!?冥界神も神なのでしょう? 神様がどうして・・・。神様が相手だなんて、勝ち目はあるのですか?」
リハードは、非常に落胆した様子でカズヤに問いかける。
「この世界は、もともと滅びかかっていたんですよ。そして、俺は、その滅びを止めるためにこの世界に呼ばれました。俺を呼んだ神は創造神、黒い魔法を放った冥界神と敵対する神です」
「やはり、カズヤ様は神の使徒だったのですね」
リハードさんの声が冷静なものになった。
「はい、全力を尽くすつもりです。俺には、4柱の世界樹、そして4人の妖精、4頭の龍、そして、創造神様がついていますから」
「どうぞ、お願いいたします」
万感の思いを込めた依頼が、リハードからもたらされた。
「解決法が分かったら、また連絡するので待っていてください。絶対、救って見せます!」
そう言って、カズヤはリハードとの通信を切った。
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「テンジュ、どうすればいい?」
カズヤは、いつになく真剣な表情でテンジュに解決方法を尋ねた。
「不完全とはいえ、冥界神の放った魔法は神の呪いなの。この呪いを解呪するには、世界樹の力だけでは無理・・・、少なくとも冥界神を倒さないといけないわ」
「冥界神を倒せば、呪いが解けるんだね!」
カズヤの表情が明るくなった。
「そう。冥界神を倒せばいいの。・・・でも、」
テンジュは、目を伏せながら続けた。
「冥界神を倒すのは、とても難しいわ。カズヤの力が通用するとは限らない。・・・それに、」
「それに?」
「冥界神は神よ。この世界とは違う次元にいるの。私たちでは、冥界神に戦いを挑むこともできないわ・・・。」
「そうか・・・、戦いを挑むことさえできないのか・・・」
テンジュの言葉を聞いたカズヤが、見る間にしおれていく。
「このままだと、呪いを受けて倒れた人たちは、どうなるの?」
カズヤはテンジュに聞く。
「倒れた人たちは、今は生きているけれど、飲むことも食べることもできない状態なの。体力のない者から、衰弱して死ぬでしょうね」
「・・・・・・・・」
点滴などという方法は、この世界には存在しない。
自力で飲食できなければ、そう長くは持たないのだ。
「俺は、何としても呪いを解きたい! エリーザちゃんも、マルガレーテさんも、必ず助けたい! 名も知らぬ人々も、みんな助けたい!」
カズヤは、キッと天を睨むと、空に向かって大声を張り上げた。
「創造神様! 創造神アイテール様!!!! 管理者さーーーーーん!!!!!」
カズヤの叫びから数秒後、カズヤたちの頭上に光の粒が集まりだした。
そして、光の粒は徐々に大きくなり、人の形を取った。輪郭は人型だが、あまりのまぶしさに、その表情は伺うことができない。
創造神アイテールの降臨である。
『カズヤ・サクラザカ、ここまでご苦労だったな。この短期間で4つの皇石を集めるとはたいしたものだ』
創造神の言葉は耳には聞こえない。直接頭の中に響いてくる。
そして、創造神の言葉は、天樹の空島に住まう者すべてに聞こえていた。
「神様! ああ、よかった! 出てきてくれなかったらどうしようかと思っていました」
カズヤが創造神に向かって叫ぶように言う。
『冥界神のヤツめ!苦しまぐれにとんでもない魔法を使いおって・・・。奴は、このわしが作ったこの世界が気に入らんのじゃ。4柱の世界樹の復活が成った今こそ、冥界神の封印の時。この世界に害をなす冥界神を封印するぞ!』
「はい!創造神様!」
カズヤは当然のように受け答えをしているが、カズヤ以外のものにとって創造神アイテールは、とてつもなく尊い存在である。今はぼやき神であるが。
界王国で信仰されているエギル神や、陸の皇国で信仰されているソル神でさえ恐れ多い存在なのに、この創造神は、それらの神の上に立つ最上位の存在なのである。
テンジュもクエレブルも、ベティもパルメも、エルミアもエルニオールも、ブレンターノ一家も、すべての者が跪き、頭を垂れている。
『まず、最初に言っておくが、神同士が直接戦うことはできぬ。残念ながら、わしは直接冥界神と戦うことはできんのだ。そんなことをすれば、守ろうとしているこの世界が崩壊してしまうからの』
神同士は直接戦えない。この世界の因果が崩れてしまうのだ。
『それに、冥界神を滅ぼすこともできぬ。あんなのでも一応神だからな。・・・できるのは封印することじゃ。封印することさえできれば、この世界の滅びは防ぐことができるじゃろう』
「封印する方法はあるのですね」
真剣な面持ちのカズヤが、創造神に問いかける。
『もちろん、ある』
「その方法を教えてください」




