110 カズヤ、ついに4つめの皇石を手に入れる
カズヤはパルメを抱きかかえながら、巨大化した地の世界樹と共に上昇を続けていた。
目的地は、高度1万メートルもの上空で待機している天樹の空島である。
そして、カズヤと世界樹を守るように、天樹の空島に向かって共に空を飛んでいるのは龍形態のクエレブルと、地龍である。
エメラルドグリーンに輝く地龍は、地の世界樹の成長に伴って巨大化している。
今では、全長30mほどのクエレブルと同じような巨体だ。
クエレブルは手足が長くスマートなフォルムであるのに対して、地龍は頑強な体に短い手足がついている、巨大な岩トカゲのようなフォルムだ。
龍2体に守られた地の世界樹は、天樹の空島の中腹に降ろすことにした。無用な混乱を防ぐために、エルフの里からだいぶ離れた白き泉のほとりとした。
「チジュー、チジュ―!」
カズヤは地の世界樹の妖精チジュを呼んだ。すると、程なくして、チジュがすっ飛んできた。出会ったときのようなちんまりとした姿ではなく、成長した姿となっている。
「カズヤー、呼んだ―?」
体は大きくなっても、中身には何の成長もないようだ。一直線に飛んできたチジュは、かなりのスピードでカズヤに激突した。並外れた力を持つカズヤだから受け止められたが、一般人だったら吹っ飛ばされて大けがをしていただろう。
「チジュ、毎回毎回突っ込んできて激突するのはやめて。・・・で、地の世界樹をここに降ろしたけれど、ここでいいかなあ?」
「もちろんよ。ここはいい場所ね。すぐ近くにある泉も力に溢れた泉だし、土も空気もきれいだわ。最高の場所ね」
カズヤの周りをくるくると飛び回りながらチジュは言う。
激突抱き付きは止めるつもりがなさそうだ・・・。
「でも、ここは私の本当の居場所ではないわ。ここに居ては、私の本当の力は発揮できないの。行くべき場所に連れて行ってもらえないかしら?」
「チジュはどこに行きたいの?できる限り協力するよ」
「私たちが行きたい場所は〔神座の岩〕よ」
「〔神座の岩〕?」
カズヤが聞き返す。
「神座の岩は、ここから西に300kmほど離れたところにあるはずよ。カズヤ、連れてってくれる?」
300kmなら、この天樹の空島なら1時間もあれば移動できる。簡単な願いだ。
「もちろんオッケーさ!」
「オッケー?」
チジュが首をかしげる。
「オッケーていうのは、了解っていう意味だよ」
「やったー!ありがとうカズヤ!」
チジュが激突し抱き着いてくる。
「ぐっ」
テンジュとパルメが面白くなさそうな顔をしている。
1号艦から5号艦までも、無事に上昇してきている。
一番被害が大きかったのは、4号艦。大蛇王タイシャ、および蛇族軍の空船だ。ジャイアントとの戦闘を中心になって行ったので、全体の3割に当たる150人ほどが死亡している。負傷者も多数だ。何よりも、族長である10神将の一人タイシャが討ち取られたことが悔やまれる。
天樹の空島は、5隻の空船を収納した後、全速力でチジュの指定した神座の岩を目指した。
天樹の空島が全速力を出せば、300kmの距離など、ものの1時間で到着する。空島の全速力に付いてくることができる魔物はいない。天樹の空島は、魔物の追跡を振り切って、神座の岩に到着した。
眼下に見える神座の岩は、巨大な岩だ。直径は500mほどだろうか。
チジュの説明では、この岩は〔魔熱石〕と言う希少鉱石の塊らしい。
それを聞いていたパルメや獅子王イルメラが大きく目を見開き驚きを露わにする。
「魔熱石だって・・・、あの岩全部が!?」
聞けば、魔熱石は同じ重さの銀と同価値で取引されているという、非常に高価な鉱石らしい。様々な魔道具で使われている、なくてはならない鉱物であるということだった。
「あの岩の100分の1でも持って帰ったら、一生遊んで暮らせるぜ・・・」
鹿王アルノーも目の色を変えて神座の岩を見ている。
「じゃあ、行くよ」
カズヤは地の世界樹を念動力で空に浮かべる。
100mもの巨体が宙に浮く様子は圧巻である。そして、ゆっくりと下降し、地の世界樹は神座の岩の上に降ろされた。
そこからの地の世界樹の変化は劇的だった。
地の世界樹の下部から、無数の細い根が(細いといっても太さ50cmもあるのだが)伸び、神座の岩を包み込む。その根は脈動し、何らかのエネルギーを吸い取っているように見えた。
地の世界樹のとげは赤く光り、まばゆい光を放っている。
そして、見る間に、その大きさを増していく。
「「「「オオオオオオオォォォォォォーーーーーン」」」」
地龍ファフニールの咆吼が響く。声自体にも力が溢れるようだ。
世界樹と龍とは強くつながっている。世界樹のパワーアップは、龍のパワーアップに直結しているのだ。
地の世界樹はどんどん大きくなる。すでに、高さ1000mは超えているだろう。幹の太さも300mはありそうだ。
トゲも太い。根元部分は直径10mはあるだろう。長さは50mほどだ。
およそ、2000mほどの高さになったところで、地の世界樹の成長は止まった。
「カズヤーーーーー!!!」
遠くからチジュの声が聞こえる。そして、猛スピードで突っ込んできた。
「スガーーーーーン!」
ものすごい音を立てて、チジュはカズヤに衝突する。
カズヤは、今回は障壁を張っていたので無事だ。
「チジュ、大きくなったねー」
カズヤは成長したチジュの姿を見て驚いた。
地龍ファフニールと同じエメラルドグリーンのつややかで癖のない髪が腰まで伸びている。身長は160cmほどだろうか。背中からは、蝶のような羽が生えている。透けて見えるほど薄い羽は、ほんのり光を放っている。すごく美しい。
「そうなのよー!あたし、完全復活!」
チジュはにかっと笑い、ガッツポーズをした。あ~、これ、残念美人だ・・・。
「カズヤ、本当にありがとう!はい、これ、お礼!」
チジュは無造作に緑色の宝石をカズヤに手渡した。地の皇石だ。
カズヤの手のひらに乗せられた地の皇石は、スッと手のひらの中に吸い込まれる。
ついに、カズヤは4つの皇石を手に入れた。




