10 カズヤは、ベティシアに神の使徒認定されたようです
ベティシアさんは、カズヤのことを信じることにしたようです。
ベティとカズヤ、〔天樹〕での初めての夜である。
この天樹には当然ベッドなどというものはない。枕も布団もない。
カズヤは、今まで毎晩、スキル<健康な体>頼みで、ただ木の上に寝転がって眠っていた。それでも、体が痛くならないので困らなかったのだ。
ベティはそういうわけにはいかないだろう。お姫様だし。
「ねえ、ベティ、もうすぐ夜になるよね。」
「え、ええ、そうね。」
なんだかベティの様子がおかしい。
(カ、カズヤと二人っきりの夜!どうしましょう。カズヤは命の恩人だし・・・、格好いいし・・・、助けてもらったお礼に、この身を捧げた方がいいのかしら・・・。別に嫌じゃないけれど、まだ、会ったばっかりだし・・・。)
「ベティは、このままじゃあ、寝られないよね。」
(えっ、何、どういうこと?服を脱げって事かしら・・・。)
「この天樹には、ベッドも布団もないんだよ。」
「ベベベ、ベッドですって!」
(カズヤ、ベッドで私に何をするつもりなの・・・? きゃあああああ)
「ベッドや布団になるようなものが海で採れないかなあ?」
「私は、別に、ベッドがなくっても・・・ん? カズヤ、ベッドや布団を作りたいの?」
「うん、本物のベッドや布団は作れなくても、体の下に敷くクッションだけでも手に入れられるといいんだけど。」
「う~ん・・・・・・海綿なんてどうかしら。海綿なら、ふわふわして、クッションになるわよ。 海に潜れば、すぐに見つかるわよ。」
「いいね、それ、今すぐ採りに行こう!暗くなる前に行こう!」
「えっ、ええ、わかったわ。カズヤって結構せっかちね。」
ベティの案内で、また海に潜り、海綿は簡単に見つかった。
この世界の海綿は巨大だ。海綿一つをスライスすれば、マットが10枚は作れるだろう。
巨大な海綿1つを収穫し、浮上する。
俺は、巨大海綿をスライスして、敷き布団代わりのマットを2枚作った。
余った海綿で、座るための座布団も何枚か作れた。いすの形も作ってみたが、背もたれに背を預けた瞬間に、背もたれが折れ、後ろに倒れた。・・・・・・当然か。海綿に、そんな強度はない。
「問題は、海綿に含まれている水分だな。今すぐには使えないな。このまま寝たら背中がびちゃびちゃだ・・・。今日は我慢するしかないか・・・。」
海綿をぎゅっと押せば、中からじんわりと海水がにじんでくる。試しに、このマットに横になったら、背中がぐっしょりと濡れてしまった。・・・当然か。
明日一日天日干しすれば水分が抜けて使えるようになるだろう。
「海綿が濡れていて使えない? なあんだ、そんなこと。私に言ってくれればよかったのに。」
ベティがマットに触れ、なにか呪文を唱えると、触れた部分から水分が空中に抜けていく。マットはあっという間に、カラカラに乾いたスポンジのような状態になった。
「すごい・・・!」
「私は人魚族、水の扱いなら任せて!」
「ベティはすごいな~。驚いたよ。これで、今日から、ふかふかのベッドの上で眠れるよ。やったあ!」
「えへへ、どういたしまして。」
褒められたベティは、とてもうれしそうだ。
俺は、マットの上に横になる。柔らかすぎず堅すぎず、最高の寝心地だ。昨日までの、堅い樹皮の上とは雲泥の差だ。
「気持ちい~~~~! ふかふか~~~~!」」
ああ、気持ちいい。ずっとこうしていたい・・・・・・。意識が遠くなる・・・・・・。
「ぐう。」
「あれ、カズヤ!ねえ、カズヤ」
ベティがカズヤの体を揺らすが、寝てしまったカズヤは起きなかった。
「もう、仕方が無いわね。」
ベティは、もう一つのベッドに腰掛け、夜空を見上げる。
カズヤの寝顔を見ながら、ベティの夜は更けていく。
水平線から上がった朝日が、海綿ベッドの上で眠るカズヤの顔を照らす。
「ん、んん、ふあ~ぁ。よく寝た~。おおっ!びっくりした!」
カズヤが目を覚まし、目を開けると、目の前にベティの顔があった。
そうだよな。追われてる身だもんな、一人じゃあ不安だよな。誰かに寄り添いたくなるよな。
ベティ、かわいいな~。
ベティの寝顔を見ていたら、その眼がパチッと開いた。
「あ・・・、お、お、おはよう。」
・・・顔を見つめていたのがばれた・・・。
「カ、カズヤ、おはよう・・・。 ごめんね、勝手にカズヤのベッドに入って。」
「いいよ、いいよ、全然オッケー。」
俺は、慌てて飛び起きた。
俺の朝は、樹液シャワーから始まる。
天樹の折った枝から出る樹液をシャワー代わりにして、頭・顔・体と洗っていく。水量は強くはないが、とてもさわやかで、とてもいいにおいがする。うがいをするつもりで口に含んだが、あまりのおいしさに飲み込んでしまった。
服の洗濯にも樹液を使う。
樹液で洗った服は、とてもいいにおいがする。ミントとレモンを合わせたようなさわやかさだ。しかも、樹液で洗うと、汚れが嘘のように落ちる。服にアオザメンの血がついてしまっていたのだが、樹液で洗うと、あっという間に取れてしまった。
脱水機はないので、天樹の枝に引っかけて乾かす。服が乾くまで、俺はパンツ一丁だ。当然パンツも洗ったので濡れたが、濡れたまま履いていれば、すぐ乾くから大丈夫だ。
ベティが起きてきた。
「キャッ・・・カ、カ、カズヤ・・・その格好・・・。」
あっ、俺、パンツ一丁だった!
「ベティ、おはよう。もういいの?」
普通に話してごまかせ、俺!
「うん、ありがとうカズヤ。十分休憩になったわ。」
おっ、ごまかせた?
「じゃあ、樹液のシャワー浴びる?」
「樹液のシャワーって?」
俺は、樹液のシャワーを説明する。
「あんなにおいしくて、不思議な力のある貴重な樹液を、シャワーなんかに使ってはもったいない!」
とベティは遠慮したが、「いくらでも出てくるから大丈夫」という俺の説得に負けた。
天樹の先端に近いところなら、葉が茂っていて周りから見えない。まあ、回りと言っても、見渡す限りの大海原で、のぞきそうな人は、俺一人なのだが・・・・・・。
「じゃあ、枝を折るよ。」
おれは、少し高いところの、ちょっと太めの枝を折る。折ったところからは、なかなかの量の樹液が出てくる。水道の蛇口を半分ひねったぐらいだろうか。
「樹液はしばらくすると勝手に止まるから。」
と言って、ベティを残し、その場を後にする。
そういえば、ここ、タオルがないな。まあ、元々ベティの服って、水着みたいな感じだから濡れても困らなそうだけれど。
誘惑に打ち勝って、ベティから離れた俺は朝食の準備だ。
こうやってサバイバルをするとよくわかる。サバイバルって、食事のために使う時間と労力がとても大きい。食事の準備に一日のほとんどを費やしている気さえする。
海底で採ってきた海小麦をすりつぶして粉にする
自作の海小麦粉を水で溶き、平たく伸ばし、熱する。もちろん、熱源は太陽光だ。
できあがるのは、甘みのないグレープもどき。でも、十分おいしそうだ。それを何枚も作る。
次に、〔アジン〕の干物と〔タイン〕の干物を焼く。ほどよく焼けた干物をほぐして、クレープもどきの上にのせる。そこに、刻んだ天樹の葉をのせて、クルクルっと巻けば朝食の”干物ロール“のできあがりだ。
一つ、手にとって食べてみる。
「うまい!!」
小麦粉の皮で包むだけで、今まで食べ飽きていた干物の味がぐっとアップするようだ。薄く焼いた皮と、干物の塩気が素敵にマッチする。
干物ロールができあがり、葉っぱのお皿に盛り付け終えたしばらく待っていると、シャワーを終えたベティがこちらにやってきた。
当然ベティはパンツ一丁なんてことはない。期待なんてしていなかったよ。
「ありがとう、カズヤ、とっても気持ちよかったわ。世界最高のシャワーね。今、最高の気分よ。」
元々美人のベティだが、濡れた髪が、さらにベティを魅力的にしている。俺は、内心のドキドキを悟られないように平静を装った。
ベティと二人の朝食は、ひときわおいしく感じる。
ベティも、おいしいと言ってくれた。
何となく、ドキドキしながらのふわふわした朝食だった。
「さてと、そろそろ出発しようかな。」
「どこに向かうの?行き先は?」
「う~ん、実は、行き先はよくわかっていないんだ。」
「行き先不明なのに、移動していたの?」
「うん、とりあえず東に向かっていこうと思って、ひたすら東に向かってた。」
「カズヤには、何か目的があるの?」
「うん、あると言えばあるんだけど・・・。」
「よかったらカズヤの目的を教えてくれないかしら。私でよかったら力になるわ。もう、私には帰る家もないし・・・。迷惑かもしれないけれど、カズヤの旅に私を一緒に連れて行って欲しいわ。」
追っ手がかかっているから事情があるとは思ったけれど、帰る家がないか・・・。そんな状態になるってつらいだろうな。そして、きっと理由は皇位継承問題絡みだろうな。
「俺の目的は・・・4つの皇石を集めること。」
ベティはギョッとした顔でフリーズして、こちらを見つめている。
「それは、また、壮大な目的ね。まず不可能よ。」
「やっぱりそう? 集めるの難しいかな?」
「そりゃあ難しいわよ! 誰だってそう思うわ。」
「ベティは“4つの皇石”について知っているみたいだね。 よかったら、教えてくれるかな。」
「いいわ。」
ベティは“4つの皇石”について語ってくれた。
「4つの皇石とは〈火皇石〉〈水皇石〉〈地皇石〉〈天皇石〉よ。そのすべてを集めることができたものは、この世界を手に入れることができると言われているわ。」
うん、神様に聞いた話とほぼ同じだな。
「〈火皇石〉は、【陸の国】にあるわ。持ち主は炎帝シンノウ、陸の国の皇帝よ。実物は私も見たことはないわ。」
「〈水皇石〉の持ち主は、【マーリン海皇国】の〔ポセイドン・バリト・マーリン皇帝〕私の父ね。」
「〈地皇石〉の持ち主は【魔の国】と呼ばれるヴォルトリンデ帝国の皇帝クライディウスよ。」
「〈天皇石〉は、天界にあると言われているけれど見つかっていないわ。 すべての皇帝たちが、手に入れるために、血眼になって探し続けていると聞いているわ。」
「どう?これでも、4つの皇石を集めるつもり? ハッキリ言って、実現不可能よ。」
「これは、相当難しそうだね。・・・でも、集めなきゃあいけないんだ。そうしないと・・・。」
「そうしないと?」
「この世界が滅びちゃうんだって。」
「え?そんなこと、誰が言ったの?」
「ん、神様・・・・・・かな。」
「カズヤ、あなた、神の使徒なの?」
「う~ん、よくわからないんだ。でも、特別な力を俺にくれたのは神様だよ。」
「神様に会ったの?」
「うん、会ったよ。」
ベティが、突然改まった態度で片膝を地についた。
「私たち皇族には、代々続く使命があります。それは、いつの日か、この世界に降臨する神の使徒をお迎えし、神の使徒を支え、その世界をよりよい世界へと導くことです。
私〔ベティシア・ソプラ・マーリン〕は、古からの使命を果たすべく、使徒カズヤを支え、その力になることを誓います。」
「ちょっと、ちょっと、ベティ、急にどうしたの・・・。」
「使徒カズヤ、私を受け入れてくださいますか。」
「あ、ああ、もちろん。ベティさえよかったら、一緒にいてくれるとうれしいよ。」
「カズヤ様・・・。」
カズヤからカズヤ様に、急にランクアップしちゃった・・・。困った・・・。
「カズヤでいいよ。俺が本当にベティの言う使徒かどうかもわからないし・・・。」
「カズヤ、何があっても私はカズヤに付いていくわ。」
「ありがとう。ベティ。きっといろいろな困難にぶつかると思うけれど、いいの?」
「私は、カズヤがいなければ、今頃はアオザメンに捕らわれるか、食い殺されるかしていたのよ。カズヤにもらった命だから、カズヤのために使うわ。」
「そんなに重く受け止めないで。気楽に行こう。気楽にね。」
「陸の国の炎帝シンノウをはじめ、この世界で最も力のある3人の持つ皇石を手に入れようとしているのよ。 皇石はいわば、“皇帝の証” 気楽にいけるものじゃないわ。」
うん、そりゃあそうだ。大丈夫かな、俺。
「まずは、陸の国に行きたいな。そこで、いろいろと準備したいし。」
そう、まずは買い物をしたいのだ。着の身着のままの野宿生活とさよならしたいのだ。お金はないが、俺のアイテムボックスには海の幸がどっさりある。それを売れば大丈夫だろう。
「そうね、それがいいかもしれないわね。陸の国には、力になってくれそうな私の友達もいるし。」
「それじゃあ、陸の国に向かって、レッツ、ゴー!」
「レッツゴーって何?」
「さあ、行くぞって意味だよ。」
「ふ~ん、じゃあ、レッツゴー!」
こうして、異世界人である俺と、海の皇国を追われた第二皇女ベティシアとの冒険の旅が始まった。
セリフ部分の扱いが、 。」だったり 」だったり安定しませんがすみません。
ご勘弁ください。
今後、 。」で書いていこうと思います。でも、これって、定石から外れているんですよね・・・。すみません。




