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神様のミスで異世界に転生することになりました

 突然だが、俺は死んだ。


 気づけばよく分からない空間にいて、突然現れた神を名乗る爺さんから「ごめーん、間違えて殺してちゃった。記憶と肉体はそのままで異世界に転生させてあげるから許して」などと本当に悪いと思っているのか疑いたくなるような謝罪を受けた。


 ただそんな状況でも俺は前世ではオタクの大学生で、しかも数多くのネット小説を読んできたということもあり混乱は小さかった。むしろテンプレだなーと呆れる余裕すらあった。もちろん神様死ねとは思ったが。


 どうやら俺が転生させられるのは剣と魔法の世界であり、文明レベルは中世ヨーロッパレベル。ダンジョンがあり、冒険者や騎士や賢者、それにエルフやドワーフなんかもいるという、良くも悪くもテンプレな世界であるようだった。


 もちろんそんな世界にいきなり送られたところで、日本で大した努力もしたこともなくぬくぬくと過ごしてきた俺が生きていけるはずもない。だからこそ、


「おぬしには特殊な能力をくれてやろう。おぬしら風に言えばチート能力というやつじゃな。チート能力は日本人同士には無効化されるという制限はあるものの、念じるだけで簡単に強力で特別な力が使えるようになる。実際おぬしの前に転生した者たちの多くはチート能力を使って貴族になったり高ランクの冒険者になったり社会的に成功しておるしの。これで生きていけるじゃろ」

 

「ありがとうございます!」


 神様がミスして殺したお詫びにチート能力をくれて俺TUEEEEする。恥ずかしいほどのテンプレだ。ネット小説の投稿版にそれこそ星の数ほどあるだろう。


 だがそれでいい!


 今やネット小説では陳腐な最強モノは廃れ、人外転生とか不遇転生とか復讐モノとか流行っている。読者からしてみれば二番煎じのテンプレ展開なんか飽き飽きしたゆえの結果なのだろうが、主人公にしてみればそんな理由で理不尽な目に合わされるなんて絶対に嫌だろう。少なくとも俺は嫌だ! 

 変にこらずにテンプレでいいんだテンプレで……みんな、原点に戻ろうよ。テンプレ俺TUEEEEものも面白いよ?


「それで、一体どんな能力をくれたんですか?」


「しらん」


「え!?」


 予想外の言葉に思わず聞き返す。

 おい、今この神なんつった?

 急にきな臭くなってきた展開に俺は不安を感じ始める。


「というか分からん。儂が授けられるのは『本人が心から欲しいと望む能力』じゃからの。お前が何を望んでいるか知らない以上、儂にわかるはずもない」


 その理屈でいえば極端な話、人類滅亡を心から望んでいる奴がいたら人類を滅ぼす能力になるんじゃないのかな? そういうケースは例外になるんだろうか……。


「ま、それはそれでありじゃな。特別な対応はしとらんのう」


「えぇ、マジか……」


 いいのか?それは。


「というか、今から飛ばす世界は儂が間違えて殺してしまった者たちへの『お詫び』のためにわざわざ作った世界じゃからな。異世界人に殺されたりするのもそこに住む生き物たちの存在意義と言えなくもない。」


「ええー」


 嫌なことを聞いてしまった。


 何が嫌かって、そんなどうしようもない理由で殺されるのが存在意義の人間がいるのも嫌だし、何より世界を創造して『お詫び』をしなければいけないほど俺たちの世界の人間を『間違って』殺しているのも嫌だった。これなら「暇つぶしのためにわざと殺した、悪いか!」とか開き直られた方がまだましである。


「ま、今のところそんなことは起きておらん。『魔法を使ってみたい』とか『世界一の剣士になって俺Tueeeしたい』とか『ハーレムを作りたい』とか、そんな健全な願いばかりじゃ」


「一つ目はともかく後の二つは健全と言えるんですかね?」


 少なくとも最後のハーレムを作りたいとか完全に不健全だと思う。俺も似たようなことは考えていたけど、よくよく考えなくとも複数の女の子を惚れた弱みに付け込んで複数侍らすとか不健全の極みだと思う。


「ええと思うぞ儂は。そういうことを願うやつらは大抵生前、誰かに褒められたり必要とされることに飢えておるんじゃ。死んだあとぐらいそれを叶えてやってもよかろう」


 なんか神様が語りだした。言っとくけど、俺を含めたそいつらの人生を終わらせたのはお前だからな? わかった上でいっているんだよな?


「それにチート能力を使っても必ずしも成り上がれるわけじゃないしの。与えられた力で分不相応なことをしようとしても最初はうまくいったところでどうせ最後まで続かん」


「なるほど。いいこと言うな~」


 始めて神様みたいなことを言ったなと思った。

 こいつが言うと説得力が皆無なのだが。


「はー、もうええじゃろ。転生させるぞ。場所は町の近くでよいな。街中だと目立つしの」


 あ、こいつ飽きてさっさと俺を転生させる気だと俺は察した。

 大きな欠伸まで出して早く終わらせたいという気持ちがとても分かりやすく態度に表れていた。


「ちょっと待ってくださいよ! まだいろいろと聞いておきたいことがあるんですけど! 殺したお詫びっていうんだったらちゃんと説明責任を果たせ!」


「うるさいのお。説明しなくちゃならんのはお前だけではないんいじゃ。この後にも数人詰まっておるしの。それに次の子はかなりかわいい女の子じゃからな、いつまでもクソ生意気なガキと話したていたくなんぞないわい」


 最後はぼそりと早口で言っていたが、俺の耳にはしっかりと届いていた。


「ふっざけんなよ!? 最後のちゃんと聞こえたからな! てめえかわいい女の子と早くしゃべりたいからって、俺の説明を省く気だろ! それでも神か!」


「わしに向かってそのような口をたたくなど……おぬし、チート能力がいらんようじゃな」


 その言葉を聞いて俺の口はピタリと止まる。

 そうだった。相手があんまりなクソ爺だったからつい声を荒げてしまったが腐っても神である。こいつの胸三寸で俺の行く末が決まってしまうのだ。

 今更ながら俺は自分の迂闊な行動を後悔する。神様が今俺を見る目はとても不穏なものだった。

 やばい、このままではチート能力なしで転生させられることになってしまう。それだけは何としても避けなければ!


「や、やだな~も~、冗談ですって! 俺が神様に本気でこんな失礼な口叩くわけがないじゃないですか~! あっ! 転生するんですよね転生! 神様もお忙しいことですしさっさとやっちゃいましょう! ね!?」


「……プライドないの~おぬし。恥ずかしくないのか?」


 うっさい黙れ。チートなしで異世界行くとかどんな試練だ。罰ゲーム以外の何物でもないぞ。

 それに俺はプライドがないのではない! プライド以上に大切なものがあるだけだ! 健康で文化的な最高にだらだらできる生活とかね。

 

「まあよい、チート能力を奪うのは勘弁してやるありがたく思え」


「あざ―――す!!」


 ぴしっと90度の角度でお辞儀をしながら礼を述べた。

 ああ、どうしよう。俺は今、この神をぶっ殺すチート能力が欲しい。


「では目をつぶれ。酔うぞ。」


 俺は言われた通り目をつぶる。


 5秒、10秒と目を瞑り続けるがなにか起きる気配はない。5分ほど経ち、さすがにおかしいと思い目を開けると、目の前には広大な草原が広がっていた。



 …………言えよおおおおお!


 こうして最初から最後まですべてがグダグダな感じで俺の異世界転生はなされたのさだ。






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