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届かせたい  作者: 高橋 紫苑
2/3

2話

2話は短めです。

2話完結にしようか、分割して3話完結にしようか迷いましたが、分割の方が読みやすいだろうという判断で3話完結にすることにしました。

 何も感じなかった。それは真実だ。

 何も変わらない。それは嘘だ。

 変わった。何かが変わった。そして、変えたい。

 だとしたら、僕は――


「おっ、上山くんお疲れー。こんなところで会うなんて奇遇だね」

「お疲れ。木下さんも就活準備講座の申し込みしていたのは予想外だ。」

「そりゃあ予想できないよー。二年生で受ける人は少ないからねー。隣大丈夫?」

「大丈夫、僕の周りでこの講座を受けるような奴はいない」

「その点、私と君はとても真面目ということかな」

「僕たちが変人なだけだよ」

「そうやってまた私のことを変人扱いしてくるー」

 ドヤ顔から瞬時に、ふてくされた顔に変わる彼女の表情筋は相変わらず働き者だ。

 しかし、前回とは違う。

 前よりも表情に陰りがある。僕の気のせいならそれはそれでいいのだが。


「結局今日も上山くんとご飯だ」

「講座が終わった後、ご飯に誘ったのは木下さんでしょ」

「そうだったっけー?」

「…………」

「あれ? 何も言ってこないとは珍しい」

 いつもの調子で返そうとしたが、今回はやめといただけだ。どうしても気になってしまう。彼女でも隠し切れない影の存在が気になる。

 気になるなら訊けばいい。いつもの調子で相手の事情に土足で入り込めばいい。なぜ何も言えない。なぜ段々と焦っている。落ち着け、落ち着け……

「木下さん……最近疲れることでもあった?」

「上山くんが人の心配するなんて……明日は傘が必須だねー」

 彼女の軽口に答える余裕がない。どうしてだか、喉は既に渇ききっていた。

「悪い、真面目に答えてくれ。答えたくないなら答えないでいい」

 彼女も僕の様子がいつもと違うことに気づき、真面目な表情に一転する。

「うーん、疲れたことね……あるとすれば、元カレが新しい彼女できたのにまだ私を利用することかな」

 彼女はいつもよりか細い声で簡潔に答えた。

 落ち着いた。水で喉も潤した。大丈夫、いつも通りだ。

「まだ家に泊まりにくるのか? 新しい彼女さんと喧嘩する要因になる可能性大なのに?」

「それねー。別れても私の責任じゃないぞ、とはさすがに言ったけどね。でも、また泊まりにくる雰囲気があったから、終わらないー」

「それは先が思いやられるな……」

 元カレは一体何がしたいのか。新しい彼女ができたなら元カノとの交流は控えるべきだろうに。

「今度からは宿泊費取ってやる」

「じゃあ、そのお金は僕の焼肉代ということで」

「なんでそうなるの」

 次第に、いつもの軽口を交えた雑談へと戻っていく。前と変わらない、平和な一時だ。


 夜風は何もかも運び去る――はずなのだが、今夜は霧が深いままだ。

 理由がわからない。

 そのことが僕を苛立たせる。

 わかるわけがない。そのことはわかっているのに。

 月と星の光が答えを導いてくれることもない。

 ホットココアが喉を通ったが、温かさが満ちることはなかった。


次回、完結...!

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