4.ちょっとした昔話
『――そんなわけで、貴方には勇者になってもらいます』
『……は? どんなわけだよ』
真っ暗な空間で、俺は一人の女性にそう告げられていた。
肩ほどまでのブロンドの髪に、青の瞳。身にまとうのは羽衣のような布。
そして、背中には白い羽があった。そのことからでも、この人物が魔王であった自分とは対極に位置する存在だ、ということが分かる。
『申し遅れました。私はカレーナ・エル・シーフィールド。この世界の女神です』
『あー、人間たちが崇拝してるんだってな。名前だけは知ってた』
『あらあら、それはそれは』
こっちの言葉に、特に興味もない、といった風に応える女神。
俺はそのことに若干の不快感を覚えながらも、ひとまず状況確認のために質問することにした。まずは――これだ。こちらの手を拘束している、手枷について。
『これは、どういうことだ?』
『反抗されても面倒ですので』
返ってきたのは、非常に淡白なそれだった。
『いや、それじゃ分からないだろ。なんで俺はこんな目に遭ってんだ?』
『仕方ありませんね。一から説明しましょう……』
『(最初からそうしろよ……!)』
こちらが粘り強く質問を続けると、しつこい、と言いたげにカレーナは言った。
大きなため息をついて、ジト目でこちらを見る。
『貴方が生前に大暴れしたせいで、世界のバランスが崩壊しました。その責任を取ってもらいます。なので、貴方には勇者になって魔族を討伐しなさい』
『…………は? 魔王だった、俺が?』
鼻で笑うと、彼女はこう返してきた。
『もちろん、記憶は封じさせていただきます。その上で、人間として転生していただくことにしましょう――周囲には勇者が生まれると啓示を与えます』
冷たい目をして。
そっと、俺の額に小さな手のひらをかざした。
『は、記憶なんてすぐに戻してやるよ』
『吼えられるのも今のうちです。神の力を舐めないでください』
俺の意識は一度、そこで途切れている。
◆◇◆
記憶が戻ると、俺はすでに旅に出ていた。
それまでの人間としての記憶も保持したままに。
おそらくはそれも、あの女神の狙いだったのだろう。その狙い通り、俺は人間としての家族にも愛着を持ってしまっていた。
だが、その反面――魔族への愛情も失っていなかった。
「(それだけは、カレーナも予想外だっただろうけどな……)」
いいや、それも狙っていたのだろうか。
今となっては分からないが、その結果として俺は世界のバランサーになったのだから。良くも悪くも、とにかく俺にはもう関係ない話だった。
それも、この転校生がやってくるまでは――。
「エリミナは、龍堂の隣だ。分かったか?」
「はい! 分かりました!!」
――カレーナと瓜二つの彼女は、元気よくそう答えた。
そして一歩、また一歩とこちらへとやってくる。俺は警戒を解かずに、エリミナのことを睨む。しかし少女は、満面の笑みでそれを受け止めるのだ。
俺たちの間には、沈黙が生まれた。
「(なんだ……? なにを考えている)」
ふと、そこで思う。
俺とは本当に対照的に、エリミナには敵対心など微塵もなかった。
むしろ好意に近い感情をもってして、こちらを優しく見つめている。それこそ、カレーナにはなかった女神としての慈愛があるように思えた。
「(……ん?)」
そう考えていると、おもむろに少女は俺に手を差し出す。
そして、こう言うのだった。それは――。
「お探ししていました――救世主様」
「………………は?」
――まるで予想していない、一言。
ついつい、間の抜けた声を発してしまう俺であった。
しかし、思いもしなかった。
この少女との出会いは、俺とアナスティアの関係にも影響を与える。
そんなことに、なるなんてことは……。
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