3.転校生は女神でした
ワイバーンを退治した俺たちは、高校へと向かった。
遅刻ギリギリの滑り込みセーフである。それもこれも、アナスティアの大馬鹿のせいなのだけれど、それを説教するのは放課後でもいいだろう。
大きくため息をつきながら、俺は窓際の最後尾へ。
そこが俺――龍堂要の席だった。
「はぁ……。朝からホント、酷い目にあった」
「おう、龍堂。今朝はずいぶんと騒々しいな」
「なんだ高崎か。疲れてるから、後にしてくれ……」
「いや、まだ何も言ってねぇだろ」
そこに腰かけると、前の席のクラスメイト――高崎潤が声をかけてくる。
茶色に染めた短い髪に、オシャレ眼鏡をかけた平凡な男子生徒だった。高校に入ってから友人となったのだが、初日からやけに積極的に話しかけてきた奴だ。
結果として、九月を過ぎた現在。一番仲の良い友達は誰か、と訊かれたらコイツと、そう答えるしかなくなっていた。構わないのだが、何となくむなしい。
「それにしても、龍堂――お前またアナちゃんと登校かよ。羨ましいな、おい」
「はぁ? 別に楽しくなんかもないっての……」
「ばーか。アナちゃんのファンに殺されるぜ?」
高崎がそんなことを言う。
笑いながらではあるが、それは事実でもあった。
「(まぁ、たしかに。見てくれは良いけど、な……)」
アナには入学以来、学校に一定数のファンがいる。
それはそれは熱狂的な者たちであり、悪口や陰口を聞こうものなら即・斬であった。最も俺の場合、アナが親しげに接している手前、手を出されないのだが。
「(今後は、どうなるか分からないけど)」
しかし、記憶を取り戻した以上は今まで通りとはいかない。
仲の良い友達だっただけの関係は終わり、元主従という関係になった。
それがこれから、どのような結果をもたらすかは誰にも分からない。少なくとも、高崎が言ったような事態にはならないと思うが、なるべく平和に生きたいモノであった。――と、他の女子生徒と話すアナを見ながら思う。
「そういや、先生はまだなのか? ずいぶんと遅いけど」
だがそこで、ふとそう思うのであった。
ずいぶん前に始業のチャイムはなっている。それなのに、担任がくる気配が感じられなかった。不思議に感じた俺は、高崎に問いかける。
すると彼は、きょとんとした顔でこう言った。
「龍堂、さては昨日のHRの時に寝てたな? 今日は転校生が来るって話だっただろ?」――と。
それを聞いて俺は首を傾げる。
「そうだったか? もしかして、聞き逃したのか……?」
「そうだろ、きっと。クラスは今朝からその話題で持ち切りだぜ?」
なるほど。それなら本当に俺の記憶違いらしい。
転校生が来るというなら、納得だった。やや時期外れとも思えたけど、そうでもないのかもしれない。なんにせよ、とりあえずは遅刻にならなくて良かった。
今はそれだけで十分だろう。
「おい、お前ら! HRを始めるぞ。席につけ!」
「お、噂をすれば……」
さてさて。
そんな話をしていると、担任のゴリラが入ってきた。
筋骨隆々の体育教師は生徒を威圧するように、声を張り上げる。
「転校生を紹介する――入れ、エリミナ」
そして、続けて出入口に向かってそう言った。
すると静かにドアは開かれ、少女――エリミナが入ってくる。
「(………………は?)」
俺は、入ってきた人物を見て目を疑った。
それは間違いない。『女神』だった。
「みなさま、初めまして。エリミナ・エル・シーフィールドです!」
長いブロンドの髪に、青い瞳。
整った顔立ちをした彼女は、華奢なその身を学校指定のセーラー服で包んでいた。見るからに浮世離れした美貌の持ち主。しかし、俺が『女神』と称したのは、それ故ではなかった……。
「(カレーナ・エル・シーフィールド……!?)」
何故なら、そこに現われた人物は――紛うことなき女神だったから。
それも、俺のよく知る世界の女神と瓜二つの……。
クラスが湧き上がる中、俺だけは呆然としていた。
またもや俺の平穏を脅かす存在が現れたこと。それに戦慄していた……。
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