2.対ワイバーン
「魔王様? どうして私たち、こんなにコソコソしてるんです?」
「馬鹿かお前。ワイバーンを倒す高校生なんて、目立つに決まってるだろ!?」
俺とアナスティアは、物陰から空を旋回するワイバーンを見上げていた。
どうやら今はあの竜も、見たことのないこっちの世界を警戒しているらしい。何度も甲高い声で鳴きながら、翼を羽ばたかせていた。
「え? 目立っちゃっても良いじゃないですか」
「嫌だ! 絶対に目立つもんか!!」
アナのあっけらかんとした声。
それを俺は全力で否定した。せっかく異世界、この日本までやってきたのだ。平穏な暮らしを捨ててなるモノか。何が何でも、全力で死守だった。
そんなことを考えて、俺がうなっていると。
後ろからアナが楽しげに言った。
「でも、何だかんだ放っておけない性格。それは変わらないんですねっ!」
「うるせーっ! 誰のせいだと思ってるんだっ!?」
「い、いひゃいでひゅ!? ごめんなひゃい!!」
しかし、その内容がまた生意気。
俺は彼女の頬を掴み、思い切り左右に引っ張った。
するとアナはすぐに涙目になって、必死に謝罪の言葉を並べる。こういうところは、昔から変わっていない様子だった。――いや、こいつは転生してないんだから、当たり前か。
「(あぁ、いや。今はこんなことやってる場合じゃないんだった……)」
と、俺は気持ちを切り替えた。
どうにもこの元後輩魔王、こちらのペースを乱すことに長けている。というか、昔よりも明らかにゴリゴリと迫ってくるようになっていた。
成長なのか、単に図太くなったのか。それは分からないが……。
「よし。人もいないみたいだし、結界でも張って片付けるか」
「は~い……。倒しちゃうんですね~」
「なんだよ、不満か?」
そこで俺が決定を口にすると、アナは唇を尖らせた。
見るからに文句のありそうな表情に、どうしたのかと問いかける。すると返ってきたのは、こんな言葉であった。
「せっかく。魔王様と世界征服できると思ったんですけど……。まぁ、魔王様と添い遂げるだけでも、私は十分なんですけどぉ」
「はぁ? なに言ってんだ、お前。世界征服だの、添い遂げるだの……」
「いいですよーだ! 魔王様のニブチン!」
「あぁ!? 誰がニブチンだ!?」
意味が分からず、ついつい口論になってしまう。
「(あー、もう。違うだろ……今は、ワイバーンに集中……)」
が、すぐに思考をもとに戻した。
とりあえず、だ。結界魔法を展開して、人払いをする。
そして、周囲から完全に人の気配が消えきったところで、俺はワイバーンに姿を晒した。すると竜は、すぐに俺のことを発見する。
「ほらほら、こっちだ! かかってこい!」
ワイバーンを挑発した。
そうすると、彼は一直線に俺へ目がけて急降下してくる。
「さて。なるべく被害の少ない魔法で――」
距離、速度、そこからこちらへの到達時間を算出しつつ。
俺は短く、高速で魔法を詠唱した。そして、
「――喰らえ……【フォイア】!!」
ワイバーンへ向けて、放つ。
渦を巻いた炎が、迫りくる竜を包み込んだ。
間もなくその炎が収まると、そこにはワイバーンの姿形もない。完全に焼却されて、この世から消え去っていた。
「(悪いな。お前だって、来たくてこっちに来たわけじゃないのに……)」
内心で、俺はワイバーンに謝罪をする。
成り行きとはいえ、一つの命を奪ったのだ。しかも、その原因はこちらにあるといっても過言ではない。申し訳ないことをしたと、心の底から思った。
だが、アナスティアは違うようで……。
「さっすが魔王様です! カナメくんの身体になって、力が衰えたのではないかと心配しましたけど、そんなことなかったですね! ――これなら、世界征服も……いひゃい! なんれれすか!?」
空気の読めない後輩の頬を、俺はまたもや引っ張った。
こいつは、本当にどうしようもない。俺はもう、諦めることにした。
「はぁ……馬鹿やってないで、さっさと学校行くぞ?」
「ひゃいぃ……」
荷物を拾い上げて、俺はアナに言う。
すると、涙目の彼女は素直に従うのであった。
「(……まぁ。今回は誰にも見られずに処理できたから、良しとするか)」
とりあえず、そう考えることにした俺。
そして、学校への道を急ぐ。遅刻だけは、絶対に許されなかった。
そんな、ちょっと変わった朝の風景。
でも俺は知らなかった。
「見つけました。この世界の、救世主……」
この時、人ならざる存在が紛れ込んでいたことに――。
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