1.空に大穴開いてるんですけど?
「なんでアナスティアがいるんだよ……」
「あら、魔王様。ここでの私はアナ、もしくは舞桜ですよ?」
「……どうして、お前がここにいるんだよ。アナ」
通学路を歩きながら、俺は頭を抱えていた。
逃れたはずの運命なのに、どうしてここまで追われているのだろう。
隣を歩くアナに恨み言を漏らしそうになりつつ、どうにか必死にこらえていた。そうしていると、彼女はなんとも不思議そうな表情を浮かべながらこう言う。
「どうして? おかしなことをおっしゃいますね。私と魔王様は、生涯の伴侶として誓いを立てた間柄ではありませんか。ならば、死後も共にと――」
「――そんな誓い立ててないし、死後にまでついてくるな!?」
「えーっ? そんなぁ、魔王様のいけずぅ!」
「変な声出すな! 朝っぱらから!!」
しかし、その内容が内容であったため俺は思わずツッコみを入れてしまった。
すると今度は腕に絡みついて、気色の悪い声を発するアナ。ゴミ出しをしていた近所のおばちゃんが口元を隠し、何度も瞬きしながらこっちを見ていた。
……頼むから。
頼むからこれ以上、俺の静かだった日常を壊さないでくれ。
「とにかく! まずは離れろ!?」
「いーやーでーすぅー! 魔王様とは、ずっと一緒ですぅ!」
そのためにはまず、この女を引き剥がさないといけない。
そう思って力づくでかかるのだが、まるで強力な吸盤があるのかと錯覚するほどに張り付いてしまっていた。そうこうしているうちに、俺らの通う高校が近くなってくる。――仕方なし。さすがに、他の生徒がいる場所ではアナも離れるだろう。
そう思考を切り替えたら、ふと気になることが出てきた。
「そういや、お前。どうやってこっち来たんだよ」
そうなのである。
よくよく考えれば、どうしてこいつが日本にいるのか。
見た感じ(頭の角など)、俺のように転生をしたわけでもなさそうだった。そもそも、あの魔法は俺が編み出した、俺だけの魔法のはず。
だとすれば、アナがこっちにくる方法は限られるわけで……。
「……………………………………愛の力ですよ?」
「こら。視線そらして、たっぷり間を空けてから嘘をつくな」
それを訊ねると、彼女は途端に挙動不審になった。
これは、もしかすると。なにか、重大な事件を引き起こした可能性がある。そのため俺は、この問題についてさらに追及することにした。
「なぁ、アナ。一ついいか?」
「はい、何でしょうかっ! 魔王様っ!」
「俺の記憶の端に引っ掛かってる、テレビで見た『モンスター事件』て、お前がこっちに来たのと関係しているか?」
「………………………………カンケイアリマセンヨ」
「いきなり、ビンゴかよ……」
俺はさらに頭を抱える。
『モンスター事件』というのは、昨今この辺りで話題になっている騒ぎの通称だ。なんでも、この世のモノとは思えない生物が発見されたり、それによって作物が荒らされたり、さらには怪我人まで。それらの事件を一括りにしたのが、それ。
どうやらこのアホ後輩魔王は、何かしら力づくの方法でこっちにきたらしい。
次はその方法について、だけど……。
「さぁ、方法を吐け。このポンコツ」
「………………きゃふんっ」
俺が頭をコツンと叩くと、なんとも情けのない声を発するアナ。
彼女はしばらく視線を泳がせたと思えば、突然に開き直ってこう言った。
「時空の壁を、ちょちょい、っと……てへっ」――と。
硬直してしまった。
「お前、もしかして――」
――俺は、慌てて空を見上げた。
するとそこには、
「なに、やってくれてんだあああああああああああああああああっ!?」
ぽっかりと、大穴が。
空がひび割れて、真っ暗な穴が広がっていた。
「て、てへっ?」
「てへ、じゃねぇんだよ!? なに世界をさっくり壊してんだ!!」
「いひゃい! いひゃいれす、まおうひゃま!! ほっぺたひっぱるの、やめてくりゃはい!?」
俺はアナスティアの頬を左右に引っ張り引き伸ばす。
何故って、言わなくても分かるだろう。このポンコツ魔王はあろうことか、世界と世界を隔てる壁をぶち壊してこっちにやってきやがったのだ!!
そんなことすると、どうなるか。
その結果は子供でも分かる、簡単なことだった。
「あっ……!」
と、やっている間にも。
上空を見上げた俺はあることに気が付いた。
空に開いた大穴から、一体のワイバーンがひょっこり顔をだしたことに。
「……………………」
呆然とする俺。
肩に下げていた荷物がズルリと落ちる。
あとはもう、苦笑いを浮かべるしか出来なかった……。
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