プロローグ 二度目の転生をした俺、異世界へ
――アイルエインズ暦5019年
俺の生涯は幕を下ろした。それはそれは、苦難に満ちた人生。
ようやく終えられたのかと、死の間際にそう安堵したほどだった。周囲の人々は泣いていたけれど、正直なところ知ったことじゃない。
だって、俺にとってこれは二度目の生だったから。
一回目。俺は魔王だった。
アイル大陸とエインズ大陸。この世界の二大大陸を支配する、恐怖の対象。
来たる勇者を待ち、その挑戦を幾度となく跳ね除けてきた。その度に配下の魔族からは拍手喝采であったが、実を言うとそこまで楽しくはない。
だって、どいつもこいつも弱すぎた。数回、魔法を繰り出せばそれで終わり。気付けば魔王としての生涯も二千年が経過していたのである。
「(あの時は、本当に暇だったな……)」
そして、二回目。なんと俺は勇者だった。
寿命という、何とも呆気ない終わりを迎えた魔王の俺。
その強力な戦闘力を秘めた魂を、神々はあろうことか勇者として転生させることにしたのだ。かくして俺は、神々の指示のままに、嫌々ながら魔王討伐に赴いた。
すると分かったのは、最強の魔王だった俺が死した後に次代の魔王として座についたのは、貧弱な元配下。彼女は涙目になりながら、俺に命乞いをした。
「(それからは、魔王の逃亡を手伝いながら生き続けたからな……)」
ぶっちゃけ、コソコソとするのは非常に疲れた。
それでなくても魔王を倒した勇者として祭り上げられるのに、それでいて魔王の逃亡を神々にもばれないよう手伝って。何が苦難だったって、人間関係が辛かった。気付けば後輩魔王は嫁面してるし、各国の姫からは求婚されるし――年老いてからも、続いたよね。もう、枯れてるっての……。
「(……でも、まぁ。これで、それともオサラバだ)」
俺は静かに意識を閉じていく。
実はこの生涯のうちに、次の転生先を定める魔法を編み出しておいた。
次は魔王も、勇者もない異世界に生まれるのだ。そして、俺はそこで地味に暮らす。残念ながら具体的な場所については指定できないけど、問題ないだろう。
「(サヨナラ、くそったれな世界。俺はあっちで静かに暮らすからさ……)」
――さぁ、行こう。
次の生涯こそは、どうか平穏に。
そう願って、俺は静かに二度目の生涯を終えるのであった……。
◆◇◆
……そして目覚める。
この転生は、記憶の定着に十数年の月日を要する。
前世の記憶を思い出した俺は、その時すでに十五歳だった。
「ん、くぅ……朝、か」
ゆっくりと身を起こし、自分の身体を確認する。
どうやら普通の人間のようだった。名前はたしか、龍堂要。今年から一人暮らしを始めた男子高校生だった。
記憶の定着はスムーズに行われたらしく、今世のこれまでもハッキリと憶えている。成績や容姿も平々凡々。絵に描いたような、どこにでもいる青年だ。
「よっしゃ、大当たりっ!」
俺は一人でガッツポーズ!
これで、俺はすべてのしがらみから解放された。
「それじゃ、今日も元気に高校へ行くとしますか!」
そうとなれば、もう俺は嬉々として身支度をする。
そして、六畳一間の部屋から飛び出して――。
「――ようやく、見つけましたよっ! 魔王様っ!」
「……………………」
固まってしまった。
そこに立っていたのは、紛れもない元配下――アナスティア。
桃色の髪に二本の角を生やした彼女。赤い円らな瞳をこちらに向けて、前のめりになってたわわなその果実を強調していた。
身にまとうのは、俺の通う高校のセーラー服。
………………ゑ?
「お目覚めになる時を、ずっと楽しみにしておりました! ――しかし、転生先がカナメくんだなんて。私たちはやっぱり、運命の赤い糸で結ばれているのですねっ!」
記憶を探る。
そうすると、思い当たる節があった。
彼女――アナスティアの、この世界の名前は舞桜アナ。偶然にも俺と同じく、このアパートで暮らすことになったクラスメイトだ。
「マジかよ……」
俺は思わずそう呟いた。
願いに願って手に入れた異世界――日本での人生。
その安寧には早くも、厚い雲がかかった。そのように思われた……。
初めまして。
鮮波永遠と申します。
次話は22時に更新します!
よろしくお願い致します!!
<(_ _)>




