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その5・クラスメートその5兼悪役令嬢の友人A



昨日アナスタシアさんとお友達になった後、俺は緑髪の宰相子息レイモンド・グリーンウッドの元へと向かっていた。

彼と一緒にいた殿下と取り巻き、そしてシェリー嬢にも花壇荒らしや髪留めの件を説明したし解ってもらえたが、レイモンドの野郎は「決めつけた事は謝罪しよう」などと言うもどうも自分は悪くないといったオーラ満々。

日頃の行いが悪いから勘違いされるんだとまで言う始末である。俺のが身分が高ければ殴っていた。


「───と、言うわけで一応誤解は解けたんだけど。」


昼食の後裏庭のベンチで昨日の報告をした俺は、一通り話を終えるとアナスタシアさんに向き直った。

ちなみに昨日彼女には先に帰って貰った。一緒に色見本のところに連れて行くと緑が激昂しそうで面倒だったからだ。


「ありがとう、迷惑をかけたわ。」


「これぐらい別に。もっと上手く出来れば良かったんだけど。」


実際はあのド迫力主要キャラ集団に単身突っ込むのはかなり勇気が要ったし冷や汗もかいた。


「十分よ。」


膝の上に置いていた俺の手にそっと手を重ねて真剣な面持ちで見つめてくる。

そのような行為を気軽に異性にするのはやめてもらえませんかね………?


俺は確かにこの人に惹かれているが、あの色見本集団の中心である殿下から婚約者を奪うというのは無理。

俺のスペック的にもそうだが、政治的にも難しい。子爵家三男の俺がそんなことをしたら俺の家族にもアナスタシアさんにも大迷惑である。

大前提としてアナスタシアさんと両想いではないしな!


「そうだわ、おやつに食べようと思ってクッキーを焼いて来たのだけどヴィクターもいかが?お好きかしら。」


おやつにクッキー持って来たの、この人。


「え、好きです。」


「良かった。」


クラスメートからお友達に昇格しただけでも大出世である。なにしろアナスタシアさんのお友達は一人だけだ。学園外には数名居るようだが、ここでは俺一人。友人Aオンリー。

このクッキーを食えるのはなんと俺だけ。


「お菓子作りなんてするイメージないな。」


「練習してるの。ほら、シェリーさんって皆さんに手作りお菓子を振舞っているでしょう?お話のきっかけになるかと思って。」


そういえばシェリー嬢はお菓子作りが趣味らしく色見本だけでなくクラスメートにも配っていた。俺も貰ったことがある。

密かに評判で、味はかなり良かったと記憶している。

色見本も軽率に全員で食べていた。流石に王子殿下は取り巻きが毒味していたが………毒はないにしても万が一全員で腹でも壊したらどうするんだよ、とツッコんだものだ。俺は気にせず食ったけど。


「もしかしてリリーホワイトさんと仲良くしたいの?」


「というか、殿下のご友人とはもう少しちゃんとお話出来るようになりたいわ。皆さんお菓子が好きなようだし少しは関係が良くならないかしら……」


残念なことに、クッキーを食えるのは友人Aだけではないらしい。

この人そのうち色見本にも配りに行く気だ。

色見本たちはお菓子好きというよりシェリー嬢が好きなんだと思うがな。


アナスタシアさんはどうやら殿下やそのご友人と仲良くなりたいようだが、話を聞く限り殿下に好意を抱いているという訳ではなさそうだ。そもそも恋愛感情に疎そうで心配になるレベル。


俺からしたら、他はあまり関わりがなく知らないが、レイモンドなんかはクソ野郎なので仲良くする必要はないと思っている。

それにアナスタシアさんと殿下の仲が改善する手伝いをするのはあまり嬉しくない。役得と言えば役得だが。


「いただきます。」


四角いクッキーを口に放り込むとジャリジャリ甘いものが口の中に広がった。


「アナスタシアさん、これかなり砂糖入れた?」


「ええ、……お口に合わなかった?」


手振りで一つ食べるよう促すと、一つ摘んだアナスタシアさんの口の中でもジャリジャリいっている。


「………甘いわ。」


「…ちゃんとレシピ見たの?」


「甘い方が美味しいと思って………」


あ、これ料理下手なやつだ。


「殿下や取り巻きに渡すならもっと練習してからの方がいいな。」


「………夏季休暇の間に料理人に教わっておくわ。」


しゅんとするアナスタシアさん、これは誰も見たことがないレアスタシアさんなのでは。


「……ヴィクター、どうしたの?」


「いや、何も。」


観察していると怪訝な顔をされた。間が持たないのでとりあえず彼女の膝の上に残っていた砂糖まみれのクッキーを追加で口に入れてみる。

うん、糖尿病になりそうな味だな。


「食べない方がいいわよ。」


「いや食べる。」


鳩にはやらんぞ。


「何をムキになっているのよ、我慢大会じゃないのだから。」


「頭が回ってないから糖分が必要なんだよ。」


アナスタシアさんのくるくる縦ロールを見ながら少し考えを巡らせる。


「───お菓子の方は休暇中に練習するとして、特に殿下とは休暇までに少しわだかまりを失くしておきたいよな。」


このまま夏休みに突入するとどんどん殿下との関係が希薄になりそうだし。


「昼食の時を狙っているのだけど、いつもご友人に囲まれていて……」


一昨日は大爆死でしたもんね。

あの取り巻きは本当にどこにでもいるよな。

くっついてないと死ぬのか?


「多人数相手だと緊張するんなら、芸術の授業の時に誘うのはどうだ?」


芸術の授業は選択制で美術、音楽、詩とあるが殿下とアナスタシアさんは俺と同じ美術選択だ。

他に取り巻きで美術選択なのは橙のネイト・オレンジか。ネイトは黄色ことアンバーの従兄弟だが、アイツと違って口は悪くないし面倒見も良い爽やかなヤツだから大丈夫だろう。


「上手く出来るかしら。」


「とりあえず、アナスタシアさんは泣く前の顔が怖いから、泣きそうだと思ったらすぐ撤退した方がいい。」


「わ、わたくしそんなに怖い顔をしてるの………?」


自分の顔をペタペタと触る。

いや、その顔は可愛いんだけどね?


「普通にしてたら大丈夫だよ。」


そう? と首を傾げるアナスタシアさんは間違いなく可愛い。この顔と上目遣いでお昼一緒に食べようって誘ったら絶対来るだろ。なんで今までこれで誘わなかったんだよ。


「わかったわ、わたくし頑張るわ。」


アナスタシアさんが報われて欲しいな。



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