表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/17

その4・空回る俺の下心



彼女を追いかけて寮の方まで来たが見失った。

が、以前彼女のいた茂みのところを覗くと簡単に見つかった。


「オブライエン様、」


声をかけると一つに括り上げていた縦ロールが揺れて1束転がった。


「すみません、俺見てたのに証言出来なくて。今から話しに行きますから。」


先に説明しても良かったのに、咄嗟にこちらに来てしまった。


「────なんで上手くできないのかしら。」


嗚咽を混ぜながらぽつりとそう紡ぐ。


「あれはタイミングが悪過ぎて………レイモンド様も冷静じゃなかったし。」


またボロボロ泣いているのか、無性に見たくなってしまい茂みで三角座りをする彼女の隣に座ってみた。


「貴方、制服が汚れるわよ。」


「そこですか。」


膝を抱えたままこちらを見た彼女の目からはやはり涙の粒が溢れている。むっと唇を突き出した表情を作っているが普段と違い怖さはない。むしろ可愛、いや、不謹慎だな。


「……貴方にはバレてしまっているようだけど、わたくしすぐ泣いてしまうの。泣きそうになると落ち着いて説明出来ないなんて、駄目だわ。」


「ああ頭ごなしに怒鳴られたら普通びっくりしますよ。」


「ふふ、そうね。ありがとう。」


お礼なんて言われることはしていない。

もっと早く俺が行っていれば、この人がこんなに辛い思いをすることも無かったのだ。


泣きながら微笑むアナスタシア嬢はその鮮烈な美貌が柔らかくなり近寄りがたさがない。触れても大丈夫かと錯覚させる程には。


「トライセン様……?」


彼女の頰に手を添え親指で涙を拭うと彼女は驚いた顔をした。

俺は何をしてるんだ……


「あ………失礼しました。」


パッと手を引っ込めるが気恥ずかしさが残る。

俺は居た堪れず話題を変えた。


「昨日、カフェテリアでのことも誤解なんじゃないですか?」


「あれは、わたくし殿下とご一緒したくて席を詰めて頂こうとしたのだけど……」


席を奪おうとしたかのようになってましたね。


「わたくし大勢の方がいると高圧的になってしまうようなの。シェリーさんにも怖がられてしまったわ。」


えぇ………緊張しぃかよ…


「すごく怒ってましたけど、あれも緊張して?」


「いえ、泣きそうで焦ってしまって…恥ずかしいわ。」


やっぱりあの鬼の形相は泣くのを我慢してる顔だったのか…


「…泣いてしまってもいいんじゃないですか?」


あの顔するくらいなら………


「わたくしは将来殿下をお支えする立場なのよ、そんな無様な姿見せられないわ。」


「泣き顔可愛いのに…」


しまった、口から出た。変に思われたか?


「あら、貴方プレイボーイなのかしら。」


「あ、いや、本当に……」


「ごめんなさい、分かっているわ。わたくしを元気付けようとしているのでしょう?貴方優しいのね。」


いつの間にか泣き止んでいたアナスタシア嬢はクスクス笑った。…泣き顔以外も可愛いぞ。


全然違うけどそういうことにしておこう。


「二度も見苦しいところを見せてしまったわね。もう大丈夫よ。」


すっくと立ち上がった彼女は乱れた髪をさっと整えて俺を見る。そのまま立ち去りそうなので俺も慌てて立ち上がる。


「俺で良ければいつでも相談に乗れますけど、その、オブライエン様の、見てしまったわけですし。」


ここで見苦しくなんてない、とても綺麗ですよなんてクサいセリフの一つでも言えれば俺も色見本に混ざれたんだろうけど、いや俺は生まれた時からよくいる茶髪だけど、


「一人くらい愚痴を零す相手がいても良いでしょう。」


彼女の理解者になれるのではないだろうか。


「なら貴方はお友達になってくださるの?」


「え?」


お友達、お友達………そうだな、その辺が妥当だな。でもそこに収まってしまうのも何だかなぁ……


「……ごめんなさい、違うのね。わたくしったら早とちりを…」


「いえいえ!オブライエン様さえ良ければ、なりましょう!お友達!」


俺は婚約者のいる令嬢に何を期待しているのか。


「本当?」


「はい。」


頷くとアナスタシア嬢は俺の手を取って嬉しそうに目を合わせた。


「わたくし学園のお友達は初めてだわ。あの、名前で呼んでもいいかしら。」


ま、まじか………


「お好きにどうぞ……」


「わたくしのことも名前で呼んで。お喋りする時は敬語もやめて欲しいわ。」


す、すごいグイグイ来るぞ………!

勘違いしてしまうからやめてくれ………!


「じゃ、じゃあそうさせてもらいま………もらう。」


にこにこしている。

こんなに可愛いのに王子殿下は何故シェリー嬢に目を奪われているのか。かく言う俺も今まで美人だけどキツイ性格の女だと思っていたが。


「あの、アナスタシアさん。」


「何かしら、ヴィクター。」


もう無理だ、認めよう。好きだ。

だってこんなに可愛い。


「そろそろ手を、離してくれないか。」


「あらごめんなさい、はしゃいでしまって、恥ずかしいわ。」


入学三ヶ月で鋼鉄の薔薇、煉獄の薔薇、苛烈な薔薇と散々薔薇のついたあだ名で呼ばれたアナスタシアさんが、俺の前で本当に薔薇の如く頰を赤く染めて恥じらっている。

俺ならこう呼ぶ。可憐な薔薇。


─────違ぁあう!呼ばない、呼ばない!

なにをクソ真面目に恥ずかしい台詞を宣ってるんだ俺は!声に出さなくて本当に良かった!


「あの、お友達のヴィクターに早速相談があるのだけど。」


「何でしょう、………何だ?」


悶える俺にアナスタシアさんが凄く冷静になれる相談をした。


「わたくし殿下に良く思われていないと思うのだけど、貴方の意見が聞きたいわ。」


アナスタシアさんは殿下の婚約者なんだよなぁ………



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ