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その10・班決め(自由)という名の地獄



夏季休暇明けから一ヶ月が過ぎ、芸術祭の季節がやってきた。

芸術祭というのは、二日間に渡って行われる、出し物をしたり芸術の授業での作品を展示したりする───いわゆる文化祭である。


出し物は芸術祭1日目に行う慈善活動めいたもので、孤児院の子供たちや王都周辺の平民の子供を招待して芸術・教養に触れさせよう! というコンセプトのもと、生徒が子供たちに劇や歌を披露したり楽器体験させたりなんちゃって絵画教室を開いたりして交流する、要するにイメージアップの為のおもねりイベント。

展示の方は芸術の選択授業での成果発表………詩や絵など作品の展示。音楽選択の生徒に関しては2日目に舞台で演奏やらを披露する。俺は美術選択なので絵とか壺とかを作らなければならない。


さて何故こんな話になったかというと、ただ今絶賛芸術祭の出し物についての説明中だからである。


「出し物は3~5人で一組の自由班とする。今日の五限目の授業の後聞き取りをするのでそれまでに決めておくように。また出し物の内容については各班各々で相談して、案を纏めたものを今週中に提出、こちらで問題がないか確認でき次第、順次準備に取り掛かってもらう。」


自由班。恐ろしい言葉である。

基本、この言葉にクラスの反応は二分する。

仲のいい人と組めるので喜ぶ者、組む相手のアテがなく黙って机を見つめる者だ。

ただしそれは普通の高校生の話。ここは貴族の集う学校。親の関係で懇意な特定の相手が決まっている奴もいれば、社交を叩き込まれた者、自分から積極的に交流を持つ奴が結構いる。先ほどの話の後者……いわゆるボッチは存在しない。

いるのは「教師からの評価・点数稼ぎに有利だったり、将来縁が欲しい相手と組もうとする奴」「適当に知り合いと組む奴」の2パターンだ。

ただしアナスタシアさんを除く。


「ヴィクター、お前誰か狙ってんのか?」


朝のHRが終わって先生がいなくなった直後、先ほどの話題もあっていつも以上に席を立つ者が多くクラスが騒つく。漏れなく全員が班員を募ったり誘われたりしている。

そんな中アナスタシアさんの動向を窺っていた俺の視界をベンの太ましい腕が塞いだ。


「………いや?」


「そうか? なんか視線がギラついてたぞ。」


「ははは、まさか。」


真剣に見過ぎたのか、評価狙いで成績の良い奴と組もうとしている輩に見えたらしい。ちなみに俺は三男でこれっぽっちも期待されていない為、「適当に知り合いと組む派」である。


「じゃあ組もうぜ。」


「あぁ、そうだな。」


なので適当な知り合い、ベンの誘いに二つ返事で頷いておく。

それよりそこを退け。アナスタシアさんが見えん。


「俺も入れてくれ。」


「おー、これで丁度3人だな。」


ベンの腕の隙間から必死でアナスタシアさんを覗いている間に、ニックがやって来て俺の班は必要最低人員を達成し、一応決まった。

さすが社交的と言うべきか、クラスの他の奴らも大体決まったようで、後は評価渇望チームが定員上限まで欲しい人材に交渉したり人数調整しているくらいである。


「何する? 俺らの貧相な案だと確実に被るぞ。」


「今までの傾向だと、楽器を触らせる、歌わせる、絵を描かせる、子供向けの劇をする………ってのが殆どらしいな。」


適当にやる派はほとんどが準備のあまりいらないなんちゃら教室を催す為、例年被りが出る。同じ案はいくつも通らないので被った奴は微妙に内容を変えたりと面倒らしい。

ちなみに俺の兄は被り戦争に敗れ、結局紙芝居を読んだとか言っていたな。迫真の演技で大好評だったとか……何やってんだあいつ。


「うーん、被ったらその時だ。無難な方向で行くか。」


出し物の相談はベンとニックが勝手にやってくれているので良いとして、アナスタシアさんである。

色見本の昼食会に参加する時は予め覚悟を決めていたので何とか般若顔もマシな感じで声をかけられていたが、今回みたいにいきなりはやはり弱いようでオロオロしている。

正確には、俺の目には「班員の目星がつかないまま一先ず立ち上がったものの周囲は着々と班員集めを進めておりどうしたものかと辺りを見回してオロオロしているアナスタシアさんの図」に見えるが、一般的に見れば「鋭い目つきで教室中を睨め回し捕食する獲物を見定めている鷹の如き威圧感を放つアナスタシアさん」だ。恐らく。


「そうだな、取り敢えず楽器体験にして、内容をちょっと捻って提出するとか。ヴィクターどうだ?」


「あー、いいんじゃないか。」


アナスタシアさんは一通りキョドキョドすると、教室の一角に目を止めた。目線の先には色見本どものカラフルな塊がある。


「それか腹に絵でも描いて三人で踊るか。」


「あー、いいんじゃないか。」


それから色見本の班を見てしばし逡巡したのち、胸の前で作った握り拳を小さく上下させてから、そちらに向かってカツカツと歩き出した。

い、いくのか。その色見本の班にいくのか。しかしそこは既に5人いるぞ………!


「ヴィクター、お前話聞いてないだろ。」


「んー………」


殿下の前に躍り出たアナスタシアさんが、自分も班に入れてくれないかという旨を伝える。

すっと前に出た緑がメガネをくいと上げた。チェックメイトとでも言わんばかりのインテリ顔で言い放つ。


「すまないが、既に5人集まっている。」


お前の入る隙はないんだよ、とでも言いたげな表情。もうお前が悪役令嬢だろ。悪役子息……か?


「ええ、それは存じております。」


それを聞いて、悪役子息レイモンド・グリーンウッドは眉をピクリとさせた。


「……貴女の代わりに一人抜けろと?」


「そのようなことは申しておりません。」


そうだぞ。これだから被害妄想野郎は困る。


「わたくしもこの機会に皆様と親交を深めたいと考えております。わたくしを入れて二班に分けていただくことは出来ませんか?」


アナスタシアさんは殿下に向き直ると、そう打診した。なるほど、5人班に自分を入れて3人班×2にしろと。

思い切り睨んでいるように見えるが、これは立派なおねだりフェイスである。


「どういう風の吹き回しだ……?」


少しうろたえつつ、殿下があからさまに不審そうに眉根を寄せる。

何か裏がないかと探っているように見えるな。


「私がアナスタシア様と同じ班でも良いんですか?」


「ええ。」


いやいや、シェリー嬢はなにアナスタシアさんと班組もうとしてるんだよ。みんなあんたと同じ班が良いんだから揉めるって。


「……殿下に相応しくない行為をしないかお目付役でもするつもりで?」


「子供たちと交流する催しだ。心配しなくても、あんたよりシェリーの方がよっぽど上手くやるよ。」


色見本が口々に、言いたい放題である。

アナスタシアさんが子供の相手が苦手そうなのは確かにそうだが、お前ら向き不向きでメンバー選んでないだろ。


「………少し場所を変えましょう。」


人前で嫌味を言い出した色見本に人目を気にしたアナスタシアさんは、そう提案して教室から出て行った。

うん、そうだな。見苦しいもんな。


「おい待てどこへ行くヴィクター。」


音を立てずに立ち上がろうとすると、腕をニックに掴まれた。


「え、いや、ちょっとトイレ………」


……のついでにアナスタシアさんたちの話をちょっと盗み聞きに…


「俺たちの話を適当に聞き流しといて良いご身分だな?」


「え、いや、聞いてた聞いてた。」


「じゃあお前が腹踊りをして、俺たちがバックで音楽を奏でる出し物でいいんだな?」


は?!!


「いやいや何そのふざけた出し物。退学になるわ。」


慌ててベンの方を見るが、助けの手は差し伸べられなかった。


「お前全部いいんじゃないかって言ってたぞ。」


その後、トイレへ連行されながら謝罪をさせられている間に、アナスタシアさん達の話し合いは終わっていた。




次話は明日更新します。


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