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おじさんと銀子  作者: ミンミ
1/1

道に迷ったおじさん

俺は、どこにいるんだ。


目の前は霧で真っ白。

振り返っても霧で真っ白。

かろうじて両脇にガードレールと、足元に舗装された道路が見える。



まあ、どこでもいいか。



どうせ、生きていてもつまらない。



ゆっくりと足を前にだす。

いつの間にか、さっきまであった車の往来もなくなった。

音も聞こえない。こんなに山道というものは、静かだったか。


そもそも、俺はここになぜいる?

なんでだったか。

あんまりに暇だったので、山でも登ってみようと思ったんだ。

失敗だった。

水も食料もこんなに恋しくなるとは。



しばらく歩くと、足が痛くなってきた。

コンクリートの固さではなく、土が足を取るようになっている。


さっきから、俺のいる場所がころころ変わっているように感じる。

そこまで、ぼけっとしてるのか。

してるかもな。どうでもいい。


ざくっ、ざくっ、と山に登る直前に買った15万円の登山靴が音を鳴らす。

この登山靴ってのも、重い。

だが、歩くのは確かに楽だ。

何も考えなくていい。


ざくっ


ざくっ


ざくっ




足を止めた。

目の前に、でかい木製の門があった。

大型トラック二台並んでも悠々と入れそうな大きさの門だ。

霧で見えないが、左右にはそれに見合う大きさの壁も続いているだろう。


古い日本家屋の門扉に似ているが、とにかくサイズがよくわからん。

ちょっと大きすぎる。

こんなのは見たことない。


霧が濃すぎるせいか、奥の建物は見えないが、こんなでかい門もある家だ。

昔の成金か、地主の家系か。

そのくせ、門前の道は、土がむきだした。

よく見たら、車が通っているような、道の真ん中の草が続く流れが見えない。


今は使われてないにしては、門はきれいに掃除されているように見える。

端々の金属の装飾品はよく磨かれて、光沢もある。



ぎぎっ


「人の店の前で、ぼーと観察してないで。早く入りなさい。」


門が人ひとり通れるだけ空いたら、着物姿の女がそう、声をかけてきた。

黒髪の肩までかかる長髪。

整った顔。

年は、20代前半か。

それにしては、雰囲気が落ち着いている。


「ほら。はやく入りなさい。」


「入ってもいいのか。」


「ええ。ここは飯屋だからね。」


めしや。飯屋か。

今時、そんな言い方をする若い人がいるのか。

しかし、ここで?


「なんでこんなところで。」


「そういう話は、みせに入ったらしてあげるよ。ほら!入った入った!」


急に、ものすごい勢いで手招きされる。

もう、上半身をフルに使って、右腕を振ってる。

こりゃ、俺に選択肢はないな。

断ったら、つかまれて、引きづってでも連れていきそうだ。


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