1 ユーステリア
今になって思えばなぜあの時、僕はあの場から動こうとしたのだろう。
あんなにおかしい状況にも関わらず、いつも慎重に行動しているこの僕が動こうとするだろうか?
いや、しないだろう。あの時のことを思い出そうとすると何か頭痛がする。
考えれば考えるほどいつもの僕ではないと感じた。
それよりもまずは今の状況を把握しよう。就活途中だったため、持ち物はカバンとその中に入っている手帳、お茶、筆記用具、あとは今着ているスーツぐらいか・・・
当たり前だけど役に立ちそうなものはほとんどないな
説明するのは忘れていたが、ここは草原のようだ。周りを見渡しても何もなかったのでつい荷物の確認を先にしてしまった。
ここがどこか分からないのだから危機感を持たないとヤバいのに少しさっきからおかしいな。
おっとそういえば電車で拾ったあの落しものは何だったのだろう?
確認する機会はあったはずなのに、なぜか見てはいけないような気がして実はまだ何なのか確認していないのだ。そして走ろうとした時にカバンの中にしまってそのままにしていた。
「確かここら辺に・・・って何これ、カード?」
そのカードには
― ようこそ、ユーステリアへ -
と書かれていた。
文字を読むと書かれていた文字が消えて新たな文字が浮かび上がり、そしてまた読むと消え、新しい文字が現れるということを繰り返す。要約するとこんなことが書かれていた。
― 地球にちょっとした用事があり運命神とやらが行動していたらしいのだが、唐突に「ここにカードを落とさないと大変なことになる。」と感じたらしい。なのでカードをあの場にわざと落とした。そしてそのカードを僕は拾うべくして拾いユーステリアと呼ばれる異世界へと転移させられたようだ。なぜ、あの時普段とは違う行動をしたのかというと運命の強制力による思考誘導がされていたのが原因らしい。-
ここまで冷静に考えているように感じているかもしれないが俺はブチ切れている
地球には両親、姉、そして僕の悪友たちがいる。してあげたいこと、これからやりたいことなどを考えればキリがない。
どうやって俺の思考や考えを読み取っているのかは知らないが新たな文字が浮かび上がってきた。
― すみません。今すぐあなたを地球に戻すことは不可能です。しかし、戻る手段ならこの世界に存在しています。直接の介入をすることは難しいですがサポートをすることなら可能です。-
確かに俺はかなり怒っているが、ここで泣きわめいても怒りをぶつけても状況は好転しないだろう。ならせっかく手伝ってくれるというのだから手伝ってもらおうではないか。なんの予備知識もなく帰る方法を探すのは無謀、いや無理だろう。
しかし、この世界に飛ばした原因であるのだから100%信用しないほうがいいだろう。
それで構いません。そちらのほうが信用がおけますから。
「・・・でこれからどうすればいい。」
自分を落ち着かせ、そう呟いた。
では、そのカードを胸にかざしてください。
疑問を持ちながらも手に持ったカードを胸にかざした。
すると持っていたカードが光り輝き僕の胸の中に入っていき、そして四角い小さいボードのようなものが目の前に現れた。テレパシーのようなものなのか頭に声が聞こえる。
《説明するのは忘れていましたが、ここユーステリアはあなたの世界でいうゲームのような世界です。魔法もあれば魔物もいます。当たり前ですが、1度死んでしまえば生き返ることはできません。例外はありますが。そしてこの世界にはステータスという、能力値を可視化できるシステムがあります。普通は道具やスキルがないと見ることが出来ませんが、あなたにはそのスキルを与えておきます。見たいと思えば出せますし消したいと思えば消えます。そのボードは基本的には相手には見えませんので安心してください。》
さて、どんな感じなのか・・・