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第八話 あめだまかむばっく

「」は日本語、『』は異世界語で、主人公は異世界語がわからない設定です。読んでくださる方、その辺りをよろしくどーぞ。

 結局屋根を直すことが出来なかったので、雨が滴る位置には桶を置くことにした。横からの風がなければそこまで寒くもないし。もうあんな怖い状況はごめんだ。


まぁ、そのおかげで新しい知り合いが出来たのだけど。


挨拶したから、知り合い……でいいよね。


あれから数日。リリョスさんを見かけてはいない。わざわざ私に会いに来る用事もないだろうし、下手すると一生会わない可能性もあるが……。


一生……。


今日はまだ誰とも会っていない。ハミグも来ない。こんな日は、寂しさで、思考がネガティヴになりがちだ。


私は小さな庭に出て、少しマシになった小屋の外観を見た。

もう穴が空いてるところはないし。なんとかギリギリ暮らす分には、問題ない。


洗濯物も干したし。これといってやることがない……。


わけがない。本当は、やらなければならないことしかない。


例えば。


空風コトリを捜索しに、本邸へ侵入するとか。


想像しただけで吐きそうなほどの緊張感だ。そんなことするくらいなら帰れなくても……いや、ものすごく帰りたい。


勇気が足りない。誰か私に勇気を分けてくれ。


私は、両手を晴れ渡る空へ……ではなく頭を抱えた。


『自分何しとるん?』


体がビクっと飛び上がった。声を出さなかったのは、たぶん慣れだ。


心臓を抑えながら横を見ると、うさ耳さんが立っていた。自己紹介を教えてくれたのはうさ耳さんだが、彼女は名前を名乗らず 『わたしの名前はフクです。やで、ほら言うてみ』 と私が真似できるようにしてくれたので、完全に聞きそびれてしまっている。


なぜこんなところに。


『忘もん届けにきたったわ。ホンマは全部もろとこおもてんけど、これは、あかんやつやし』


うさ耳さんが、私の前に、パッと手を突き出した。その上に、見覚えのある丸いものが二つ乗っていた。


まさか、届けにきてくれた?


私は驚いてうさ耳さんと飴玉を交互に見た。


『誰かに丸いもんあげるんわ、繋がってんでーいうことやからな。龍眼石もまん丸いやろ? あれのつもりやねん。龍眼石は、世界の想いである龍脈と繋がっとるっちゅーからな。まぁ何言うとるかわからんやろけど』


手の中に、グイッと飴玉を渡された私は


『あっありがぁとうぅ!』


下げようとした頭をガシッとうさ耳さんの両手に固定された。


『石鹸はもろたから、これでトントンな。じゃ』


うさ耳さんは、パッと片手を上げて背を向け、伸びをしながら歩いていった。たぶん女子寮の方へ行くのだと思うけれど。


「待って!」


呼び止めたら、止まってくれた。


『なんや?』


私は、振り返ったうさ耳さんに、走り寄って、飴玉を一つ差し出した。


『あぐぇる』


うさ耳さんは、目を細めた。


『……ええて。あんたようわかっとらんのやろ』


『あぐえぇる』


『せやからええてっ……てかあげるやで。あーげーる』


『あーげーるぅ?』


『せや。んでほらっ』


飴玉がうさ耳さんの手に渡った。


『もろたら、ありがとう』


うさ耳さんが、どうぞっと手で合図を送ってきた。


『ありがとぉぉうぉ』


『ありがとう!前からおかしいなおもて気になっとってん』


『ありがーーとうぅぅ!』


彼女の声の大きさに合わせて、大きく口を開けて発音したら、一応頷いてくれた。


及第点?


『そこそこマシになったな。って飴玉もろてもたし……まぁええか』


うさ耳さんは動作が大きくて表情も豊かだから、なんとなく言葉の意味も、他の人よりわかりやすくて助かる。自己紹介なんてややこしいものを習得できたのは、そのおかけだ。


『ほな、うち帰るから』


私は、頷いて、うさ耳さんに手を振った。すると、うさ耳さんも、手を振り返してくれた。


彼女の後ろ姿を見送っていると、ふと学校の帰り道に居るような、遠くないのに懐かしい気分になった。


もしもここへ来なかったとして、あのまま孤独な学校生活を送っていたとしたら、私は……耐えられたのだろうか。


今。こうして、手を振り返して貰えて、すごく嬉しい。挨拶が返ってくるのも、胸にジーンとくるほど、たまらなく嬉しい。


そういうのが、全然ない生活を受け入れて、通い続けられただろうか。


無理だったからって、そこにあるすべてを諦めるのは間違いだった?でも耐えたり打ち破ったり……そういうのもなんというか……違う気がする。


わからない。みんながどうやって、自分の居場所を作っているのか。どう折り合いをつけているのか。


落ち着け。


私は自然と自分に言い聞かせ、深く息を吸ってはいた。


とにかく。焦らずに帰る方法を探せる方法を探そう。

誰かに合わせたくても、同じ道を行く人もいないわけだし。

どれだけのんびり歩いても、遅れてもいないし、早くもないのだ。


転校して、それから転移したのは、不幸中の小さな小さな幸いだったかもしれない。新天地で、秘めたる力が目覚めたり、新しい自分を発見出来ない場合を経験したからこそ……前よりは立ち止まって考えられる。


とにかく、今あるスペックで、なんとかしたりしなかったり、するしかない。


あと今後は、誤解されないように、怒鳴ったりしちゃいけない。


人の話はたくさん聞こう。それで、挨拶と、できる限り笑っとこう。


あれ? あらためて考えたはずが一周しただけのような気もする。いや。そんなことない。ヘコんだのを元に戻せた……あれ?元に……まあいい!


私は気合を入れるために今こそ飴を食べようと思ったが、やっぱり勿体無くて、ハミグにもらったガラス玉と一緒に、ジャムが入ってた瓶の中に入れた。


主人公休憩回です。ここからほぼ、恋模様となる予定ですので、またおヒマでしたらお読みください。ご意見ご感想はお気軽に書いてください。

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