第四話 らいすぼーるはなみだあじ
「」は日本語で『』は異世界語となっております。主人公は異世界語がわからない設定ですので、ややこしいですが頭に置いてお読みください。
空風コトリと口約束をした数日後。
彼女は、いつもの美少女美少年だけではなく、あのクリーム色の髪の王子様と、恐らくその従者である男性二人と女性二人を連れて私の元へ来た。
何事?
思わず助けを求めるように空風コトリを見ると
「連れてくるって約束したから」
と言われた。約束は確かにしたが、こんなに連れてくるとは思わなかった。
中庭が狭く見える謎の事態にポカンとした私は、王子様が目の前で片膝をつき、私に向かって頭を下げるのを、止めるでもなくぼーっと眺めていた。
おとぎ話のような光景のはずが、顔を上げた彼の沈痛な面持ちがそうではないと語っている。
『すまなかった。そなたをここへ呼んでしまった不手際はすべてこちらの責任だ。しかしそなたの望むように、王が頭を下げるということは出来ぬのだ。どうか私で許してはくれまいか』
何を言ってるの?なんでしゃがむの?
混乱してまた空風コトリの方を見たら、従者の男性がものすごい形相で私を睨んでいた。
「フクちゃんが。ここで一番偉い人に謝罪させろって言うから。お願いしたんだけどね。それは出来ないからって王子が来てくれたの。ごめんね。言う通り出来なくて」
私の思考は、プツっと停止しかけた。けれど、ここでまた黙っていてはいけない。それしか考えられなくて。
「私そんなこと言ってない!!」
大声を出した。
言葉など彼女にしか届かないというのに、跪く王子様を怒鳴りつけているようにしか見えないなんて、気付きもせず……怒りをあらわにしてしまった。
『本当にすまない。そなたのことは我が妻であるフラミアに任せていたが、ここで働いているとは知らなかった。妻は気がまぎれるだろうと言っていたが、今後は別のものに任せる。帰る方法も必ず探し出す。だからコトリ様にあたるのはやめて欲しい。彼女はとても繊細で体調を崩しやすいというのに、いつもそなたのことを気にかけているのだぞ』
王子様が、すまなそうな顔で私を見上げ、長々と何か言った。
すると、私の元へ歩いてきた空風コトリが耳元で、今の言葉の訳ではなく、この事態を約した。
「フクちゃん。私が居なきゃ何にも出来ないってわかった?帰りたいならあんまり偉そうにしないでね」
私は、彼女の行動に慄いた。なぜここまでされるのかわからない。なぜここまで出来るのかもわからない。一体何がしたいのか……理解できない。
したくもない。
その日の晩。
王子様ご一行の中にいた従者によって女子寮から引っ張りだされた私は、いつもの中庭とは別の庭にあるボロボロの物置みたいなところに押しこまれた。
『貴様のことは俺が一任された。これは我が主を愚弄した罰だ。例えこのことで罰せられたとしても俺は貴様を許さない。食事は運んでやる。殺されないだけありがたく思え』
男が小屋から出たので、後に続こうとしたら、ドンっと強く肩を押されて尻もちをついた。
『ここに居ろ!』
私はビックリして、震えが止まらなくなり、男がバンっとドアを閉めるまで息も止めていた。
どういうこと?
朝まで膝を抱えて過ごし、なんとか記憶を頼りに元居た場所へ戻ってみたら、石の作業場にすでに私の代わりの人が居て、さらに今まで寝ていた寝床にも別の人がいて、お隣のうさ耳さんに女子寮から追い出された。
泣きそうな気分で、しかたなく小屋に戻ると、ドアの前に、お握り一個と冷めた汁物が置いてあった。
これが食事……。
私は、それを持って中へ入り、湿った藁に寝そべった。
走馬灯が見えた。
家族ではなく。食堂のごはんが見えた。これ走馬灯じゃないか。
なんでこんなときにお腹すいてるんだろう。
食堂の朝ごはんは、薬草と豆のお粥にしょっぱい漬物が付いていた。お昼はこんがり焼いたパンにレタスのような野菜と燻製のピリ辛鳥か、ほぐした魚とナッツを和えたものが挟んであった。夜は豆ごはんに白和えに焼き魚とお味噌汁な日もあれば、不思議な緑のソースがおいしいハンバーグとトマトの酸味が効いたスープな日もあった。
どれもおいしくて、食欲がなくても食べられた。なんとか頑張れたのは暖かいごはんのおかげでもあった。
今日まで与えられたものでなんとかぎりぎりやっていたが……。
もうこれだけになってしまった。
私は、目の前のお握りを掴んで、口に入れた。全部詰め込んで、しょっぱいスープと一緒に飲み込んだ。
また出来なかった。どうすればいいのかわからないけど。悪い方へやってしまった。
「もうヤダ……寝る。とにかく寝る」
独り言を言いながら、あおむけに転がったら空が見えた。屋根に穴が開いているからだ。壁も穴だらけで隙間風が冷たい。
「こうなったらもう。どこかから藁盗んできて……いやいやだめだ」
明日のことを考えると心が荒みそうだったので、目を閉じた。
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