第三十話 こんやくこんやく
『』は異世界語。「」は日本語です。
短めです。
『婚約……婚約っ!?』
一週間ほどベッドでゴロゴロする生活を送ったのち、フラミアさんとリリョスさんが部屋に来て、ようやく何がどうなったのかを教えてくれた。
フラミアさんと王妃は、ハミグの教育方針的なものとか、もっと子供生めよとか、嫁姑問題で不仲。
王様は、昔勝手に愛人……リリョスさんのお母さんとの間に子供設けたりして、後ろめたいから、王妃に強く出れない。
つまるところ城内は王妃の独壇場。
今までは、負けっぱなしのやられっぱなしだったけど、リリョスさん毒事件という王妃の大悪事に対して、なんだかんだ誤魔化し、被害を出さず、穏便に納められた。
とはいえ、私がやったことは、罪に問われるようなこと。
紆余曲折、リリョスさんが、私を嫁に貰い、尚且つ王様になる気はない宣言をしたから助かった。
めでたしめでたし。
じゃない。
前半はわかったような気もするけれど、後半がさっぱりだ。
二人共、はじめのうちは一生懸命説明してくれていたけれど、最後の方は何度首を傾げても、繰り返してくれなかった。
『あの場で王妃に毒入りの瓶を渡させるためだったんじゃがな。わらわもう説明に疲れた。
そなた素直にフクに気持ちを伝えてしまえばどうじゃ? 婚約の件。先日正式に陛下の了承を得たのじゃろう?』
リリョスさんの眉間におもいっきり皺が寄った。
『世間的に王妃が賛成してることになってるから、了承ではなく、流れで話が通っただけだ。そもそもこんなのは俺の案じゃない。俺の気持ちを巻き込むな』
『否定はせぬのじゃな』
『しない』
ブスっと答え、そっぽ向くリリョスさんをに、笑いを堪えるフラミアさん。
喧嘩ではなさそうだけれど。
『ごめんなささい。無理矢理な婚約。助けるのために……』
私に、気持ちを伝えるってなんだろう。
不本意だけど仕方ないとか言われたらどうしよう。
考えただけでズーンと気持ちが沈んだ。
『いや。お前は俺を助けるために動いてくれた。むしろ俺のせいだ。すまない。嫌かもしれないが…………』
リリョスさんが肩を落とし、口も閉ざした。
さっきまで身振り手振り、騒がしい説明が行われていた部屋が、シンと静まり返った。
婚約話に関して掘り下げないほうが良かったのかもしれない。
私は所詮部外者だ。二人共、もうさんざん身内のごたごたを説明してくれてる。これ以上聞かれても説明し難いいろいろがあるのだろう。
婚約とか嫁って言葉には、ほんと度肝抜かれてるけど、でも……きっとそういうあれじゃないんだ。
『っえっと……フク。とにかく、そういうことになった。本気で夫婦になれとは言わぬ。フリでよいからその』
フリだもん。わかってる。大丈夫。
『今後はリリョス殿と一緒に居てはくれぬか?』
『一緒居るっ』
私は、即答した。
選択肢が逃げてしまう気がして、速攻捕まえにいった。
ドサっ
リリョスさんが、藁ベッドに突っ伏した。
彼が、こんなコミカルな動きをするのは珍しい。
チラッと見えた横顔から険しさが消えている。
これは、もしかしたら、嫌ってほどじゃないのかもしれない。心なしか嬉しそうにも……いやそれはないか。
でもここで私に説明してるってことは、受け入れてるってことだし。
それに、どこか知らない場所へいかされるんじゃない。
今までで一番いい移動だと考えれば、不安に思うことなんて何もない。
これからは、隠れたりせず、リリョスさんと一緒に居てもいいんだ。
にやけそうな両ほほを押さえていたら、フラミアさんが、音もたてずに部屋を出て行った。
『フク』
『はいっ』
呼ばれて見ると、彼はまだ突っ伏したままだった。
ベッドに散る乱れた黒髪。気だるげに私を見上げる赤い瞳に、心臓がドカドカ暴れた。
『すまないが。暫く俺と一緒に住んでくれるか? 前のように不自由な思いはさせない。妙なこともしないから』
不穏な単語なんて、聞き流した。
私は、女性誌の表紙みたいにカッコイイ姿を目に焼き付けながら、アホの子みたいにカクっと頭を下げた。
『よろしくぅお願いします』
そういえば、前もこんなやりとりがあったような。
ふとよぎった嫌な予感に
『長く長ーくお願いします』
言葉を付け足した。
『っ……』
返事がない。
バタっ
彼は暫く、ベッドに突っ伏したままピクリともしなくて、まさか寝たのかなと、布団をかけようとしたら、光速で立ち上がった。
そして、寝起きみたいな足取りで、フラフラ部屋を出て行った。
もう少しばかり続きます。




