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転々と追いやられてもなんとか生きています  作者: みやっこ


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第二十九話 おべんとうよりせんぱい

「」は日本語、『』が異世界語ということになっております。


体中が痛い。

熱で頭がぼんやりする。


おばあさん医者に手当してもらった私は、フラミア邸のベッドでぐったりしていた。


コンコンっ


ノックして入った来たフラミアさんは、シャワーを浴びたらしく、すっかりいつも通りの美しい姿だ。


『その。少々夫に会ってはくれぬか? 一応止めたのじゃが、どうしてもと聞かなくてのう』


『え?』


返事をする前に、誰か部屋の中に入って来た。


うっイグライトさんだ。


起き上がろうと体を動かしたら、手で制された。

部屋の中が薄暗くて、表情まではわからないが、こちらを労わる丁寧な動作だった。


怒りに来たわけじゃなさそうだけど。


イグライトさんは、藁ベッドの横に膝をついて、寝ている私と目線が合うように、腰を曲げた。


『フクさん。あなたの……あなたや妻やハミグ。兄上の行動に、己を省みました』


静かな声だ。

王子然とした固い話し方ではない。リリョスさんの声に似ているけれど、彼より少し控えめな印象を抱かせる。


『もう少し、わかりやすい言葉を選んだ方が……』


フラミアさんに耳打ちされ、頷くイグライトさん。


『私は、嫌なことから逃げていた』


嫌な事?


私は、相槌を打つ代わりに頷いた。

以前のことがあるので、言葉を発するのはちょっと、不用意には出来なかったし、そんな雰囲気じゃなかった。


『私は、もう二度と辛い現実から目を背けない』


手を差し出された。


自己紹介?


だるい中、なんとか片手を布団から出した。

イグライトさんは、私の手を両手で拾い上げ、祈るように目を閉じた。


これは一体なんだろう?


フラミアさんを見たら、頼むからしたいようにさせてやってくれ的な、ジェスチャーをされた。


私は、凝視しているのも申し訳ないので、天井を見た。


そういえば。

あれだけのことをやらかしてる最中はまったくもって忘れていたけれど。

イグライトさんや王妃に見つかってはいけない設定は大丈夫なんだろうか。

バレにバレたはずなのに、特に何も言われてないし。本人ここにいるし。

何もかもが万事うまくいったってことでいいのかな。


『兄上のあんな顔は初めて見た。あなたはすごい人だ』


ぼーっと天井を見ながら考えていると、イグライトさんが、小さく呟いた。


やべっ完璧聞き逃した!


横を向いたが時すでに遅し、イグライトさんは、深々と頭を下げて、綺麗な仕草で立ち上がり、部屋を出て行った。


『おい』


イグライトさんが去ったドアから、ヒョコっとスワルさんが現れた。イグライトさんと一緒に来ていたようだ。なぜ中に入らなかったのか、ドアの隙間から顔だけ出しているのはちょっと可愛らしい。


『大丈夫か?』


頷いたら、スワルさんはピャっと顔を引っ込めた。バタバタ遠ざかる足音。


トムだったこと、バレてるっぽい。怒っているのかもしれない。

今度会うことがあれば謝って……許して貰えるかな。


トタタタタっ


足音が戻って来た。

ハっと顔を上げると


『うわぁぁっフクっ!!』『あんたよう無事やったなぁぁぁぁぁ!!』


ロップとハミグが、部屋に突撃してきた。


『ハミグっロップ!』


無事だとは聞いていたけど、本当に良かった。


『二人っ……おっ……おいてくっごめっ』


ロップに軽く叩かれ、謝り損ねた。


『うちらようやったで!』


ロップがニっと笑って、ガッツポーズした。

あんたもしぃや、と言わんばかりだったので、寝っ転がったまま、腕を上げる。


『ようやったね!』


ハミグも、いつもみたいに照れたりせず、力強く頷いてガッツポーズをした。


不思議な事に、もくもく沸いていた不安が、一瞬で消えた。


ガッツポーズって異世界でも同じなんだ。思えばはじめの頃は、殆どボディランゲージで意思疎通していた。


「ほんっとよかった」


ふにゃっと体の力を抜いて笑ったら、二人といろいろ話をしたいのに、急に瞼が降りてきた。


『薬が効いて来たんじゃろ。二人共。フクを休ませてやらねば。さっ部屋を出るぞ』


私は、フラミアさんに押され、渋々出て行く二人の背中を見届ける前に、目を閉じた。


フワっ


誰かに頭を撫でられた。


『この恩は生涯忘れぬ』


ありがとう。


特別優しい声音を最後に、私の意識は眠りに落ちた。


はずが


キーンっコーっ……カーっ


あれ?


チャイムの音に目を開けた。

授業中うたた寝してたらしい。


今何時間目だっけ?


ポケットの手鏡で涎を確認して体を起こすと、クラスメイトがそれぞれ集まってお昼ご飯を食べていた。


誰も起こしてくれない。ぼっちを意識せざるを得ない時間帯。

それなのに、全然憂鬱な気分じゃない。

クラスに馴染めず、一人きりだというのに、妙に落ち着いている。


なんでだろう。


不思議に思いながらお弁当を出そうと鞄に手を伸ばす。


「ちょっとあれっリリョス先輩サッカーしてるよ!」

「えっ嘘っ!」


え?


鞄をフックから落として席を立ち、窓の外を見ると、見覚えのある彼が、ボールを蹴っていた。

軽々ディフェンスを抜いて、ゴール。

女子の黄色い声援を受けている。


私は、慌ててグラウンドへ降りた。


靴を履いて外へ出ると、女子に囲まれて、一緒にお昼を食べようと誘われている、制服を着たリリョスさんの姿があった。

似合わなくもないけれど、体格が……ちょっと今時の高校生にしては良すぎる。


「今日お弁当作って来たんですっ」

「ちょっと今日はこっちって言ってたでしょ?」

「先輩っ!!」


困った顔なのに、どことなく嬉しそうなリリョスさん。


なんか嫌だ。


「リリョスっお昼終わっちゃうよーー」


妙に親し気な同級生女子に呼ばれ、去ろうとするリリョスさん。それを引き留める後輩女子たち。

頑なに呼び続ける同級生女子。


小さなバトルが起きている。バチバチいってる。


恐ろしい。


ただでさえハブられている私が、あの輪に突っ込んでいくなんてありえない。


絶対無理。


なはずが、足がガンガン進んでいく。戦場へ赴く。


私は、輪の中に手を突っ込み、無理やりリリョスさんの腕を掴んで引っ張った。


「ちょっ何すんのよっ!」

「誰こいつ?」


あからさまに顔を顰める女子たち。


恐怖で体が震える。

けれど、掴んだ手は離さない。


二度とあんな目にあいたくない。あわせたくない。


捕まえておかなきゃ。


どこにも行かないように……。危ない場所へ……なんか親し気な女子の方へ……誰のとこにも行かないように。


「先輩っ! 他の人のところへ行かないで! だって私先輩のことがっ」


パチっ


グラウンドが消えた。目の前には薄暗い部屋、天井と黒い影。


「好きでふ……」


『ん? 起きたのか?』


目が慣れてきた。

鬣のような黒髪。赤い瞳。

彼が目の前に居る。


リリョス先輩。

せんぱい?

あれ。今私……えっとフラミアさんの家に居て……学校じゃなくて……あれは夢……でもなんか口走って。


「……っ」


慌てて起きようとしたら、背中と肩が痛くて、ベッドの上で体が跳ねた。


『起きるのか?』


彼が、私の痛くないほうの肩を支えて、ゆっくり起こしてくれた。

私は、ばっちり覚えている夢の内容に混乱して、リリョスさんから目を背けた。

すると


『あぁ……』


リリョスさんは、何を考えているのか、急に私のことをベッドから抱き上げた。

天井が近くなる。体がフワっとしている。

声が出ない。

驚きすぎて、喉の動かし方を思い出せない。


リリョスさんは、私を抱き上げたまま、スタスタ軽い足取りで部屋を出た。


運ばれていく。

どこへ?


割とすぐ止まった。


ここは……ここは私の部屋から一番近いトイレだ。


『降ろすぞ』


ゆっくりドアの前で降ろされた私は、無言で片足ジャンプしてトイレにイン。

竹製の便座に座って、頭を抱えた。


助けてくれーーーー!!


内心叫びつつ、深呼吸した。なんだかんだ狭い空間は落ち着く。

私は、胸をこれでもかというほど強く押さえた。


あれなの?

私……こんなときにあれだけどあれなの? そういう甘酸っぱいことになってたの?

好きですって言っちゃってるもん。

完璧にあれじゃないか。

っていうか通じてないよね? うん。ないない。言葉通じてなくてよかった。


ええ!?

好きなの?


私は、自分で自分に驚いて、速攻苦悩した。

こんな切羽詰まった世界で、戦とか毒とかいろいろ大変なことが起きてる最中に。

なぜ頭の中がお花畑になるのか。


わけがわからない。

女子に囲まれた先輩の腕を引っ張って告白劇なんて痛いことするほど。

周りなんて関係ないほど……好き。


いや待て。でもよく考えて私よ!

だっていずれ元の世界に帰る…………。


そう。

帰る……んだ。


ドクドク激しかった鼓動が落ち着いてきた。

でも胸のあたり、奥の方のどこだかわからない器官がズキズキする。


私……。


俯いて、下を流れる水の音に耳を澄ませる。


これは清流じゃない。トイレの水だ。

外でリリョスさんが待っている。っていうかトイレだと思われて運ばれた。

ノット考え事!!


私は、慌てて手を洗い、片足でピョンピョン外に出た。


パシっ


捕まえられ、当たり前のように持ち上げられた。

トイレ後にお姫様抱っこは嬉しくない。


『おおっ降ろすっ! ください!』


暴れまわるほどの元気もなく、声だけで騒いだら、じっと目を合わせて首を振られた。

顔が熱い。

熱のせいじゃなく。


好きとかそんなこと……そんなことじゃないけどっでも絶対それどころじゃないのに。


ものすごく丁寧にベッドの上に降ろされ、布団を掛けて貰った。


もうだめだ。いろんな意味でしんどい。怪我も痛いし熱も……熱……。

ん? ちょっと待って。今日って昨日の今日の? あれから何時間ぐらいたった?


そんなに経ってないはず!!


「リリョスさん体大丈夫ですか!? 私の面倒見てる場合じゃないでしょ! っ……た!」


またも跳び起きようとして、失敗した。


『無理するなっ』


リリョスさんに起こして貰った。


何をやってるんだ私っ!


『飲むか?』


コップに入った水を口元に近づけられ、ゴクっと一口飲む。

喉は渇いてるけどそうじゃない。

看病される側になってる場合じゃない!


『寝るっリリョス!』


『ああ。そうだな。寝たほうがいい』


再びゆっくり体を横たえられる。布団かけられる。心配そうな顔で、額に手を当てられる。


逆っ!


『リリョスの……が寝る!』


ただでさえ熱っぽくてボワっとする頭を必死に働かせて主張したというのに、またも首を横に振るリリョスさん。


『暫くここに居る』


『駄目っ! リリョス元気違う!! 寝る!!』


『じゃあここで寝る』


子供のようにごねられても可愛くない。本気っぽいからちょっと怖いくらいだ。


『ここダメ!!』


『どうして?』


『女子な部屋! 男は他所へ行く!』


『男だと思わなきゃいい。俺に気を遣う必要はない』


男だと思うな?


何気にショックな一言をくらい、布団を引き上げて顔を隠した。大したことじゃないのに、涙腺がキーンっと痛んだ。

本気で危なかった。


キシっ


藁ベッドが少し揺れた。

さっきより近くに気配を感じる。私は、ギュっと目を閉じた。


私が……彼を好き……なのだとしても。この人が私を……なんてことはなさそうだ。夢の中みたいに押して押して押しまくるスタンスで行ったとしても、この様子じゃ無理っぽい。


大人の男の人ってだけでも、よくわからないのに、異世界の、しかも王子様。


無理無理絶対無理。相手にされない。


そうだ。


今ならなんとかなるんじゃない? 気付かなかったってことに出来るんじゃない? 深みにハマったわけじゃないもん。出来たてほやほやだし。


ギシっ


また藁ベッドが軋んだ。彼の気配が離れていく――


ガシっ


私は、思わず、布団から腕を出し、彼の服っぽい布地を掴んだ。


あっヤバっ


慌てて離し、布団に引っ込めようとしたその手を


パシっ


彼に掴み返された。

ごつごつとした大きな手が、私の手をギュっと握った。


「っ…………」


体の奥にある何かが浮き上がって、モヤモヤごとぶっ飛んだ。

私は、なんだか転げまわりたい気分になって、必死に耐えた。


駄目だコレもうっ……駄目っす。!


私、こんな見も知らぬ、言葉も通じない、戦いのある世界で人を好きになる偉業を成し遂げてしまいました!


ついさっきまで、毒を取りにいった行動力たるやすごいよね。と自分をほめていたけれど、これこそすごいことだ。


信じられないポジティブな気持ちになって、布団の中でニヤニヤしていたら、なぜかまたも眠くなってきた。


薬のせいかも。


自然な眠りではない、引っ張られるような感覚が怖くて、彼の手を握り返したら、スルっと顔から布団をのけられ。


彼の香りがした――


「っふぁ?」


いつの間に寝たんだろう。


目を覚ますと、さすがにリリョスさんの姿はなく。


カサっ


代わりのように、手の中に何かあった。

グシャグシャに丸めた紙だ。


ゴミ?


覚えがないので広げてみると、中に、丸い赤色の石が一つ。


この包み紙……。


地図みたいなものに、幾本もの筋が書き込まれたこれには、見覚えがある。


リリョスさんのだ。


なんなのか、よくわからない。

けれど、とても大事なものを渡されたんだということは、わかった。


私は、紙を小さく折りたたんで、赤い石と一緒に、枕元に置いていた大事なもの入れにしている瓶に入れた。


遅くてすみません。

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