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転々と追いやられてもなんとか生きています  作者: みやっこ


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第二十五話 のんすとっぷかいとうしょうじょわん

日本語は「」異世界語を『』で表示しております。主人公は異世界語勉強中です。

 ハミグが一生懸命、辺り一帯の地図を紙に書いている。


『つまり、あんた……屋根の上渡って、王妃の部屋に乗り込もうっちゅーねんな?』


『屋根、つなごってる。行ける』


『あんた、なんで樹の上の建物が全部平屋なんか知らんと言っとるやろ』


『建物?』


 私は、このあたりの邸の屋根が全部繋がっているのを利用して、上から侵入しようという案を出した。

 薬じゃなくて、毒が必要だということは、二人に説明してもらった。

 フラミアさんがどこへ連れて行かれたのかについては

 昔、フラミアさんが家出をしたとき、処分が下るまで、拘束されていた部屋が王妃の邸近くにあって、王妃の性格上、過去の過ちを思い出すその場所に捉えているはずだと、ロップがそうとうな早口で教えてくれた。

 もろもろ理解するのに、そこそこの時間を取ってしまったが、場所がわかっているなら、フラミアさんのことも屋根の上から助ければいいと、単純にそう考えた。


 私の提案に、ハミグの表情が引き締まった。


『王の上を歩いたら罰当たりやちゅうて、二階建てやないんやで』


『王…の上……歩く』


『歩いたらダメなんや』


 ロップがキパっと言った。


『? 今王いなし』


『……せやった。忘れとった。じゃあそれはええとして……屋根の上から行って、どないして中入る気や?』


 私は、光る虫のことを二人に身振り手振り、紙に書いて説明した。

 あれで屋根を固めている液体を溶かせば、葉っぱを剥がして中に入れる。


『うーーん』


 ロップが唸った。


『あれは、幻虫言うて、希少種でな。本体が出した幻を虫かごに入れて使用すんねんけど、工事するときは、数日前に申請して、ようやっともらえるって感じで……普段は虫小屋で管理されとるから……』


『じゃあそれもぬすもう!』


 ハミグが、私の盗む発言の影響か、割と軽い口調でそう言った。幼子の口から聞くと、異世界語でもなんだか気が引ける。

 注意したいところではあるけれど、私もそれ以外思いつかず、ロップも、しぶしぶという感じで頷いた。


『時間にゃい。すぐ行動ぅす』


 私たちは、大まかなことを決めただけで、おばあさん医者にリリョスさんのことを頼んで、邸を出た。

 幻虫の小屋まで大した距離はなく、誰かに邪魔されることもなかった。

 異世界から来ただけの女子高生。耳の生えた使用人女子。可愛らしい王子様(幼児)。

 非力三人。王妃にまったく警戒されていないことだけが強みです。


「っ虫小屋って見張りいるの?」


『シっフクっ!』


 明らかに私より大きいロップの声は雨音が消してくれた。


 生垣の影から目的地である庭を覗くと、小さな虫小屋の真ん前に見張りが二人も立っていた。

 いきなり対人間とは想定外。

 こっそり侵入して盗むだけだと思っていた。

 二人は想定内だったのだろうかと、振り返ったら

 

『ぼく。ふたりをおびきよせてみる』


『ハミグ様っ危ないことせんとってくださいっ』


『だいじょうぶ』


 拳を握りしめたハミグが、パサっと色とりどりな翼を背中に生やし、飛び出して行った。虫小屋の真ん前に……。

 

 え? 大丈夫? 何しに行ったの?


 ロップがアっという顔をしている。


 ハミグの単独行動!?


 張り切らせ過ぎたのかもしれない。

 『ぼくがやるっ』 というたび、どうぞどうぞやってみてくださいと放置してきたことが仇となったのか、子育て経験がないのでわからない。


『っ誰だ!!』


 見張りの声が庭に響いた。

 驚いた私とロップは、お互いの腕を掴んで息をひそめた。


 見張りに発見されたハミグは、逃げも隠れもせず、むしろ存在を主張するように背中の翼をワサワサ動かし、胸を張った。


『っハミグ様!?』


 翼に気付いた見張り二人が、雨避けのフードを脱ぎ、慌てて頭を下げた。


 さすが王子様。

 でもさっきの会議では、王子様権限を使って幻虫を手に入れることは出来ないと言っていたはず。警戒されてないとはいえ、ハミグの動きが王妃に伝わるのは避けたいからだ。


 頭の中でどうしようをリピートするばかりな私の横で、ロップが大きめの石を拾い上げた。

 私も、そこらに落ちていた石を拾った。


 いざとなればこの石を……当たるかな。


『うわーーんっ』


 何事っ!?


 庭を覗くと、見張り二人が、心底驚いた顔で、固まっていた。

 私とロップも石ころを持ったまま固まった。


『どっこのようなところでどうされました!?』

  

 ハミグが、ひっくひっくと泣いている。


『おうちっ……わからなくなっちゃって』


 いつもより甘い、子供らしい声。

 見張り二人は、あわあわと慌てふためき、濡れた地面に膝をついた。


『迷子っ……になってしまわれたのですか? しかしなぜこのような夜更けに……』


『うううううっかえりたいよう』


 両手で顔を覆いぐずぐずと鼻をすする幼子を前に、どうしたものかと右往左往した大柄な見張りは、フード付きの上着を脱いで、ハミグの頭にそっとかぶせた。


『邸のものを呼んでまいりますゆえ、しばしここでお待ち……』


『ないしょなのっ!』


『……はっい……??』


 立ち上がりかけた見張りは、再び濡れた地面に膝をついた。


『ないしょのぼうけんなの……だから。おじさん、ぼくがみちわかるところまででいいからおくってほしいの。ぼく……なきむしだから、つよくなりたかったの』


 ハミグが読んでくれた冒険小説の主人公が、同じようなことを言っていた。送ってほしいとは言っていなかったように思うが、強くなりたいのだと、泣きながら訴えるシーンがあった。


『えっと……』


 ハミグのキラキラした瞳を真正面から受け止め、右へ左へ視線を彷徨わせる見張り。

 上に言わなければならないという使命感と、小さく可愛らしい王子の矜持を守ってやりたいという人間味の間で戦っているのかもしれない。

 

『っ……わかりました。では内緒にいたしましょう。私がお送り致します』


 内緒って言ったよね!! ありがとう見張りのおじさん!


『ありがとうっ』


『いえ。勿体なきお言葉にございます』


 ハミグにお辞儀をして立ち上がった見張りは、どうしたものかともう一人と顔を突き合わせたが、不満を口に出すことはしなかった。


『では……えーー見張りは頼むぞ。私はお送りしてくる』


『えっ? ふたりでおくってくれるんじゃないの?』


『申し訳ございません。ここを空けるわけにはいきませんので。私一人で』


『えっあっでもそのひとりだとっ』


『心もとありませんか?』


『あっうん。ふたりがいい』


『では、誰か呼んでまいりましょう』


『あっ! いやそれはっ』


 若干の抵抗むなしく、程なく項垂れた小さな背中が、見張り一人と共に屋根のある渡り廊下へ消えていった。


 残されたもう一人の見張りは、なんだったんだという顔で、虫小屋の前を陣取ったままだ。


 これを成功と取るか、失敗と取るか。一人減ったんだから、さっきより状況はマシなはずだけど。


 どうする? ロップ


 小声で意見交換しようと横を見たら


『アカンっ……もうっ……ああああ』


 ロップが立ち上がっていた。

 

 えっ何? 何?


 尻もちをついた私を置いて、庭へ飛び出して行くロップ。


『アンタっ!!』


 隠密とは思えないロップの声が生垣の向こうから聞こえた。

 私は、飛び出そうな心臓を押さえて庭を覗いた。


えええっ?


 ロップが、庭のど真ん中で両腕を組み、堂々仁王立ちしている。

 見張りの男の方が棒立ち状態、一難去ってもう一難来るとは思ってなかったのか、きょとんとしている。


 ロップは、ズンズン男との距離を詰め……そこまで詰めるかというほどに詰め


『ろくでなし!』


 ほとんどゼロ距離。ヤンキーが喧嘩を売るときのように男と顔を突き合わせ、庭に響かないギリギリの音量で怒鳴った。


『あんたうちの友達と付きおうとるくせして! 別の女と町歩いとったそうやな!』


 二言目で見張りの胸倉をつかんだロップは、ワルツを踊るみたいに見張りの体を半回転させた。

 私が居る方に、見張りの背中が向くように。


 これってまさか。


 今のうちに、私が庭に侵入して、虫小屋から虫を取ってくるというような……作戦じゃないよね。


 ロップが、ダンダンっと二度足踏みした。水たまりの上なので、パチャパチャ鳴った。


 完全に黒だ。いや黒って……負けたのでも悪いこと企んでるんでもない……悪いことだけど。


『誰のことだ? 俺は結婚している』


『はあああ!? 結婚しとる? そんなん聞いてないで! ほんならこっちが浮気かいな! さいっていや……ほんま最低な男やで!!』


 私は、全身を震わせながら、庭に進み出た。

 絶対行きたくないし、怖いのに、地面を這って、進んでいた。

 男の死角に入り、そーっとそーっと虫小屋に近づいて行く。

 

『だから誰のことなんだよ! 身に覚えがっ』


『すーーぐそう言うこと言うねん! 身に覚え? あんたの感覚やとないんやろな! ふっつーに女泣かすんやもんな!』

 

 私の足音を消そうとしてか、早くしろってことか、ロップが何度も足踏みする。


『人違いじゃないのか!』


『いーーやあんたや。間違いあらへん。虫小屋の見張りしとるデコ広すぎて将来前から禿げそうな男や言うてた!』


『え……それ……それ俺?』


『あんたやろ。その髭似合っとらんけど愛してる言うてたもん』


『え……その子ほんとに俺のこと好きなの? 悪口しか言ってない……っていうか本当知らないんだって!』


 二人の会話がヒートアップしている間に、なんとか男のほとんど真後ろ、虫小屋の入り口にたどり着けた。

 緊張で鼓膜がバクバク鳴っている。


 中に入ろう。


 この勢いが冷めないうちにと、虫小屋のドアを見た私は、即絶望した。

 なんと、ドアに南京錠がかかっているではありませんか。


 どうしよっどうしよ!


 いろんなものを堪えて、唇を噛んで振り向くと、男の腰にひっかかっている鍵が目に入った。


 渡りに船!


 私は、鍵あったーーよかったーーというテンションで男の腰に手を伸ばした。


『ひいいっ』


 ロップが声を上げた。


『なんだっ!?』


 鍵に手が触れ、チャリっと鳴った。


『うちの友達に謝れ!!』


 振り返ろうとした男の胸倉を締め上げ、揺さぶるロップ。

 

 シャラっ


 鍵が揺れて再び私の手にあたった拍子に、ホルダーから外れて地面へ――


 パシっ


 私の右手がギリギリキャッチした。

 奇跡。


『ぐっゲホっ!!』


 締め上げから解放された見張りが、腰を折って咳き込んだ。ロップが思わずという感じでガッツポーズして、すぐ腕をひっこめた。


 私は、口元を押さえて身悶えた。

 あまりの恐怖で声が出そうだったのだ。


『すまんすまん。ちょお絞めすぎた。とにかくな。ちゃんと話し合いしてほしいねん』


『いやっだから話し合いっていってもっげほ!』


 二人のやり取りが再開した。


 早くしなきゃっ!!


 私は、鍵を持つ手の震えをもう一方の手で押さえて、鍵穴に鍵を差しこみ、ゆっくり回した。


 カ……チャ。


 南京錠が外れた。

 音が鳴らないよう、そーーっとドアを開け、中に体をすべりこませることにも成功した。


「大丈夫……やれた」


 小屋の中には、大きな虫かご二つと、見覚えのある小さな虫かごがいくつか。その中に虫が一匹づつ入っていた。

 

 黄色い光の虫。


 私は、黄色く光っている小さな虫カゴを手に、それに被せる専用の布を棚から拝借して、そーっとドアを開け


『あ! ちょっ今あかん!!』


 見張りの男と目が合った。

 ので急いでドアを閉めた。


 聞き耳澄ましてタイミングを計るべきだった!


『貴様!! 何者だ!! いつの間にっ』


『~~~~っ!』


 私はカゴを小脇に抱え、両手で必死にドアノブを引っ張った。

 もうだめだ。あきらめて謝ろう。誤魔化そう。


 そう思っているのに、足も手も抗っている。


『ちょっアンタ止め!! ドア離し!!』

『お前もグルか!!』


 外でもめている音が聞こえた。


『ロップっ!!』


 つい名前を呼んだら足が滑った。


ズガっ!!


『うっ!!』『わっ!!』『ひっ』


 グンっと前に引っ張られた私は、ドア枠に肩を強打して外に転がり出た。


 痛すぎて涙目になりながら起き上がると、倒れた見張りの下で、ロップがもがいていた。

 男は、ドアで顔面を強打したらしく、鼻血を出して伸びている。


『ようやったフク! ちょっこいつのけんの手伝っ……』


タタタタタっ!!


 足音が近づいてきた。


 助けてーーーー!!


 内心叫びながら、男の腕を引っ張ろうとしたら、ロップに払いのけられた。


『もうええっ!! それもって早よいき!! ここは何とかする!!』


 シッシと手で追い払われ、意味を理解した私は――


「ごめんっ」


 虫かごを抱えて走り出した。


 嫌だっ嫌だ。


 口の中で呟いているのに、足は止まらない。


 来た道と違うルートを通ることだけは、幻虫を盗む前に決めていたから、頭の中に描いた地図通り全力疾走した。


 そう遠くないとはいえ、走り続けるにはギリギリの距離だった。

 フラミア邸の門を潜り抜けた途端、足に力が入らなくなり、地面に膝をついた。

 後ろから足音はしない。追手は来ていないようだ。


 ロップ……。


「っはぁっはぁっはっうえっげほっ……」


 ぶつけた肩が猛烈に痛い。

 

『フクっ!!』


『ハミっ……っはぁっはぁっ』


 ハミグが、梯子をズルズル引きずって走って来た。

 無事にここまで送り届けて貰えたようだ。

 私は、無理やり深く呼吸して、なんとか息を落ち着けながら、戦利品である虫かごを掲げた。


『すごいっフクっ。ごめんねぼく、ひとりしか……ロップは?』


 私は、首を振って地面に手をつき、立ち上がろうとして


 ズルっと滑った。


 ふと手元を見ると、ぐちゃぐちゃに濡れた黒い布。リリョスさんの羽織っていたボロボロの外套が落ちていた。


『…………』


 私はそれを拾い上げて、ギューーっと絞ってから、羽織った。


『ロップあとでぃ来る。これ着るぅ。夜。黒い。屋根移動、見えぬいな』


『そっ……か……わかった。うん。それでやねにのったらみえにくいね。ぼくもいれて』


 微かに、白檀みたいな香りが残っている。


 大丈夫。ロップは大丈夫。大丈夫。絶対に大丈夫。


読んでくださってありがとうございます。

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