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転々と追いやられてもなんとか生きています  作者: みやっこ


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第二十二話 あまおと

「」は日本語、『』は異世界語となっております。主人公は異世界語を少しづつ勉強中です。

 眠れない……。


 夜。部屋の灯を消さず、ベッドの上で窓の外を眺めていると


『そなたの元気がないと、ハミグが心配しておったぞ』


 後ろから声をかけられた。

 振り向くと、フラミアさんがドアの前に立っていた。

 

 こんな夜中にどうしたんだろうか。


 慌てて立ち上がろうとする私を 『よい』 と制したフラミアさんは、鏡台の椅子を動かして、私に向き合う形で腰をおろした。


『スワル殿から……音の子を通じて戦の話を聞いたそうじゃの。ロップから聞いた』


 スワルさんとロップの名前を聞いて、空風コトリに会ったことを報告するべきだったと気付いたが、今更だった。


『本来、あの音の子を通じて、そなたにこの世界のことを説明するのは筋じゃとは思うが、あのものはなぜか、そなたに自分より優位で居てほしくないようじゃからの。別人に扮してようやく知ることが出来るとは……』


『すみま……せん。勝手の、会う』


『いや。そのことは……そうじゃの、今後気を付ければよい』


 ハキハキとしたフラミアさんの話し方は好きだが、スピードがありすぎてついていけなかった。怒っていないのは何とかギリギリ理解出来たけれど。

 

 フっと短く息を吐き、まっすぐ私を見つめるフラミアさんから、鬼気迫るものを感じた。

 今から何か大事な話をするのかもしれない。

 私は、身構えた。


『そなた。リリョス殿が好きか?』


「え?」


 文字数が少なかったので聞き取れたけれど、ガクっと大げさなぐらい首を傾げてしまった。


『好きなのか?』


 聞き間違いじゃない。


「えっと……え? あれ? なんでそんな話に……え? え……好きってだって……そりゃ嫌いなわけないけど」


 リリョスさんが好きかどうか、というのは、あれだろうか。恋バナ的なニュアンスなのだろうか。

 それとも雇い主として?


『好きならば逃げるな』


 ズドっ!

 という音はしていない。物理的な攻撃を受けたわけでもないが、フラミアさんの一言と眼力からそんな音が聞こえた気がした。


 私は、ピタっと両腕を体の横につけ、ますます背筋を伸ばした。


「…………」


「…………」


 黙って見つめ合っていたら、押され気味の私ではなく、フラミアさんの方が先に逸らした。


『わらわは…………ハミグを身ごもったばかりの頃、夫を置いて……逃げ出したことがあってのう』


『逃げ……?』


『一人で、家を出たのじゃ』


 実家に帰らせて貰います……という話だろうか。

 私は曖昧に頷いた。

 

『わらわは草域南東部出身でのう。あのあたりはよう戦場になるから、家を捨てては別の場所に建てるというのを繰り返し、みな暮らしておった……』


 家を捨てる、建てるは一応聞き取れた。旦那さんと喧嘩して仲直りしてってことかな。違う気もする。

 ゆっくり話してくださいとお願いしたいけど、言いにくい空気だ。


『家は一人で建てろ……と南東部ではよく言うんじゃがの。実際は無理なところもあるから、周りのものが手伝ったりするが、大切なところは、己でやる方が丈夫な家が出来る……と』


 どこか遠くに思いをはせているようだった。どんどん独り言みたいな声音になっていくフラミアさんの横顔は相変わらず美しいが、少し疲れているように見えた。


『ここは故郷とは違う。わかっておったはずなのに……あのときわらわは、一人で逃げた。そのせいで夫や王妃殿下の信頼を失くし、自由を失くした………………あの言葉は、他人を疑えという意味ではないはずなのに……ここでは、そう思えてしまってのう………………わらわは……どうすればよいのか、リリョス殿に言われたとおり矛盾したことばかりしておる……』


 リリョスさんも、今のフラミアさんと同じように、ときどき、わからなくていいとでもいうように、話をしていた。スワルさんもだ。

 理解してほしいわけでも助けてほしいわけでもない。

 自分自身に言い聞かせているのかもしれない。

 

 パタっ


 小さな音がして、二人同時にドアの方を見ると、隙間からハミグが顔をのぞかせていた。


『なんじゃハミグ』


 ビクっと小さな肩を跳ねさせ、そーっと部屋の中へ入ってきたハミグは


『もうちょっとお話しようとおもって…………』


 おずおずとそう言った。

 フラミアさんの顔が少し綻んだ。


『そうか……ん。それがよいやもしれぬな。ではわらわはもう行こうかのう。あまり夜更かしするでないぞ』


「あのっフラミアさんっ」


 私は、去ろうとする彼女を思わず呼び止めた。


「私っ……がっ……がんばります!」


 なぜ今そんなことを言ったのかわからない。けれど、グと拳を握りしめて宣言していた。しかも日本語で。


『ん。応援しておるぞ』


 桃色の髪を揺らしてニィっと笑ったフラミアさんの言葉は、なぜか、理解しなければと思わなくてもすんなり頭に入った。


 あれ?


 今、会話が成り立った?

 私……日本語だったよね。フラミアさん異世界語だったし。

 

 ドアが閉まり、フラミアさんの足音が忙しなく遠ざかって行った。きっと忙しい中、時間を割いてくれたのだ。


『フク。どうしたの?』


 私は、よしっとりあえず今すぐ勉強しよう! という気になって、ハミグの方を向き。


 そういえばあの絵本。


 忘れていたわけじゃない。けれど、なんとなく見れなかった絵本を、今なら見れる気がした。


『ハミグっ……あのっ』


 棚から取り出して、ハミグに、絵本の内容を教えて欲しいと……前のことがあるから、遠慮しつつ聞くと、ぱあっと笑顔で頷いてくれた。


 二人でベッドに寝そべり、本を開いた途端、ぽつぽつと窓を鳴らす小雨が降り始めた。


『これしゅぞくの本だ……あれ? でもぼくがみたのとちょっとちがう』


 ハミグは、張り切って、絵を描いたり身振り手振りで、一生懸命本に書いてあることを教えてくれた。

 私は、聞き取った単語をメモして、繋げて、文章を作った。

 一人でも読めるように。

 リリョスさんにもう一度会えた時に、報告出来るように……。


 小雨は徐々に強くなり、土砂降りになった。

 すっかり雨音に部屋が満たされ、二人してうとうとし始めた頃。


 彼が……帰って来た。


読んでくださりありがとうございます。

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