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第一話 あいきゃんのっとすぴーく

読んでくださる方へ。

「」は日本語。『』は異世界語。ということになっております。ややこしいですが頭に置いて読んでくださるとうれしいです。

ちょくちょく続きを書いていくつもりです。

 転校して少しして異世界に転移した。


 私、森野夜フクは高校二年の二学期という中途半端な時期に


 突然電撃結婚して新妻すぎる新妻と離れ離れになりたくない~と嘆く転勤が決まっていた部下、の代わりに急遽転勤することになった父のせいで転校することになった。


 唐突すぎて、友人に直接別れを言う暇もなく。

 弟と一緒に抗議したけれど、何をどうしても帰るところは新しい家しかない現状。


 徒労を早々に悟った弟は、いつの間にかサッカー部に入って友達を作り、早二ヶ月でエースとして活躍し始めるという裏切り……いや、姉としては誇らしいが、姉弟とは思えない切り替えの早さを発揮した。


 母も文句を言いつつ、敵を作りにくいふっくら体形と、社交性抜群な笑顔で、隣近所と上手くやっている。


 父は……無口だからどうしているのかわからないが、時々お酒を飲んでご機嫌で帰って来る。嫌なことがあったからか、上手くいってるからかは、やはりわからない。


 そして。

 私はというと、転校して半年たった今、部活をするでもなく、友達と寄り道するでもなく、必死に藁を編んでいる。それはもう必死にだ。


 なぜこんなことをしているのかというと、隙間風を防ぎたいからで、けれどこれで防げるのかどうかもわからなく――ではなく。


 なぜこんなことをしているのかというと


 たぶん空風コトリのせいなのだと思う。本当のところよくわかっていないから、こうして何度も何度も経緯を思い起し、考えているのだけれど。


 半年前。


 人生初転校生となった私は、隣の子に教科書を借りることさえ出来ない体たらくだった。


 言い訳でしかないが、前の学校では小学校からの友達と運よく一緒に進学して、特に苦労せず周りに人が居た。高校からの友達も居るには居たが、ほんの数人、友達の友達という繋がりで知り合った子しかいなかった。


 黙っていても周りでわいわいやってくれる場所にじっとしてたら、知らぬ間にコミュニケーション能力が退化していたようだ。


「わたし空風コトリ。コトリって呼んでもいいからね」


 そんな消極的な私に唯一話しかけてくれたのが件の空風コトリだ。


「うん。あっありがとう。私は、その……森野夜フクです」


 私そのときは、フクって呼んで……とノリよく返せなかった。

 せっかく話しかけて貰えたのに、喜びよりも警戒心の方が働いてしまったらしい。たぶん、彼女が一見して今まで関わったことのない人種だったからだ。


 人は見た目じゃないというが、学校という組織の中ではそんなことないと私は思う。


 私の髪は黒のボブ。彼女はフンワリした茶色く長い髪。

 私のスカート丈は規定通り――これは別に真面目にそうしているわけではなく、貰ったまま履いているだけでポリシーもなにもない。彼女のスカートは膝が見える長さ。  

 私は、鏡や櫛やハンカチは一応可愛いなと思ったものを使っているつもりだが、流行りには疎い。彼女のトレンド把握能力は凄まじく、ありとあらゆるものをお勧めしてくる。


「これもう使わないしあげるよ~」


 なんてよく使いかけの小物類をくれたりした。

 

「ありがとう」


「いいよいいよ。フクちゃんいつもよくわかんないの使ってるしさ」


 彼女は、服や化粧品の他にも、恋バナをするのが好きらしかった。会ったその日に聞いた、前の彼氏に貰った指輪と、その前の彼氏がくれた指輪がかぶったという話は彼女の鉄板トークらしい。


 とはいえ彼氏が出来たことない私にとっては管轄外の話で、同意することも出来ず、ひたすら へぇ かそうなの? しか言えないのが問題だった。

 

 嘘でしょ?


 そんなことも知らないの?ありえなくない?っていうかないわ。


 みたいな全否定をたびたびされ、本人は何の気もなく言っているようだけれど……私にとっては、そうじゃなかった。


 そりゃあ自分を基準にすれば周りにいる人はすべて遅れてるか進んでるか、地味か派手になるよ。

 迷惑をかけない程度の協調性があれば自由にしてもいいじゃない。


 なんて考えで、家に帰ってお菓子を食べながら漫画本を読んでゴロゴロしていたのは、世間について行けない自分を正当化しようとしていただけなのだろうか。


 自分から話しかけられないくせに一人が怖い人に、自由なんて言葉はハードルが高すぎるのではないか。


 と。私は、たった数日のうちに、十七年築いてきた自分を否定して、好きな物を好きと言えなくなった。


 このときの私は、彼女をこの学校の基準みたいに考えていたのかもしれない。彼女に拒絶されればもうここにいられないというような極端に狭い視野で、生まれたての雛鳥がごとく、ひたすら彼女の後に従い、似合わない髪型や化粧に精を出し、違和感に気付かないまま一か月。


「いいなって思う人まだ出来ないの?フクちゃん」


 何度目か、そう聞かれて。


「えっ?……えっと」


 つい、グラウンドを走っていたサッカー部の先輩らしき人を指さした。適当に。


「へぇ~そうなんだ。あの人かぁ。私全然協力するから何でもいってね」


 彼女が好きな恋バナのはずが、なんだかどうでもいいような返事だった。

 全然協力とは……しないのかするのかよくわからない。まあ、興味津々になられても困るから、私も 大丈夫大丈夫 とかよくわからないことを言って、話が終わった。


 と思っていた……。


 ここから怒涛の展開というか、風が吹けば桶屋が儲かるというか……いや全然違うか。私にはおよそ理解しがたいことが起きた。


 ――特に好きな人でもない人を指さした一週間後。


 数人だらだらと居残っている放課後の教室で、帰る準備をしている私の前に、空風コトリが、突然知らない男子を連れてきて


「彼氏が出来たの。その……フクちゃん私のマネするのが好きみたいだけど、彼だけは取られたくなくて。勇気だしたんだ」


 そんなことを言った。

 私はポカンと口を開けて、しばらく放心していたが、その知らない男子が、自分が前に指さした人だということには気付いた。


 茶髪によくわからない青いメッシュが入っていたから間違いないとは思うけれど。取られるどうこうとは一体。


「良か……ったね?」


 私は混乱しつつ、辛うじていつも通り返したつもりだったが、彼女は不満気な顔で


「どうしてそんな言い方するの?」

 

 キンキンした声を出した。おかげで少し耳鳴りがした。


「へ……?」


 どんな言い方したか思い出せない。

 ぼーっと二人を見て考えていると、メッシュ先輩が ごめんね君とは付き合えないよ 的な感じで私に謝ってきた。


 何を言ってるんだこの人は?どこに付き合うんだったっけ?


 ハテナだらけの私は いえいえおかまいなくどうぞどうぞ とかよくわからないことを言ったような……。よく覚えていない。


 ふと気が付くと帰路についていた。


 家に帰ると、部活から返って来た早耳な弟にこけにされたので、かなりしどろもどろに事情を説明したら、さっさと誤解解いたほうがいいんじゃね?なんて軽い感じで励まされた。 


 そこでようやく、自分が好きでもない人に振られるという謎状態になっているのだとしっかり理解出来たが、だからといってどうしたものかわからず。

 

 一週間放置した結果。


 クラス中。なんなら学校中に、私が空風コトリの彼氏を奪おうとしたという類の噂が流れていた。


 白い目で私を見る人々の中に、空風コトリの姿もあった。彼女は悲劇のヒロインのような顔をしていた。


 私は、唖然として、また何も言えなかった。


 コソコソ悪口を言われるようになってから一週間ぐらいは、毎日学校へ行くのが嫌で、朝起きると吐き気がした。

 人のうわさも75日と言うが、私のことを誰一人として知らない場所では、黙れば黙るほど悪化するばかりで、例え忘れたとしても良い印象にはなることはない。


 何か言うとしたら空風コトリに対してなのだろうけれど、少し前まで仲良くしていたはずの彼女の態度が豹変した理由というか真意がよくわからなくて、何といえば良いのかわからない。喧嘩がしたいわけではないのだ。


 ストレスが溜まりに溜まった私は、家族とも上手くいかなくなった。些細な事で八つ当たりしてしまい、弟に無視され、母と喧嘩する日々が続いて、父に 一回落ち着きなさい  と珍しく諭された。


 落ち着いたら座っていられないのに。


 教室の席に着いた途端家に帰りたい衝動にかられ、しがみつくようにすべての授業を終え、足早に校門を出た私の名前を――誰かが呼んだ。


「…………」


 無気力に振り返った先には、息を切らした空風コトリが立っていた。どうやら私を見つけて走って来たらしい。


「ねえ。一緒に帰らない?」


 久しぶりに聞いた彼女の声に、私は……無言だった。無視したわけじゃなく、また、呆然としたのだ。


「今日彼部活だしさ。どっか寄り道しようよ」


「えっと……」


 何もなかったみたいに普通に話しかけて来た空風コトリは、ここへ来てからずっと感じていた違和感の総大将のようだった。


 立ち尽くす私と彼女の横を、最近彼女と仲良くしていたクラスメイトたちがわざとらしく仲良さげな様子で通り過ぎて行った。


「あー……」


 それで、なんとなくわかってしまった。


 彼女も私と同じだったんだ。一人になるのが怖くて……一緒に居たくもない人の傍で己を失ってる。いや……少し違う。失ってるんじゃなくて押し付けようとしている。


 なんかもう嫌だ。


 と素直に感じた途端、落ち着けという父さんの言葉が浮かんだ。


 彼女の傍に居れば学校で誰かとグループを作らなければならないときや、お弁当を食べるとき居場所を繕えるだろうが、もうそんなのどうでもいい。


 無理なものは無理だ。もういいよ。なんかもういい。最悪生きてるし。嫌なことあったら部屋で泣くし。

 場所が変わって、傍に人が居なくなって、本当は変えなきゃ駄目かもしれないけど、なんか出来なかった。一歩が踏み出せなかった。

 だったら前と同じようにじっとしてよう。

 ここで出来なかっただけで、どこかで出来るかもしれないし。


 私は目の前のものから手を引いて


「二度と話しかけないで」


 きっぱり言ったつもりが、少し震えた。


 どうして今日まで無視したの?とか、誤解じゃないの?とか、歩み寄る言葉を通り越して、拒絶したのは、感情に任せたせいではない。


 これでお互い様だ。もうどっちが悪いということもない。傷つけ合う関係なんて彼女もいらないはずだ。


 サっと青ざめた顔をする空風コトリに背を向けて、その場を去ろうとしたら


「なんでっ?仲良くしてあげるって言ってるのに?」


 腕を掴まれた。振り返ると、彼女は俯いて肩を揺らし……泣いていた。

 しくしくと泣いて……泣いて……泣きながら発光しだした。


「えっ?ちょっ……え?」


 なにごと?と思ったときにはもう……見知らぬ場所に二人で立っていた。

 いや……違う。二人じゃない。


「…………え…………?」


 目の前の校舎が消えた。


 思わず見上げた先に空はなく、代わりに樹齢何千年かという立派な木の柱が支える緑の天井があった。枝のように伸びた梁には、シャンデリアの骨格に灯篭がひっついたような形の灯がぶら下がっている。


 周りにいた生徒たちも、一瞬で老けたか、まさかのフラッシュモブか。揃いの制服を着たガタイのよいおじさん数人に早変わりして、腰に携えた剣っぽいものを今にも抜きそうな体勢でこっちを睨んでいる。


 一体何がどうなってどうしたの?


 空風コトリが、キャっと声を上げ、掴みっぱなしの私の腕を締め上げた。


 すると

 流木か何かで作った一点ものです。という感じの立派な椅子に座した立派な髭のおじさんが右手を上げて号令し、制服のおじさんたちの構えを解いてくれたようだが


 頭が回らない私は、その立派な髭のおじさんではなく、横に立っている、白いマントを羽織った青年の方を見ていた。


 青年の腰まで伸びたクリーム色のまっすぐな髪は毛先だけこげ茶色で、瞳の色が真っ黄色だ。ものすごく奇抜なのにコスプレっぽさを感じないのは、整った目鼻立ちをしているからだろうか。ザ外国人でもなければ日本人にも見えない。綺麗な青年だった。


 ぼーっと美青年を見ていたら


「やっ……」


 空風コトリが素早く私の背中に隠れた。美青年が、制服のおじさんたちの間を抜けて近づいてきたのだ。

 私はハッとして、身構えた。心臓がドクドク脈打ち、今更警鐘を鳴らし始める。


 あ。あれ?ここどこ?どこここ?あれ?え?


『まさか二人来るとは。音の子は……どちらかなのか?』


 何語っ?

 日本語じゃない。英語じゃない。何かよくわからない言葉で話しかけられ、とにかく何か言わなければと焦った私が発した日本語は


「あのっここどこですか?」「音の子?」


 空風コトリの声とかぶった。

 ヒョイっと私の背中から顔を出した空風コトリと美青年の目が合った。

その瞬間。美青年の表情が明らかにハッとした。


『そなたの言葉……わからないのに……わかる。心に語りかけられているような不思議な感覚だ。そなたが音の子なのだな』


「音の子ってなんですか?私はコトリです……あの……ここは一体」


 空風コトリが怯えた声で、さっき私が言ったことを口にした。


『ここは、ウィンネ国側の大樹だ』


 美青年が発した謎の言語にうなずいて、震えながら涙を零す空風コトリ。

 心配そうな顔をして、彼女の肩にそっと手を置く美青年。


 見つめ合う二人。


 あ。何かが始まる気がする。私関係なさそうだけど。

 

 という予感は的中した。


 ポカンとして、何一つ考えられないまま、馬鹿みたいにことの成り行きを見守っていた私は、二人のやりとりが終わったらしいタイミングで、おじさんに腕をひっぱられ、その部屋を退室した。

 そして、藁で出来たベッドらしきものがずらりと敷き詰められたところへ連れて来られ、放置された。


 空風コトリも、美青年にエスコートされてどこかへ行ってしまったが、ここには居ない。ゴールは同じではなかったようだ。


 何かこうおじさんには申し訳ないが……雲泥の差を感じた。


「ここ異世界なんだって」


 次の日、私の元へ従者っぽい人に案内されてきた空風コトリが、少し疲れた様子でそう言った。私と同じで、家へ帰りたいからだと思ったが何かそうじゃないみたいだった。微妙にいつもの え?そんなことも知らないの? という顔をしていた。

 

「異世界……って……地球じゃないってこと?外国じゃなくて?ここどこ?どうやったら帰れるのか聞いた?言葉通じる人居たの?」


 矢継ぎ早に質問すると、彼女はフっと口元を緩め、微笑んだ。


「やっぱり。わからないんだ」


 彼女の言う通り。私はここに居る人の言葉がわからなかった。


 空風コトリは、耳で聞いている音は私と同じ謎の言語らしいのに、なぜか意味がわかるとかで、実際こちらの人たちと普通に会話してみせた。


「私、この世界を救うために選ばれた音の子っていう存在なんだって。だから言葉もわかるみたい。彼がこっちの世界に召喚したとか言ってた。フクちゃんは……私が腕を掴んでたからついてきちゃったみたい。あ……ごめんね。そういえば話しかけちゃいけないんだよね」


 空風コトリは、一番知りたい情報――帰る方法があるのかどうかや、今後どうすればいいのかなどを言わず、昨日見た美青年に名前を呼ばれて、足早に私の前から消えた。


お疲れ様でした。

読んでくださってありがとうございます。またぜひお願いいたします。

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