朝と女の子
朝と女の子
朝、目を覚ますと枕元に女の子がちょこんと座ってこちらを覗き込んでいる。
黒髪で、おかっぱと言うよりは今時のボブヘアと言った方がしっくりくるような内巻きの髪。
朱色の着物。
くりくりっとした目に血色のいい頬。
いわゆる座敷わらしなのだろうか。
座敷わらしは憑いてる家を裕福にしてくれると聞いた事がある。
うちはそこまで貧乏ではないが、裕福とは程遠い。座敷わらしじゃないのかな。
でも貧乏神や疫病神でもなさそうだな。こんなに可愛いんだし。
「おはよう。」
寝ぼけながら言うと女の子はくすくす笑って枕元から駆けて行く。足音はしない。そのすぐ後に母親が起こしにくる。
朝ごはんを食べる時、女の子は横で食べたそうにこちらを見ている。家族が気づかない好きを見て漬物を乗せたご飯を近づけると嬉しそうに口を持って行く。
すう、と女の子が深呼吸みたいに息を吸うと満足そうに姿を消した。
お茶碗に盛られたご飯に変化はない。炊きたての湯気もそのままだ。
ただ、味がいまいち物足りなくなる。
学校へ行く準備をしている間、女の子の姿は見えない。だが、家を出る時だけは必ず玄関に立って見送ってくれる。笑顔で、控えめに手を振りながら。
だから私は同じ言葉を2回言って家を出る。
1回目はリビングで、2回目は玄関で。
「行って来ます。」
見送ってくれる母親とその横で手を振る女の子に背を向け、家を出た。