7.Eランクに上がりました。
「では、こちらが報酬になります」
このアイラールドの街にたどり着いて、既に一週間が経過している。その間、私とミレーナとアレーナの三人が行っていた事は、ほとんどギルドの依頼だ。
色々な経験をしてみたいと私たちは思っていたのもあって、かたっぱしからFランクの依頼を受けていった。低ランクの依頼はたまっていくことが多いから助かるとラカさんにも感謝された。
侯爵家の令嬢としては、経験する事が出来なかった事を経験する事が出来て私のためにもなった。依頼者の人も優しくて、沢山の事を教えてもらえて、私はこのアイラールドの街の事が本当に大好きになった。
「ケーシィさん、今回の依頼でEランクにあげれますので、上げときますね」
「本当ですか?」
「はい。今度からはDランクの依頼まで受けれますので、頑張ってください」
ラカさんの言葉を聞きながら、私は今度、魔物討伐の依頼をミレーナとアレーナと共に受けてみようかなと考える。宿に戻ってから二人に相談してみよう。
私がのんびりFランクの依頼をこなしていきながら今Eランクになったという事は、私と同じように毎日依頼を受けている二人もそろそろEランクに上がる事が出来るだろうしね。
Fランクの依頼に魔物退治はないから、魔法も最近使っていない。魔物退治で魔法を使うと思ったら何だか今からわくわくしてきた。
魔法を使うのは本当に楽しいの。
前世で魔法というものが存在しない世界で生きていたからこそ、余計に魔法というものに対して特別な感情を持っているのかもしれない。
魔法についてもっと深く知っていきたいと思っているのだけど、この街の規模だと魔法についての本もほとんどない。この世界は前世の世界とは違って、本というものがそんなに出回っているわけでもない。お金をある程度貯めたら、次は図書館のある街に行きたいなとそんな風にも思う。
冒険者ギルドから出て、おなかがすいた私はレストランに向かった。侯爵家に居た頃は、平民の食べる食事はあまり食べられなかった。お忍びでこっそり食べた時、気に入ったのだけど侯爵家という身分だとそれを好んでいるというだけでも咎められてしまうから我慢していた。今はそういう好きなものに対して我慢する必要も全くなくて、正直嬉しい。
この街にやってきてからよくいくレストランに向かえば、顔見知りになったレストランの店主が笑いかけてくれる。
日替わり定食を頼む。今日はハンバーグだ。魔物のお肉とチーズが入ったハンバーグ。口にすると、旨みが広がって、美味しい。貴族ではもうないからマナーも気にせず食べれるのが気楽でいい。美味しくて顔がにやける。
お昼時なのもあって、レストランの中はにぎわっている。一人で来ている人より、数人で来ている人の方が多い。
がやがやしていて、にぎやかでレストランに来るのが好きだ。
私は一人席のカウンターに座っている。右隣の席だけ空いている状況だったのだが、人が座った。あの、ソロで魔物討伐をしていた男の子だと気付いた。綺麗な顔をしているのもあって、一度見かけただけだったけれど記憶に残っていた。
じっと、見てしまったら不審そうな声をかけられた。
「何か用、お姉さん」
「あ、えっと……」
声をかけられて少し返事に困る。どうにか、言葉を発する。
「前にギルドで見かけて、ソロの冒険者なんだなって、覚えてたからちょっと見てしまっていたの」
「ああ、お姉さん、冒険者?」
「ええ。まだ登録したばかりなのだけど、冒険者よ」
「へぇ、そっか」
少年との会話はそれだけである。その後に会話は特になかった。食事を終えてそのままレストランを出た。
ソロの冒険者という事で色々気になっていたのだけど、急に会話する事になってあまり聞きたい事が聞けなかった。宿に戻ってから、ユイレンちゃんにその話をしてみると、
「ああ、それソル君の事だね」
といわれた。
何でもこの街には私たちが来る前から滞在しているらしい。それにしては、あまり見ないといったら基本的に討伐依頼のために街にいない事も多いのだといわれた。まだ十三歳だけど、魔物を簡単に倒せるぐらいの実力者で、剣の腕が凄いらしい。
「十三歳で一人旅しているって凄いわね」
「十一歳の頃から世界をぶらぶらしてるって話だよ」
……その年頃で一人でぶらぶら旅をしているって、どういう事なのだろうか。私も婚約破棄と国外追放で、旅をしているっていう事情があるけれど、あの子もそういう複雑な事情でもあるのだろうかとちょっと気になった。
ユイレンちゃんにあのソル君という少年の話を聞いていたら、ミレーナとアレーナがそれぞれ依頼が終わったらしく戻ってきた。
三人で部屋へと戻って、今後の話をする。
「じゃあ、二人ともEランクに上がったのね」
「うん」
「そうだよ。だから討伐依頼をこなすのは賛成」
ミレーナとアレーナも無事にEランクに上がっていたようだ。そんなわけで次の依頼からは討伐依頼も受けてみることになった。