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その後の冒険者としての日々 ③

「ふぅ……」

 緊張して思わず声が漏れる。

 今、私たちは討伐対象である魔法使い殺しのいる場所を目指して歩いている。

 その出没場所である川は、森の中の険しい道の先にいるので、移動も一苦労である。

 冒険者になってから、色んな場所に赴き魔物討伐も故郷にいた頃よりもずっと上手く出来るようにはなっている。とはいえ、歩きにくい道を歩くのは大変だ。

 ソル君は初見の道でも歩きやすい場所をすぐに把握して、するする歩いていく。

 うん、ソル君はやっぱり凄いなって。それを実感するとソル君が私の恋人であるということが誇らしくなる。同時に頬が緩みそうになる。ソル君に恋してからずっと、私は幸せで仕方がなくてついつい気が緩みそうになったりするのよね!

 普段はともかく冒険者として依頼を受けているときは、ちゃんとしないと!

 私は気を引き締める。

「シィ姉様、どうしたの?」

「なんでもないわ!」

「本当? またソル君に見惚れてたりしてない?」

「……ちょ、ちょっとはソル君がかっこいいなって思ったけれど、それだけよ!」

 アレーナに耳元で言われた言葉は図星だったので、私も小さい声でそう答える。

 私の言葉にアレーナは楽しそうに笑っていた。

 ソル君と恋人になってからより一層、私は見惚れてしまったりするのよね。

「ケーシィ、あの果実って母さんの好物だよ」

「そうなの?」

 しばらく歩いている中で、ソル君が口にした言葉にすぐにそちらに視線を向ける。木の実その赤い果実は、私もスペル王国にいた時に時々食べていた。……そういえば確かに、私がフロネア伯爵領を訪れた時にマリアージュ様がそれを食べているの見たことあったかも。

 そうなんだ。マリアージュ様の好物なんだ。そう思うと、それが私にとっては特別なことのように感じられた。

「ははっ、本当にケーシィは母さんのことが大好きだね。母さんはね、それこそ俺と同じ年の頃には戦場を駆け巡っていて、有名になる前から貴族令嬢なのに色んな場所を徘徊していたって聞いた。散歩が好きで、自然の中で野宿をしていたりよくしていたんだって。子供の頃は何も考えずに受け入れていたけれど、後から色んな貴族令嬢と関わるようになって本当に母さんって色々おかしいんだなって実感したんだ。それでまぁ、この果実って母さんが散歩していた時によくおやつにしていたらしいよ」

「マリアージュ様って本当に昔から規格外だったのね。実際にこの前お会いしてそのことを改めて思ったけれど……本当に底が知れないというか私が思っている以上の方なんだなって思うわ。マリアージュ様って、これを直接食べていたの?」

「そうだね。母さんは直接かぶりついてたみたいだよ」

 直接果実にかぶりつき、満足そうに笑うマリアージュ様がすぐに想像出来て思わず笑ってしまう。

 うん、マリアージュ様って昔は子爵家の子女だったのよね。それでいて今は伯爵家の当主で、大陸一有名な英雄騎士。そういう肩書を持つ方だけど、自然の中でのびのびと過ごしているのも本当に似合う。

「私もやってみようかしら!」

 私がそう言ったらソル君がまた笑う。

 ミレーナとアレーナにもマリアージュ様の好物だっていうと、二人ともかぶりついてみたいって言っていたので四人で仲良くそれを食べることにした。

 魔法使い殺しと戦う直前だというのに緊張感がないかもしれない……と思ったけれど、でも楽しいから仕方がないわよね。それに私たちはちゃんと準備を整えてから此処にきているので、対峙する直前まではこういう感じで問題ないもの。

 早速その果実をもぎ取る。

 私の手にギリギリ収まるぐらいの大きさのそれに、直接かぶりついてみる。

 こういう風にかぶりつくのって初めての経験だから、なんだか不思議な気持ち。でもマリアージュ様がこうやってよく食べてたんだなとそれを考えるだけで特別な行為に感じられる。

「美味しいわ。私にとっても好物になったわ!!」

「シィ姉様、嬉しそうだね?」

「シィ姉様は本当にマリアージュ様が大好きだね」

 私が今日から好物になったなんていうと、ミレーナとアレーナにくすくすと笑われる。

 ソル君も同じようにかぶりついていたのだけど、なんだかそういう何気ない様子も様になっていたわ。ソル君は本当に何をしていてもかっこいいのよね。

 私もこれから見かけたらこうやってかぶりつくようにしようなどと決意する。

 形から近づいても近づけるわけではないかもしれないけれど、やっぱり私はマリアージュ様に憧れてやまないから。

 そうやってゆっくり過ごした後、ようやく魔法使い殺しと呼ばれる魔物が生息する川へとたどり着いた。

 寄り道をしていたのもあってそこに辿り着いたのは昼過ぎになってからだった。

 でもその川は想像以上に静かで、魔法使い殺しの姿が見えない。

「今の時間帯はいないのかしら……?」

 この川の周辺で見られたと言われているけれど、もしかしたら今は違う場所にいるのかもしれない。

 しばらくここで待つのと、周辺を探しに行くのどちらがいいのだろうか。

 そんなことを考えながら、ソル君にどうした方がいいのか聞こうとした時――、

「ケーシィ、いるよ!」

 ソル君の声が響いた。

 慌てて後ろを振り向くと、こちらに迫って来ようとしている毛むくじゃらの魔物――魔法使い殺しの姿が見えて、私は慌てて魔法を行使するのだった。



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