その後の冒険者としての日々 ①
「ケーシィ、母さんから手紙が来るといつも嬉しそうだね」
「だって、あのマリアージュ様からの私への手紙よ! 嬉しいもの」
私は今、マリアージュ様からの手紙をギルド経由で受け取って顔をにやけさせている。
ソル君には笑われてしまったけれど、私は幾ら距離が近くなったとしてもマリアージュ様に憧れてやまないから――こうやって手紙をもらえるだけで嬉しくて仕方がないのだ。
ジェネット王国の、フロネア領を出て二か月ほどが経ち、私たちは四人はまた冒険者として旅をしている。
ミレーナとアレーナは、二人で街を見て回るっていって飛び出してしまったので今は私とソル君二人きりである。
ソル君と恋人になってしばらくたつのに、私は相変わらずソル君と二人きりだと妙に緊張したりもする。
マリアージュ様からの手紙を受け取った後、私たちは食事をしながら手紙を読むことにした。
今、滞在しているこの国は海に面しているというのもあって魚介類が有名みたい。流石に前世みたいに魚を生で食べたりとかはしないみたいだけど、おいしい魚料理が食べられるかと思うと嬉しい気持ちになった。
料理を注文した後、届くまでの間にマリアージュ様から届いた手紙に目を通すことにした。
貴族の中には代筆を書かせる人も多いけれど、マリアージュ様は自分で手紙を書くみたい。とはいっても家族とか親しい人以外には手紙なんて出さないってソル君に聞いた。
私も、憧れのマリアージュ様の親しい人の枠に入っているんだなってそれだけで嬉しい。
今日届いた手紙には、もう一通手紙も同封されていた。
その名前を見て、私は「あっ」と声を出してしまった。
「ケーシィ、どうしたの?」
「これ、お兄様の名前だわ。お兄様、やっぱりマリアージュ様のもとへ来たのね」
同封されていた手紙には、お兄様の名前とお兄様の字が書かれていた。やっぱりお兄様は私のことを気にして、フロネア伯爵領まで来ていたみたい。
「ケーシィのお兄さんかぁ。ケーシィのこと、凄く可愛がっているんだよね」
「そうね。お兄様は私のことを可愛がってくれているわ。でもミレーナとアレーナの言っていたことは少し大げさだと思うけれど……」
お兄様は私のことを大切にして、可愛がってくれている。
だけどミレーナとアレーナはちょっと過剰にそのことを周りに言っている気がするのよね。
「ミレーナたちに話を聞いている限り、大げさには思えないけど。まぁ、挨拶する時に覚悟しておくよ」
「お兄様は私の幸せを望んでくれているから、私の大好きなソル君のことも絶対に認めてくれるわ。だからそんなに身構えなくて大丈夫よ」
私はソル君の言葉にそう言ったけれど、ソル君にはなぜか「ケーシィは可愛いなぁ」って笑われた。
マリアージュ様からの手紙には、お兄様やジガルダンがやってきたことや、なんとスペル王国を飛び出してきたのでこのままフロネア伯爵領に滞在することなどが書かれていた。マリアージュ様が住む場所とか仕事まで全部手配してくれたようだ。本当にマリアージュ様には感謝しかない。
あとはフロネア伯爵家の人たちがどうやって過ごしているかとか色々書かれている。マリアージュ様からの手紙は、こう、色んな所に話が飛んでいく。一般的な貴族の手紙のような堅苦しさもなくて、楽しい文章である。
これで伯爵家当主でいられるのは、やっぱりマリアージュ様が英雄だからだと思った。
「やっぱりマリアージュ様の手紙は、とっても楽しいわ。それにマリアージュ様がお兄様たちのことを面倒見てくださっているの。お礼に何かプレゼントを贈りたいわ」
「じゃあ、一緒に選ぶよ」
「ふふ、ありがとう」
そんな会話を交わしながら次はお兄様からの手紙に目を通す。お兄様からの手紙、なんだかちょっと長いわ。やっぱり心配をかけてしまっていたから仕方ないわね。
お兄様からの手紙は、私への心配の言葉ばかりだ。ちゃんと生活出来ているか、困っていることはないか、辛い思いはしていないかとかいろいろ。あと、スペル王国には報復をしたとかどうのこうの……。そしてなんだか最後の方に、ソル君のことも書かれている。
私に恋人が出来たということで動揺しているらしく、お兄様の字は少し歪んでいた。ソル君がひどいことを言うようなら相談するようにとか、何があっても帰ってくる場所は作っておくとか。……お兄様ってば、本当に心配性ね。
安心させるためにもどれだけソル君が素敵な人かとか、お兄様への手紙に書いておこうかしら。
思わずお兄様からの手紙に笑えば、ソル君に「何が書いてあったの?」と聞かれる。心配に満ちた手紙だったから、安心させるためにソル君のことを沢山書くといったら、ソル君はまた笑っていた。
第四章からエピローグまでの間の番外編です
またお知らせです。
この度、本作が電子書籍化することが決定しました。
詳細は告知出来るようになってからしますので、よろしくお願いします




