14.これからのこと 1
パーティーを終えて、既に二週間ほど経過している。
あのパーティーで、ソル君がフロネア伯爵家に帰ってきている事が周りに正式に認知された。あとソル君の恋人である私と、その妹分たちの存在も。
パーティーでのマリアージュ様の態度から、私やミレーナ、アレーナがフロネア伯爵家にとって大切にされているという事も周りに知られた。それに伴って、私達の元へ訪れる者達が少なからず増えた。フロネア伯爵家というのは、ただの伯爵家とは言えない。
ジェネット王国の英雄が治める家である。《炎剣帝》マリアージュ・フロネアは大陸随一の強者であり、その名は誰もが知る英雄だ。マリアージュ様の夫であるグラン様だって、英雄と呼ばれる存在である。そしてフロネア家の子息息女達はそれぞれ結果を出している。フロネア伯爵家とつながる事を望むものというのは多いのだ。
ソル君の恋人としてここにいる私はともかくとして、ミレーナとアレーナは恋人もいない状況だから接触してくる人はそれなりにいる。中にはパーティーで私に絡んできた方々のように平民であるから近寄ってこない者もいるけれども、マリアージュ様と縁続きになりたい人の方が多いのだ。
「色んな人と会うの楽しいけど、こんないっぱいくると大変!!」
「でも、私やミレーナがこんなにもてもてなのはじめてだよね!!」
「ね、びっくり! スペル王国だと魔法を学んでいるってだけで敬遠ものだしねー」
「うんうん。でも結婚するのならばちゃんと選んでから結婚したいよね。出来たらマリアージュ様とグラン様ぐらいのラブラブがいいなぁ」
「そうだよね。シィ姉様とソル君みたいなラブラブがいいよね」
ミレーナとアレーナはソファに腰かけて、来訪者達に対する事を話していたかと思えば矛先がこちらに向いた。ニヤニヤしながら私の方を二人は見ている。
ミレーナもアレーナも、お気に召す相手はいなかったようだ。妹分の二人にはどんな形でもいいから幸せになってほしい。変な男とかに騙されそうとかは二人に限ってないと思うけれど、もしそんなことがあったら私は相手の男を許さない。
「もう……からかうのはやめてね?」
「ふふ、だってシィ姉様、恋をしてから可愛いんだもん!!」
「本当だよ。私達ってば恋してもシィ姉様みたいに可愛くなれる自信ないもん!!」
なんか自信満々に言われたけど、きっと恋をしたらミレーナとアレーナも可愛くなると思う。恋をしてなくても、私の可愛い妹分達は凄く可愛いんだもの。私の事を慕ってくれて、姉様姉様って話しかけてくれて、私にとって大切な妹分だ。
「絶対にミレーナとアレーナは恋をしたら可愛くなるわよ。変な男性じゃなければ反対しないわ」
「んーでも恋とか想像できないからね」
「私も今は恋とかより、色々楽しみたいかな」
二人はそんな風に言うけれど、恋ってやろうと思って出来るものではないと思う。どちらかというと、こう、自然に落ちていくものだと思う。まぁ、恋人が出来たのも初めてな私が恋について語るのも変かもしれないけど。
「そういえば、シィ姉様、フロネア伯爵家にはあとどのくらいいるの?」
「一か月以上滞在しているよね」
「そうね。そろそろフロネア伯爵家を出て、また冒険者業に戻るのもいいわね。ソル君に一先ず相談してみるわ。二人はこのままとどまりたいとかあるかしら? 私はまだ、いろんなところを見ていきたいけれど」
「私もまだまだ見足りない!」
「それに貴族の屋敷って落ち着かないし」
フロネア伯爵家には、もうすでに一か月以上滞在している。元々私はソル君がマリアージュ様の息子だと知らなかったからこうしてフロネア伯爵家に留まれるなんて考えもしていなかった。ジェネット王国ではマリアージュ様関連のものを見て回ろうとしか考えてなかった。
このままフロネア伯爵家にいる事も出来るかもしれないけれど、まだまだ私は色んな場所を見たいと思っている。マリアージュ様の居る国に向かうというのが、スペル王国を出た後の一番の目的だった。それが叶ったわけだけど、私はまだ冒険したいのだ。
そんな思いを抱えているため、私はソル君に相談しにいった。
「これからどうするか? 俺はそろそろ他の国に行ってもいいかと思っているけれど。ケーシィは、もっと母さんと話したいとか、此処にずっといたいとかある?」
ソル君に相談しにいったら、逆に質問を返された。ソル君はもう出ても問題がないようだった。
「そうね。マリアージュ様の事は幾らでも知りたいとは思うけれど、私は我儘なのか、冒険もしたいの。もっと色々な場所を見ていきたいと思っているもの。それで、時々冒険の合間に此処に来れたらと思うのだけど。出発もすぐでもいいわ」
「じゃあ、準備したら行こうか。ミレーナとアレーナはそれでいいって?」
「ええ。まだまだ色んな所を見たいと言っていたから、いつ出るか言えば二人もすぐ準備してくれると思うわ」
マリアージュ様の事は私は幾らでも知りたいと思う。それは私にとって、マリアージュ・フロネアという存在はそれだけ特別だから。だからこそ、マリアージュ様が娘のようだと言ってくれているだけでも天にも昇るような気持ちになっていたりもする。
でも私は我儘だ。もっと冒険したいという気持ちも確かに抱いている。
私の我儘に、ソル君は笑顔で頷いてくれた。
さて、そんな会話をしている中で、一つの知らせが私とソル君の耳に入った。それは私の『国外追放の取り消しと無罪の公表がされた』というものだった。




