7.ソル君の実家 2
2019/4/24 二話目
ソル君が、ソル様と呼ばれていた。そしてここは、明らかな貴族の屋敷。
……ソル君が屋敷の中へと足を進めていく。私はドキドキしたまま、ソル君の後をを追う。
ミレーナとアレーナは、面白そうに笑いながらついていっている。
ソル君は屋敷に仕えている人たちに挨拶されながら、一つの部屋へと向かった。そこは客室だろうか、ソファや机が置かれた一室だった。
「ケーシィ、ミレーナ、アレーナ、ちょっと此処で待っていてもらっていい? 俺の実家の事についてはちゃんと家族連れてきてから教えるから」
ソル君はそう告げて、私達にソファに座るように促した。
私はそれにただ首を振る。ミレーナとアレーナは、「「はーい」」と元気に返事をした。ミレーナとアレーナに手を引かれて、ソファに腰かける。
私の左右にミレーナとアレーナが座る。ソル君は一旦、部屋から出て行ってしまった。しばらくすると、この屋敷に仕えている侍女がやってきて、私達の前に飲み物を用意してくれた。
「何か御用がありましたら、お申し付けください」
そう言う侍女達は、私達の事を心から歓迎しているといった笑みを浮かべている。
突然来館したのにも関わらず、ソル君の家の侍女達は私達の事をとても快く迎え入れてくれていた。……ソル君が連れてきた人間だからと無条件で信頼されているのだろうか。
というか、ここがソル君の実家? ソル君はこの家の子供? フロネア伯爵領の貴族の出? いえ、もしかしたら貴族とかではなくて、大商人とか、そういうのかもしれないけれど。ただこの屋敷は明らかに平民ではない屋敷だ。
すぐ後ろに控えている侍女達に聞いてしまいたい好奇心も沸いてくる。でも、ソル君が教えてくれると言っていたのだから、我慢しよう。すぐに教えてもらえるはずだもの。それにしても、ソル君はご家族を呼びに行ったのだろうか。
だったらお土産に持ってきたお菓子を出しておかなければ、と思って《アイテムボックス》の中から取り出しておく。
「ソル君の実家大きいね」
「思ったより大きい」
「シィ姉様無言だね」
「緊張してる?」
流石にお客様として来ている中ではしゃぐのは不味いと思っているのか、ミレーナとアレーナはこそこそと小さな声で話している。
二人は緊張した様子が一切なさそうで、少しうらやましい。
「緊張するわよ。……だって、ソル君の実家よ」
二人がこそこそ話しているから、私も小さな声で言う。
次期王妃として教育を受けていた私は、いろんな場面を経験してきた。でもこんなに緊張するのは初めてだ。他国の王侯貴族に会うとかでもこんなに緊張しない。ソル君の実家にいるからこそ、こんなに緊張してならないのだ。
「シィ姉様、リラックスしよう」
「シィ姉様、ソル君が大丈夫って言ってるんだから大丈夫」
「……ええ」
頷きながらもやっぱり、ドキドキして仕方がない。……ソル君が席を外してそんなに時間もたってないのに、一分一秒が長く感じられる。
ソル君、はやく来ないかな。
ああ、でも来たらご家族も一緒に来られるのよね。
はやく来てほしい気持ちと、もう少し心の準備をしたい気持ちが私の中でせめぎあっている。
ソル君のご家族、兄妹が多いと言っていたけれど何人いるんだろうか。ソル君って何番目なんだろう。ソル君のご両親、仲が良いと聞いているけどどんな方なんだろうか。やっぱりソル君にそっくりだったりするんだろうか。
……ソル君のご両親だけじゃなくて、ご兄弟までやってくる可能性もあるわね。嫌われなければいいのだけど。本当に、時の進みが遅く感じられるわ。ソル君のご家族がやってきたらまずなんていうべきだろうか。
ソル君とお付き合いさせてもらっているケーシィです、ってとりあえず挨拶をする。緊張はするけれど、笑みを浮かべて挨拶をするっていうだけでも最低限の目標にしよう。
「あら、シィ姉様無言になっちゃった」
「緊張してるシィ姉様、可愛い」
「ソル君、もうすぐ来るかな?」
「ソル君のご家族もソル君みたいに面白いのかな」
私が色々考え込んでしまっている間も、ミレーナとアレーナは楽し気だ。
そうしている間に、扉の外が騒がしくなってきた。……ソル君が戻ってきたのだろうか。座ったまま挨拶をするのもどうかと思って、私は立ち上がる。ミレーナとアレーナも一緒に腰を上げた。ドキドキしながら扉の近くに立つ。
緊張して、少し下を向いてしまう。そのタイミングで、扉がガチャっと開かれた。
そして、次の瞬間――――、
「きゃー、何この子、凄い美人なんだけど!! 胸大きいし、何だか戦とかの女神様みたいな感じだよね!! 真っ赤な髪でなんかすごい派手目の美人さん!!」
そんな叫び声と共に、急に思いっきり抱きつかれた。
興奮したように抱き着いたその人は、「いきなり抱き着かない」というソル君の声と共に私の体から引き離された。
――そして、ようやくその人の顔が、ちゃんと見えた。
私はその瞬間、固まった。
「――マリアージュ・フロネア、様?」
その人は、私が憧れてやまない人だった。資料館で見たお姿とそっくりな人がそこにいた。




